Making Time:徳川日本の天文計時

Making Time:徳川日本の天文計時#

Making Time: Astronomical Time Measurement in Tokugawa Japan は、徳川時代の日本で、時を測る方法と時間についての考え方がどう変わったかを論じるYulia Frumerの歴史書である。和時計を西洋時計へ置き換える技術史だけでなく、天文学者の観測や計算が、均等に流れる普遍的な時間という観念を育てる過程に焦点を当てる。1

不定時法を、社会が維持する仕組みとして見る#

本書の出発点は、一時の長さが季節によって変わる不定時法である。公開されている第1章の抜粋では、昼と夜をそれぞれ六つに分けるため、一時を現代の「2時間」と固定して訳すことはできないと説明する。また、時刻の十二支による呼び方と、九・八・七・六・五・四を昼夜で繰り返す数え方を区別している。2

その説明は、日の出と日の入りを見れば時刻が自動的に決まる、という理解にも問いを投げ掛ける。夜明けの明るさは連続的に変わり、地形や天候も違うため、どの瞬間を昼の始まりとするかには約束が要る。第1章は、天文計算で用いる一日を百等分した単位と、季節で変わる一時を分け、等しい単位を使う計算が不定時法の運用を支えたことを示す。2

物の使い方からも同じ問題を扱う。香を燃やして経過を読む香時計では、時刻の目印の間隔を変えることで季節の違いに対応できた。ここでは、時間制度、計算、道具の調整がつながっている。Frumerが問うのは、機械時計があるかどうかだけでは捉えられない、時間を定めて共有する人々の行為である。2

二挺天符の機構と櫓型の台を持つ江戸時代の和時計

図1:江戸中期の二挺天符櫓時計(国立科学博物館展示)。本書の主題に関わる和時計の例。写真:Momotarou2012。出典:Wikimedia Commons。ライセンス:CC BY-SA 3.0。変更:縮小・JPEG再圧縮のみ。加工後写真も同ライセンス。

観測から地図・航海・時計製作へ#

全体は序論、八章、結論と付録からなる。章別要旨で見ると、前半の時間制度と和時計の設計から、天文学、測量・航海を経て、時計師と明治初期の改革へ進む構成である。和時計の形の違いと、時間をどのようなものと考えるかという問題を、同じ歴史の中に置く。1 3

まとまり扱う問いと具体例
第1・2章不定時法をどう運用し、その時間をどう表示するか。時間制度と、和時計の文字盤・機構の多様化を扱う。
第3〜5章天文観測の時間が、地上の位置や海上航路とどう結び付くか。渋川春海、麻田剛立の学統、伊能忠敬の測量、本多利明の航海構想が関係する。
第6・7章専門家の時間観がどう伝わるか。加賀の遠藤高璟と、田中久重ら時計・からくりの製作者が事例になる。
第8章・結論西洋式の時間が進歩や啓蒙と結び付けられ、社会全体の規範として選ばれる過程を論じる。

この表は公開目次と章別要旨から整理した範囲であり、各章本文を通読した要約ではない。3

天文観測で時刻を決めることは、空に見える天体の位置を、角度や数値へ置き換える作業でもある。第3章の要旨は、観測と数学の変化が時間観の変化に関わると説明する。第4・5章では、異なる土地を観測時刻で結ぶ測量や、クロノメーターという航海用精密時計を使う構想へ対象が広がる。これらは、道具が精密になれば社会の時間観も必ず変わる、という単純な因果関係にせず、何をするための道具なのかを確かめるための事例になっている。3

研究の背景と、説明できる範囲#

本書の刊行時紹介で、Frumerはジョンズ・ホプキンズ大学の東アジア科学技術史を研究する研究者として紹介されている。時計の技術移転を、受け入れる側の慣習や価値観と結び付けて考えることが本書の中心にある。3

