The Artificial Clock-maker

The Artificial Clock-maker

ウィリアム・ダーラムの『The Artificial Clock-maker』は、時計の歯車を何枚の歯で組み合わせれば、狙った時間や打鐘回数を得られるかを説明する英語の技術書である。1696年初版は、部品の呼び名から比例計算、振子の調整、当時の発明をめぐる証言までを結び付ける。時計を完成品として眺めるだけでなく、その動きを数へ置き換える方法と、17世紀末の時計師が共有していた知識を調べられる本である。1

The Artificial Clock-makerの1696年初版の扉。著者はW. D. M. A.、刊行者はJames Knaptonと記される

図1:1696年初版の扉。著者:William Derham(1735年没)、扉の組版者は不詳。原出典:Internet Archive、資料番号 bim_early-english-books-1641-1700_the-artificial-clock-mak_derham-william_1696、PDF第1頁。配信・権利表示:Wikimedia Commonsの個別ファイル。Public Domain(1696年公刊の原本の忠実な複製、著者没後100年超、配信元のPublic Domain Mark 1.0表示)。変更:長辺1400ピクセルで頁を画像化しJPEGへ変換。切抜き・加筆なし。

書誌と紹介対象#

項目内容
初版の主書名The Artificial Clock-maker
副題の内容携帯時計と置時計の機構、各種輪列の歯数計算、古代・近代の時計史を扱う論考
著者William Derham(ウィリアム・ダーラム、1657–1735)。初版扉の表記は W. D. M. A.
初版ロンドン、James Knapton刊、1696年
言語英語
初版の構成11章、本文の最終頁付130頁、後続のAddenda(追補)。図表を含む
初版の公開複製Internet Archiveの初期英語刊本マイクロフィルム資料。別にGetty Research Institute所蔵本の公開複製もある
別版の識別例1734年第4版:ETH-Bibliothek所蔵 Rar 2002、DOI 10.3931/e-rara-15925

ここでは初版の序文と本文を中心に紹介する。PDFの通し頁と印刷された頁付は一致せず、折込や撮影の挿入もあるため、以下の頁数は原則として初版の印刷頁を指す。古典の原著を後世の復刻版のISBNで識別することはできない。1 2 3

職人の実作業と計算をつなぐ出版#

ダーラムは時計師専業の著者ではなく、聖職者で自然研究者でもあった。初版序文では、地方生活の余暇に自分のためにまとめたものを、機械研究を好む人と、それを生業にする人のために公刊すると述べる。工作に優れていても計算の方法を学ぶ機会の少ない職人を想定し、比例式の解き方から説明する理由を示している。1 4

序文は先行者を無視した「最初の時計書」という宣言ではない。ウィリアム・オートレッドの計算法、ジョナス・ムーアやウィリアム・レイボーンの著作に触れ、自分は既存の代数的な説明を、より平明な言葉と例へ置き換えると位置づける。オートレッドの方法が載った1675年の『Horological Dialogues』と1677年のラテン語刊本についても述べている。ただし、刊行の経緯に関する評価はダーラム自身の説明である。1

加工技術の百科事典でもない。著者は、はんだや金属の着色を扱う章を用意しながら、見習いや職人の購入負担を増やさないため掲載しなかったと説明する。歯切り機やフュジーを加工する機械も、書物の規模を広げすぎるため詳論しない。何が書かれていないかにも、想定読者と出版の方針が表れている。1

動きを数で理解する具体例#

歯数から回転数、回転数から振動数へ#

冒頭はフュジー、軸、カナ、脱進機などの名称を整理する。カナは大きな歯車とかみ合う小歯車、フュジーは鎖などを介してぜんまいの力を伝える円錐状の部品である。さらに本書での「Watch-part」は時間を測る側、「Clock-part」は打鐘側を指す。現代語のwatchとclockを、そのまま携帯時計と置時計に読み分けると、章の意味を取り違える。1、1–7頁。

第2章は、歯車がカナを駆動する例で、歯車の歯数をカナの歯数で割れば回転比になるところから始まる。60歯の歯車が6枚歯のカナを動かせば、歯車1回転にカナは10回転する。複数段の輪列では、各段の比を掛け合わせる。原本は割算の筆算に似た記号を使い、歯数と回転比を並べている。1、8–11頁。

12–13頁には、文字盤側の比が8、続く三段の比が11・9・8、冠形がんぎ車が17歯という例がある。冠形がんぎ車は、歯が輪の縁から立つような形をした、ヴァージ脱進機の車である。二つの爪へ交互に作用するため、この例のbeat(片道の振れに対応する刻み)を求めるには歯数に2を掛ける。原本の手順を現代の記号へ書き直すと、次のようになる。

8 × 11 × 9 × 8 × 17 × 2 = 215,424 beat/文字盤車1回転

本書がこの回転を12時間として扱うので、215,424 ÷ 12 = 17,952 beat/時となる。数字は実在する全時計の標準仕様ではなく、歯数・回転・刻みを結び付けるための計算例である。最後の「2」も、この脱進機の働きに即した数であり、別方式へ無条件に適用する定数ではない。1

打鐘と旋律を歯車やピンへ置き換える#

打鐘側では、1時に1回、2時に2回という12時間制の時打ちを、合計78回として計算する。運転時間と巻上げから得られる回転数、ハンマーを動かすピン数、打鐘を止めるカウントホイールの回転を対応させる。単に「長く動く時計」の歯数表を掲げるのではなく、求める打数から輪列へ戻る手順を示す。1、33–44頁。

