Practical Watch Repairing —— 図と工程で学ぶ時計修理

Practical Watch Repairing —— 図と工程で学ぶ時計修理

『Practical Watch Repairing』は、Donald de Carleが、時計の部品を観察し、故障を調べ、必要な修理を行うために著した英語の技術書である。作業台や工具の準備から、歯車の噛み合い、洗浄と注油、歩度の調整へと対象を広げる。手順を図と結び付け、初歩的な操作にも説明を与えるという執筆方針が、その構成を支えている。12

何を扱う本か#

本書が中心に置くのは、機械式時計の修理である。動力ぜんまいから歯車列を通じて伝わる力を、脱進機が少しずつ解放し、調速機の振動が進み方を定める。その各部品の働きを理解し、状態を確かめることが修理の前提になる。目次では、分解と脱進機の検査、歯車列と香箱、洗浄・注油、ひげぜんまいと歩度、旋盤や受石の作業などを扱う。後期の構成には防水ケース、歩度測定機、Bulovaの音叉式電子時計も含まれる。13

第1章は、実習と理論を結び付ける学習の考え方を示す。これは、工具を買ってすぐ作業ができるという意味ではない。著者は、部品の形と機能に習熟すること、継続して学び練習することを求めている。1

歯車の噛み合いを調べる#

2020年Crowood電子版の公開試読では、歯車とかなの噛み合いを、機構から取り出して確かめる説明を読める。かなとは歯数の少ない小歯車である。著者は四番車とガンギかなを例に、機構内の軸間距離を検査用工具に移し、歯が相手の歯へどのように入るかを観察する方法を説明する。部品を眺めるだけでなく、実際の位置関係を再現して診断する教え方である。4

続く図119〜121では、噛み合いが浅い場合の歯車の拡径と、その後の歯形を整える工具を扱う。打撃を使う方式と、鋼のローラーの間を通す方式を区別し、後者については歯形を変えずに済む一方、歯車へ痕跡を残すという不利も挙げる。一つの方法を万能とせず、作業の結果と代償を併せて示す具体例になっている。4

注油する場所と量を分ける#

同版の図168は、時計の注油箇所を示す図である。Wは携帯時計用油、Cは置時計・掛時計用油、Oは注油しない箇所を表し、X・XX・XXXで油差しに取る量を区別する。図の上に部品の位置と記号を重ね、どこへ何をどの程度与えるかを対応させている。4

隣接する説明は、機構の大きさによって量を加減するとしており、図の指示をすべての時計へ一律に当てはめてはいない。これは本書の歴史的な注油説明の紹介である。ここで用いる油の分類や量の表示を、現在の個々の機械に指定された潤滑剤や整備仕様と同一視することはできない。4

図解を重視した成立背景#

著者の1946年5月付序文によれば、本書は1943年6月から1945年12月まで『Horological Journal』に連載された内容を基礎とする。企画を促したArthur Tremayneは、予備知識を当然とせず、単純な操作にも説明を与える教科書を求めた。作図はE. A. Ayresが担った。連載は、文章と図の誤りや不足について批評を受け、訂正する機会にもなったという。1

この成立事情は、歯車の検査工具や注油表のように、説明を図の具体的な位置へ結び付ける構成と対応している。図の多さだけで技法の適用範囲が決まるわけではないが、手と目を使う作業を伝えるために図を用いた本であることが分かる。14

改訂・再刊・翻訳#

版を選ぶ際には、再刊商品の発売年と、著者が内容を改訂した時期を分けて見る必要がある。第二版序文は1953年8月付で、特に歩度測定器に関する情報を更新したと述べる。第三版序文は1969年6月付で、音叉式電子時計の章を加え、歩度測定機の章を改訂したと説明する。1969年のN.A.G. Press刊は、図書館の共同目録でも第3版として記録される。15

