Clock and Watch Escapements:古い脱進機の製作と修理をつなぐ技術書#
Clock and Watch Escapements は、W. J. Gazeley(William John Gazeley)が、機械式時計の脱進機の製作・修理・調整を扱った英語の技術書である。1956年に初刊され、振り子時計と携帯時計の双方を対象にする。機構の形だけでなく、それを作り、直すための工具や仕上げも説明する点に特徴がある。2 3
なぜ古い機構を詳しく扱うのか#
脱進機は、歯車の回転を区切りながら、振り子やテンプの振動を続けるための力を補う装置である。テンプは携帯時計の中で往復回転する調速部品で、一定の周期を作る役割を担う。
Gazeleyは序文で、前著 Watch and Clock Making and Repairing から脱進機の説明を深めた理由を示す。新作への採用が減った機構も、使われている時計の修理には必要であり、手製部品の需要が減っても交換部品を作る仕事は残る、という問題意識である。1
これは新しい方式の優劣を競う本というより、既存の機械を維持するための知識を残すという著者の目的を示している。前著への参照を含むため、単独の機構名だけを調べる場合にも、工具や加工の基礎に戻って読む関係にある。1
原理の説明を、故障の見分け方へつなげる#
冒頭のヴァージ脱進機では、王冠状の歯車と、軸に付いた二つの爪が交互に作用する。その説明から、爪が歯を離して次の爪が受け止めるまでの空走、すなわち「ドロップ」の点検へ進む。左右の差と、歯車が一周する途中での変化を分けて調べるところに、作動と診断を結び付ける書き方が表れている。1
読者にとっての要点は、同じ「動きが不揃い」という症状でも、部品の位置関係と歯車自身の状態を区別する必要があることだ。原理図を眺めるだけでなく、何を観察すれば不具合を切り分けられるか、という問いにつながる。
時計と携帯時計、工具と仕上げ#
目次は大時計側と携帯時計側の二部に分かれる。前半にはヴァージ、反動式、デッドビート、重力式など、後半にはシリンダー、デュプレックス、レバー、クロノメーターなどが並び、末尾に工具と研磨の項目がある。これは確認できた構成であり、全章の工程を通読した要約ではない。1
Henry B. Friedの1982年の書評は、各方式の製作法に加え、特殊工具、修理・調整、研磨・仕上げ、幾何学的な形状まで扱う点を挙げている。Friedは著者を、特殊な脱進機を備えた時計の製作者・修復家であり、Northampton College of Advanced Technologyで講義した人物として紹介する。実務と教育の経験が結び付いた本として受け止められていたことが分かる。2
専門家の評価と、後年の参照#
Friedは本書を高く評価する一方、図93・161と表題に軽微な誤りがあり、1982年の復刻でも未訂正だと指摘する。書評は具体的な訂正図を示しておらず、後年刊で修正されたかもここでは確認していない。評価の高さと、個々の図面を検証する必要は両立する。2
本書が修復の現場で参照された例もある。Joseph G. Baierは1985年の複雑時計修復の参考文献案内で、本書を「技術的背景」に分類した。これは本書そのものが複雑時計の全機構を解説するという意味ではなく、修復に必要な基礎知識を得る参照先として位置付けた例である。6
Archie B. Perkinsの1995年の修復連載でも、振り石を取り付けるローラーの穴加工の解説末尾に、本書pp.177–184が挙げられる。振り石は、テンプ側とレバー側の間で力や動きを伝える小さな石である。引用は、脱進機を作動図として理解することが、実際の小部品と工具の加工につながる一例になる。ただし、Perkinsの工程をGazeleyの本文と同一視することはできない。7
書誌と、版・刷の区別#
正式書名は Clock and Watch Escapements、著者はW. J. Gazeley、原語は英語である。確認した刊行記録を次にまとめる。
| 刊行記録 | 出版者・識別子 | 確認できた範囲 |
|---|---|---|
| 1956年初刊 | London:Heywood。NCID BA2379126X。 | CiNii Booksは前付vii+本文294頁、23cmと記録する。 |
| 1973年刊 | London:Newnes-Butterworths。ISBN 0-592-06513-8、NCID BD07209507。 | 注記は “2nd impression”。第2刷と読み、第2改訂版とはしない。前付vii+294頁。 |
| 1982年米国刊 | New York:Van Nostrand Reinhold。ISBN 0-442-22892-9、LCCN 81052774。 | 公開原奥付とInternet Archiveの記録を照合。Friedの書評は1956年版の復刻、294頁・192図とする。 |
| 2005年刊 | London:Robert Hale。ISBN 0-7090-4738-X、NCID BA86491271。 | CiNii Booksは前付vii+294頁と記録し、1956年初刊を注記する。 |
1956・1973・2005年刊は公的目録、1982年刊は原奥付・所蔵記録と書評を根拠にした。本文頁数が同じでも、すべての刊行本の本文や図が完全に同一とは断定できない。初刊年、復刻年、刷の表示を分けて参照する必要がある。1 2 3 4 5 8
所蔵と確認範囲#
日本国内の所蔵は、CiNii Booksの各書誌から大学図書館の目録へ進める。Internet Archiveには1982年刊の書誌・デジタル化記録があるが、アクセス制限の表示もあり、記録の存在を自由な全文公開と読み替えることはできない。3 4 5 8
原書を直接確認した範囲は、公開スキャンの扉・奥付・目次・序文と、冒頭のヴァージ脱進機の説明・点検箇所である。全章の通読、各刊行本の逐語比較、後年刊の図訂正、日本語訳の有無の確定は行っていない。幅広い内容については専門家の書評と区別して説明した。
購入先#
英語ハードカバー(ISBN 9780709047384)です。Amazonの商品情報は1999年刊と表示しており、上記の2005年の書誌記録とは区別してください。版・言語・出品条件はリンク先でご確認ください。
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参考文献#
- W. J. Gazeley, Clock and Watch Escapements, Van Nostrand Reinhold, 1982。扉・奥付・目次・序文vii、本文冒頭pp.3–6。公開スキャン閲覧ページ。投稿資料の配布許諾は未確認、書影・図版は転載しない。閲覧日:2026年11月7日。
2. Henry B. Fried, “Book Review”, Horological Times, December 1982, p.24(PDF第26頁)、AWCI公開PDF。閲覧日:2026年11月7日。
3. 国立情報学研究所、CiNii Books:Clock and watch escapements, Heywood, 1956。閲覧日:2026年11月7日。
4. 国立情報学研究所、CiNii Books:Clock and watch escapements, Newnes-Butterworths, 1973。閲覧日:2026年11月7日。
5. 国立情報学研究所、CiNii Books:Clock and watch escapements, Robert Hale, 2005。閲覧日:2026年11月7日。
6. Joseph G. Baier, “Complicated Watches: A Selected List of References”, Horological Times, November 1985, pp.18–19、AWCI公開PDF。閲覧日:2026年11月7日。
7. Archie B. Perkins, “Technically Watches — Antique Watch Restoration”, Horological Times, January 1995, p.34の本文・参考文献、AWCI公開PDF。閲覧日:2026年11月7日。
8. Internet Archive, Clock and watch escapements, 1982。書誌・アクセス条件の参照先。閲覧日:2026年11月7日。