The Science of Clocks and Watches:時計の精度を物理から考える#
The Science of Clocks and Watches は、A. L. Rawlings(Arthur Lionel Rawlings)が、時計の動きと精度を物理の原理から説明した英語の技術書である。振り子やテンプの振動、脱進機が与える力、摩擦などを結び付けて扱う。1944年の初版、1948年の増補された第2版を経て、1993年には英国時計学会(British Horological Institute、BHI)が専門家の追記を伴う第3版を刊行した。1 2 3
修理の手順から、その理由へ#
時計は、動力を持つだけでは一定の時を刻めない。往復運動を繰り返す振り子や、往復回転する輪であるテンプが周期の基準になり、脱進機が歯車の進みを区切りながら振動に力を補う。どの部分で力を加えるか、振れ幅が変わるとどうなるかが、時計の進み遅れに関わる。
1952年1月の『Scientific American』は、手製のシンクロノーム時計を扱った記事の補足として、第2版を紹介している。そこでは、製作・修理の作業手順よりも物理的説明に重点を置く本と位置付けられた。電気振り子時計の章もあるが、主な対象は機械式時計で、振動、脱進機とその誤差、航海用精密時計、歯車列、ばね、摩擦、打鐘などへ範囲が広がる。2
このまとまり方から分かるのは、精度を一つの高性能部品だけで考えないという視点である。歯車が針を動かす仕組みと、時を刻む振動の安定性は別の問題であり、動力を伝える過程も振動を乱しうる。本書は、機構の名前を覚えるだけでなく、時計の動きがどのように時間の誤差へ結び付くかを調べるための本として紹介されている。2
米国のNational Bureau of Standardsも、1950年4月の文献案内 Modern Books on Horology で、第2版を技術書の部に収録した。同案内は時計師、収集家などを対象とする英語の書籍一覧であり、掲載は当時の参照先を示す。ただし、個々の説明や数式の正しさを認証したものではない。4
1993年第3版は何を加えたか#
第3版の特徴は、旧著と後年の知見を区別して読める編集である。Henry B. Friedの1994年の書評によれば、専門家の追記は章末に別の書体で置かれ、末尾の太字のイニシャルで寄稿者を示す。図も描き直された。George Danielsの脱進機に関する寄稿や、J. Duncan Weaverによる電子・水晶時計から原子時計までの補足が加わったという。3
Friedは、この再刊をBHIの時計科学の教育構想と結び付けて説明する。ただし彼自身はRawlingsの友人であり、第3版には回想文も寄稿している。その書評は刊行当時の具体的な編集内容を知る資料として使える一方、評価には著者との関係を伴う。3
したがって、第3版の電子時計の説明や専門家の注記を、1944年の著者の記述として扱うことはできない。関心のある記述が元の本文なのか追記なのか、また参照されている頁がどの版のものかを確認する必要がある。
温度補償の図から見える、技術書の読み方#
具体的な論点の一つが、温度によって時計の進み遅れが変わる問題である。鋼製のひげぜんまいは温度が上がると復元力が弱まり、振動が遅くなる。補償テンプは異種金属を組み合わせた切れ目のある輪を使い、温度に応じて重りを内外へ動かして、回転の変わりにくさを表す慣性を変える。ばねの変化とテンプの変化を打ち消し合わせる仕組みである。5

図1:Omega 30t2の補償テンプとひげぜんまい。本書で扱われる温度と振動の関係を考えるための機構例であり、本書掲載図の転載ではない。写真:Duxbelli。出典:Wikimedia Commonsの個別ファイル。権利:Public Domain(同ページに作者による全世界向けの権利放棄と、放棄できない地域での無条件利用許諾を表示)。変更なし。
二つの温度で歩度を合わせても、その中間の温度で進む残差が生じる場合がある。これが中間温度誤差である。David Boettcherの研究は、Rawlings第3版の説明図を再掲し、重りの位置とばねの復元力の平方根を比べる説明を検討する。そして、図の大きな曲がり方を実際の材料係数と同じものと読むことを批判している。5
ここで大切なのは、概念を示す図と、実際の時計での誤差の大きさを分けることである。重りを内側へ寄せれば慣性が減るという説明だけでは、温度範囲全体でどれだけ補償できるかは決まらない。材料特性と数値を伴う検討が要る。Boettcherの論考は、本書の図を後年の議論と照合できる例だが、本書全体の正誤を一括して判定する根拠ではない。5