年・時期確認できる出版・改訂上の位置
1943年6月〜1945年12月『Horological Journal』に連載。著者序文による。
1946年著者が第二版序文で刊行以後の増刷に言及する起点。初版序文は同年5月付。
1953年8月第二版序文。歩度測定器関係の更新に言及。
1969年N.A.G. Pressの第3版。序文は6月付。音叉時計章の追加と測定機章の改訂。
1996年6月Crowoodのハードカバー商品。ISBN 9780719800306、仕様336頁。
2008年9月Skyhorseの紙版。ISBN 9781602393578、出版社仕様336頁。図書館は第3版・viii+328頁と記録。
2020年2月Crowoodの電子版。ISBN 9780719831065。

1996年、2008年、2020年という表示だけから、各時点に全面的な技術改訂が行われたとは判断できない。電子版の画面上のページ区分と紙版のページ数も区別する必要がある。236

翻訳については、1953年の第二版序文で著者自身がイタリア語訳とスペイン語訳に言及している。本書が英語圏以外へも伝わっていたことを示す記述だが、初訳年、訳者、各翻訳版の構成をこの一文だけで確定することはできない。1

教育と修理現場での参照#

1968年のイリノイ大学の時計・微細精密技術教育プロジェクト報告は、学生用の参考図書館に複数冊ずつ用意した本の一つとして本書を挙げる。準備段階の参考文献にも掲載されている。特定の教育活動で利用された記録であり、全米の共通教科書だったことを意味しない。7

2018年の『Horological Times』では、作業台の照明を論じる記事が2008年版3頁を参照する。一方、同号のJack Kurdzionakは、de Carleが針の取り外しを説明する一方、適切な取り付け方の説明を欠くと批評している。これは具体的な作業についての実務家の指摘である。批評箇所に対象版は明記されず、本書のすべての版に共通する欠落と断定することはできない。8

本書の位置づけは、後世の称賛の言葉だけでなく、こうした教育上の利用、現場での参照、個別の技法への批評から捉えられる。機械式時計の修理を図と工程で伝える20世紀の技術書として、版と説明の対象を意識して参照することが重要である。78

書誌と参照範囲#

正式書名は Practical Watch Repairing、著者はDonald de Carle、原著言語は英語。2008年Skyhorse紙版はISBN 9781602393578、全1冊で、図書館目録は第3版・viii+328頁と記録している。図書館の所蔵目録、出版社の商品紹介、出版社配信の電子版試読が参照先となる。23

本記事では、Skyhorse配信の公開試読にある各版序文、第1章と第2章前半、Crowood電子版の歯車検査・修理と注油図の公開箇所を本文・図版の確認対象とした。その他の章の範囲は目次で確認しており、全巻の技法を通読して評価した紹介ではない。版ごとの書誌と、教育報告・専門誌の参照記録を併せている。

参考文献#

  1. Donald de Carle, Practical Watch Repairing, Skyhorse電子版、各版序文、第1章、第2章前半。Everandの出版社配信試読。2026年10月17日閲覧。

2. Skyhorse Publishing, Practical Watch Repairing 商品情報。2008年紙版の刊行日・ISBN・頁数。2026年10月17日閲覧。

3. Richland Library, Practical Watch Repairing 書誌・目次。2008年、第3版。2026年10月17日閲覧。

4. Donald de Carle, Practical Watch Repairing, The Crowood Press電子版、2020年。Google Books公開試読の画面頁119〜121、166〜167。歯車修理と図119〜121、注油表・図168。画面頁は紙版の頁と同一視しない。2026年10月17日閲覧。

5. WorldCat, Practical watch repairing, 1969, 3rd ed., N.A.G. Press。2026年10月17日閲覧。

6. The Crowood Press, Practical Watch Repairing 商品情報。ハードカバーと電子版のISBN・仕様。2026年10月17日閲覧。

7. Jerry S. Dobrovolny, Hugh G. Wales, William O. Smith, Jr., Horological and Micro-Precision Project, Final Report, University of Illinois, January 1968, pp.26–27, 32。2026年10月17日閲覧。

8. AWCI, Horological Times, Vol.42, No.4, April 2018, p.16、Jack Kurdzionak “From the Workshop”, pp.39–41。2026年10月17日閲覧。