Sara J. Schechnerは『Physics Today』の書評で、社会が技術を必要性だけでなく価値観や活動に沿って形作る点に、本書の意義を見ている。一方で、これは時計の機構や製作者の細部を網羅する専門書ではなく、科学史・技術史・日本文化史に向けた本だと位置付ける。日時計など、時刻を知るための物質文化をさらに広く扱う余地にも言及する。4

別の論点は、誰の時間観を説明しているかである。橋本毅彦は『East Asian Science, Technology, and Medicine』の書評で、主な対象が天文学を学んだ人々であることを指摘する。庶民が実際にどう時計を使い、時刻を理解したのか、公式の時制が現場でどれほど正確に運用されたのかは、なお調べるべき問題だという。和時計の普及時期についても、現存品の製作者・所有者・来歴が不明な場合が多い点を挙げる。5

したがって、本書の天文学者や製作者の事例を、そのまま徳川社会の全員に共通する経験へ広げることはできない。時間についての知識を作る場と、その知識が生活の中で使われる場を分けて読む必要がある。4 5

書誌・刊年の表示・参照先#

項目確認できる情報
原題Making Time: Astronomical Time Measurement in Tokugawa Japan
著者Yulia Frumer
出版社・言語The University of Chicago Press、英語、1冊
紹介対象CiNii Booksが2018年刊として記録する冊子版
冊子版ISBN978-0-226-51644-8
電子版ISBN978-0-226-52471-9
電子版DOI10.7208/chicago/9780226524719.001.0001
ページの記録出版社は272頁。CiNii Booksは本文270頁・図版8頁と記録する。

書誌は出版社、BiblioVault、CiNii Booksで照合した。1 3 6 刊年には表示の違いがあり、出版社ページは©2017、BiblioVaultは2017年、CiNii Booksと許諾付き公開抜粋は2018年を表示する。この違いだけを根拠に、2017年版と2018年改訂版という別の版があったとは判断できない。ページ数の記録も出典ごとの表記を保持している。

国内の所蔵館はCiNii BooksのNCID BB26234041から確認できる。第1章の一部はAbeBooksの書誌ページに出版社許諾の抜粋として掲載され、BiblioVaultでは章ごとの要旨を参照できる。所蔵目録や要旨の公開は、原著全章の無料公開を意味しない。2 3 6

この紹介で直接確認した原著本文は、第1章の公開抜粋「Hours」「Seasons」「Calendars」の途中までである。全体の構成は公開目次と章別要旨、歴史研究上の位置付けと限界は独立した二つの書評で照合した。原著全章、収録図版一式、注記の原史料、翻訳・異版の全文対照は確認範囲に含めていない。

購入先#

英語ハードカバー版(2018年、ISBN 978-0-226-51644-8)の商品ページ。版・出品状況はリンク先で確認できる。

AmazonでMaking Timeを見る(広告)

Amazonのアソシエイトとして、私の時計学は適格販売により収入を得ています。

参考文献#

  1. University of Chicago Press, Making Time, 書誌・紹介・目次。閲覧日:2026年11月7日。
  2. Yulia Frumer, Making Time 第1章公開抜粋(AbeBooks), “Hours”, “Seasons”, “Calendars”の途中まで。University of Chicago Pressの許諾表示あり。閲覧日:2026年11月7日。
  3. BiblioVault, Making Time, 書誌・刊行時著者紹介・全章要旨。閲覧日:2026年11月7日。
  4. Sara J. Schechner, “Telling time in Tokugawa Japan”, Physics Today, 72巻6号、2019年、57–58頁、DOI: 10.1063/PT.3.4229。閲覧日:2026年11月7日。
  5. Takehiko Hashimoto, Review of Making Time, East Asian Science, Technology, and Medicine, 50巻、2019年、180–183頁。閲覧日:2026年11月7日。
  6. 国立情報学研究所、CiNii Books: Making time、NCID BB26234041。閲覧日:2026年11月7日。