著者の技術的な背景#
ニューヨーク大学の所蔵資料案内によれば、Rawlingsは英国出身で、ジャイロコンパス、船体の安定化、射撃管制などの特許に関わり、Sperry、英国海軍の研究部門、U.S. Time Corporationなどで働いた。後にはBulovaの研究開発に関わり、1956年から1959年に亡くなるまでJames Arthurの時計コレクションを扱う博物館の学芸員を務めた。6
この経歴は、時計を装飾品や収集対象だけでなく、運動を制御し測定する装置として扱う本書の背景にある。同大学の案内は、1953年5月15日にRawlingsが、1650〜1950年の計時の進歩を「時からマイクロ秒へ」という主題で講演したことも記録する。ただし、この講演の全文を本書の内容として参照したものではない。6
版と参照先#
| 版 | 刊行・書誌 | 区別する点 |
|---|---|---|
| 初版 | 1944年、Pitman Publishing Corporation、New York/Chicago。前付ix頁、本文236頁。LCCN 44006516。 | 後年版のISBNを初版へ付けない。 |
| 第2版 | 1948年、Pitman Pub. Corp.、New York。前付xi頁、本文303頁。LCCN 48006748、NCID BA69207848。 | 初版より増頁した版。1952年の紹介はこの版を扱う。 |
| 第3版 | 1993年、British Horological Institute、Upton。Timothy・Amyra Treffry編。ISBN 0-9509621-3-9。刊行時書評は393頁・白黒図146点とする。 | 1948年第2版を基礎にした改訂・注釈版。元の本文と追記を区別する。 |
初版と第3版の情報はOpen Libraryの版別目録、第2版はCiNiiの書誌とNBSの文献案内、第3版の造本は刊行時書評を照合した。1 3 4 7
日本国内の所蔵を探す場合は、CiNiiの第2版の書誌から各大学の目録を確認できる。各版は同一の頁構成ではないため、引用された頁だけで内容を探す際には版の確認が必要になる。7
確認範囲#
本書そのものの全章本文・序文・図版一式は通読していない。内容の紹介は、第2版を扱う当時の雑誌記事、第3版の詳細な刊行時書評、後年研究に再掲された温度補償の図とその検討、版別目録に基づく。原本を直接読んだ要約と、書評による説明を区別した。日本語訳や各刷の全文異同は確認していない。
参考文献#
- Open Library, The science of clocks and watches, 版別書誌データ。1944・1948・1993年の3版。閲覧日:2026年11月7日。
2. Scientific American, January 1952, 誌面公開PDF、PDF第84頁、本書第2版の紹介段落。閲覧日:2026年11月7日。
3. Henry B. Fried, “Book Reviews”, Horological Times, May 1994, pp.42–43, AWCI公開PDF。第3版の編集・内容・成立背景。閲覧日:2026年11月7日。
4. National Bureau of Standards, Modern Books on Horology, Letter Circular LC981, April 1, 1950, p.5, item 56, NIST公開PDF。閲覧日:2026年11月7日。
5. David Boettcher, Middle Temperature Error, pp.10–15、特にp.13の図4とpp.14–15の検討、Horological Science Newsletter掲載PDF。刊行年表示未確認。閲覧日:2026年11月7日。
6. New York University Archives, Records of the James Arthur Collection of Clocks and Watches, RG.42.1, “Biography of Arthur Lionel Rawlings”。閲覧日:2026年11月7日。
7. 国立情報学研究所、CiNii Books:The science of clocks and watches, 2nd ed., 1948、NCID BA69207848。閲覧日:2026年11月7日。