『Essai sur l’horlogerie』は、フェルディナント・ベルトゥーが1763年に刊行した、全2巻のフランス語の時計技術書です。日常の計時、天文学、航海に関わる時計学を、実験で確かめた原理に基づいて扱うという目的が、原題の副題に示されています。1

扉頁:Ferdinand Berthoud, 1763。ETH-Bibliothek Zürich所蔵、Rar 4674。e-rara公開原本、Public Domain Mark。画像はデジタル原本の扉頁画像。
書誌情報#
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 原題 | Essai sur l’horlogerie |
| 著者 | Ferdinand Berthoud(フェルディナント・ベルトゥー) |
| 刊行 | 1763年、パリ |
| 出版者 | J. Cl. Jombert、Musier、Ch. J. Panckoucke |
| 言語 | フランス語 |
| 構成 | 全2巻、銅版図版を収録 |
| 本稿で参照した原本 | ETH-Bibliothek Zürich所蔵、Rar 4674、e-rara公開本 |
書誌事項は所蔵館の目録と第1巻の扉頁に基づきます。副題には日常・天文・航海での用途が並び、職人と愛好家へ捧げる旨も記されています。1
何を知るための本か#
本書の中心にあるのは、時計の部品がどう働き、どう作れば時刻をより正確に測れるのかという問いです。時計の名品を写真で眺める本ではなく、機構・工具・加工・実験をまとめた18世紀の技術書です。副題の「実験で確かめた原理」は、その姿勢を表しています。12
全2巻は、次のように捉えると見通しがつきます。2
| 巻 | 内容をつかむための見方 | 扱うものの例 |
|---|---|---|
| 第1巻 | 時計のしくみと、部品を作る仕事 | リピーター、均時差表示、脱進機、歯切り機、フュゼ、工具と加工 |
| 第2巻 | 時計の進み遅れを、計算と実験で調べる | 歯車の計算、振り子、熱膨張、テンプとヒゲゼンマイ、摩擦と油、天文時計、航海時計 |
ここでいう脱進機は、歯車の回転を少しずつ解放し、振り子やテンプに動力を渡すしくみ。テンプとヒゲゼンマイは、回転する輪と細いばねを組み合わせて一定のリズムを作る部分です。機構の名前を覚えるだけでなく、そのリズムを何が乱すのか、という視点で章をたどれます。
具体例:太陽の時刻と時計の時刻をどうつなぐか#
身近な入口になるのが均時差です。太陽を基準にした1日の長さは、季節を通じてまったく同じではありません。日時計の示す時刻と、1日を等しい24時間として刻む時計の時刻には差が生まれます。均時差表示は、その差を扱う機構です。5
メトロポリタン美術館が所蔵するベルトゥーの天文時計(1768〜1770年頃)には、輪郭を不規則にしたカムという部品があります。カムの縁をなぞる部品の動きによって、太陽の時刻を示す針を調整します。同館は、このしくみと『Essai』の説明を結び付けています。ただし、同館が掲載する本の図版は1786年の第2版であり、本稿の1763年版と区別が必要です。5
この例からは、本書が単に「正確な時計を作る」だけでなく、何を時刻の基準とし、その違いを機械でどう表すかまで扱う技術書であることが見えてきます。
職人の知識を本で共有するという背景#
表題にある artistes は、この文脈では時計を作る技術を持つ職人を指します。amateurs には、機械のしくみを理解し評価しようとする愛好家も含まれます。時計師向けの実務と、時計の原理を知りたい読者の関心が、同じ本に置かれているわけです。4
歴史研究者Rossella Baldiは、本書を、工房内にとどまりがちだった知識を公開する試みとして説明しています。図面は『百科全書』にも関わった技術図の専門家Louis-Jacques Goussier、版刻はPierre-Philippe Choffardが担当しました。図版は装飾だけではなく、文章では伝えにくい部品の形と関係を示す役割を担っていました。4
『航海時計論』とはどう違うか#
本書の第2巻には航海時計も登場しますが、対象は日常用・天文用・航海用の時計学全体です。一方、10年後の『Traité des horloges marines』(1773年)は、船で使う精密時計をどう設計・製作・試験するかに主題を絞ります。23
時計づくりの広がりを知る入口が『Essai』、航海という条件のもとで精度を保つ問題を追う資料が『Traité』、という順序で関心を整理できます。原本はフランス語の歴史的技術書なので、まず図版と章名で調べたい機構を見つけ、対応する説明へ進む方法が考えられます。
原本の閲覧と版の確認#
ETH-Bibliothek Zürichのe-rara公開本で、2巻の画像と目次を閲覧できます。目次の章名から、工具、脱進機、温度補償、航海時計など関心のある箇所へ移動できます。12
本稿の書誌と章立ては1763年の公開原本を対象としています。複製本や別の版を探す場合は、刊年、収録巻、図版の有無を確認すると、紹介対象との取り違えを避けられます。
紹介の確認範囲#
本稿は所蔵館の書誌・公開目次・扉頁に、英語の時計史解説と美術館の実物資料解説を合わせた紹介です。原著の構成と後世の解説を区別し、1786年版に関する説明には版を明記しました。全巻読了に基づく感想や、現代の製作・修理手順としての評価は含めていません。
購入先#
以下は1763年刊の原本ではなく、Hachette Livre BnFによる2016年刊のフランス語復刻版です。各巻別の商品です。復刻版の印刷品質や折込図版の再現状態は本稿では確認していません。
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出典#
- ETH-Bibliothek Zürich / e-rara, Essai sur l’horlogerie(1763年)(書誌・所蔵・利用条件、第1巻扉頁、閲覧日:2026年10月16日)。
2. e-rara, Essai sur l’horlogerie 公開目次(第1巻・第2巻の章立て、閲覧日:2026年10月16日)。
3. Zentralbibliothek Zürich / e-rara, Traité des horloges marines(1773年)(比較対象の書誌、閲覧日:2026年10月16日)。
4. Rossella Baldi, “The Art of Horology,” Ferdinand Berthoud(2017年8月22日)(英語。読者層、知識の公開、GoussierとChoffardの図版制作。現在の同名ブランドによる歴史解説として参照、閲覧日:2026年10月16日)。
5. The Metropolitan Museum of Art, Longcase astronomical regulator, 1982.60.50(英語。均時差の説明、カムと太陽時針、1786年第2版図版との関係。注22の参照先も1786年版、閲覧日:2026年10月16日)。