チャイムの説明では、ピンを植えた円筒の長手方向を音の違い、円周方向を時間の進みへ割り当てる。どの鐘を、いつ鳴らすかを円筒上の位置で表す仕組みである。『詩篇100』の旋律などの譜例とピン配置を対応させ、平面の表を円筒へ巻けば配置になる、と説明する。連続する同じ音を打つ場合にはハンマーを増やすことにも触れ、音符の並びと実際の打撃機構を結び付けている。1、45–52頁。

古い時計の改造と振子の調整#

第3章は、古いテンプ式時計を振子式に変える例を扱う。既存の輪列を図式化して刻みの数を求め、採用したい振子に必要な刻みと比べ、不足する回転比を追加する。古い機械を残して調速の方式を変えるという、当時の改造の考え方を読み取れる。1、62–68頁。

第5章の振子計算は、一つの基準から別の長さや振動数を比例で求める。75–76頁では、1分間に60回の片道振れをする基準振子の長さを39.2英インチとし、1分間の片道振れをn回とする振子長Lを、次の関係で計算している。

L = 39.2 × (60 ÷ n)² 英インチ

たとえばn = 153ならL ≈ 6.03英インチとなり、原本の約6インチという例に対応する。これはダーラムが採用した基準値に従う計算の再現であり、あらゆる場所・形状の実物振子をこの長さへ切れば正確になるという工作指示ではない。原本自身も、おもりの大きさと振動中心、振れ幅、気象、汚れを論じている。1、71–80頁。

計算書であり、17世紀末の証言集でもある#

後半は古代の時刻測定から、振子時計、携帯時計の調速、リピーターへ進む。リピーターは、操作した時点の時刻を鐘の音で知らせる機構である。106–108頁ではエドワード・バーローとダニエル・クエアの方式を比較し、バーロー側は時と四半時を別々の操作部で、クエア側は一つの操作で知らせると説明する。1

この部分の価値は、機構の説明だけでなく、情報の集め方にもある。初版序文は現代の発明について「Dr. H…」「Mr. T…」らの助力を挙げ、匿名性を保っている。Linda Hall Libraryの解説は協力者をロバート・フックとトーマス・トムピオンとして紹介する。情報提供者と近いことは重要だが、その証言を現在の確定した発明順位と同一視することはできない。1 4

実際、95–96頁はクレメントへの帰属を紹介したあと、フックによる反論を並べている。振子時計の発明についてもホイヘンスを支持しつつ、ガリレオ側の主張を取り上げる。英国内での導入年代などを含め、ここに書かれた年代や優先権は、ダーラムが当時まとめた歴史として読む必要がある。本書は、技術が定着していく時代の異なる説明を伝える史料でもある。1、93–108頁。

巻末の表は、歯数例を集めるだけでなく、恒星を使った時計合わせへも進む。125–126頁は、同じ星が同じ方向へ戻る時刻と時計の差を観測し、恒星日と平均太陽日の違いを考慮して時計を調整する手順を示す。127–130頁では、フラムスティードに帰する太陽の大気差の表を用い、日時計との比較にも注意を向ける。輪列の計算、調速、外部の時刻基準が一冊につながっている。1

版の違いと参照方法#

刊年確認できる版・特徴
1696年初版。序文・用語・輪列計算・振子・発明史・歯数例・時刻の表を収める
1700年増補第2版。Huntington所蔵目録は、時計の構造、レーマーの衛星表示装置、振子時計の調整、フラムスティードの表、子午線、恒星観測用望遠鏡を扱うSupplementを列記する
1714年第3版。Linda Hall Libraryの所蔵解説は振子時計を描いた口絵を紹介する。Huntingtonにも同年刊本の記録がある
1734年大幅訂正を掲げる第4版。ETH所蔵本の目録は本文140頁、折込表5枚、折込銅版2枚を記録する

第2版の補遺に何が列記されるかは目録で確認できるが、それだけで本文の全増補箇所を確定できるわけではない。また、後の版の140頁という本文頁数や口絵を、1696年初版の仕様へ持ち込んではならない。3 4 5 6

1734年版の前付には「第3版について」の読者宛説明が再録され、第2版の補遺のうち有用な部分を本文の適切な位置へ組み込んだと述べる。これは1734年に初めて行われた改訂という意味ではない。同版121–122頁には、1711年時点のハンプトン・コート時計の輪列と、ブラッドリーによる欠損歯車の補充・修理の記述がある。128–134頁は子午線の設定と観測器械を扱うが、130頁には本文内の基準年として1731年が残る。刊年だけで本文のすべての数値の基準時点を決められない例である。3

翻訳は、1708年のドイツ語版『Der kunstreiche Uhrmacher』が、ドッペルマイヤーの編集したWelperの日時計書の付録として所蔵目録に記録される。フランス語には1731年パリ、Dupuis刊『Traité d’horlogerie pour les montres et les pendules』がある。これらは英語原著と区別して参照する必要があり、訳者や底本の版、訳文の忠実性はここで確定していない。7 8

原本を読む際には、長いsを表す「ſ」がfに似る古い活字、分数や割算の記法、語義の違いに注意が必要である。輪列の説明は四則演算と比例から追える一方、本文は現代の修理マニュアルではなく、当時の工具・脱進機・時間基準を前提とする。原本の計算例を再現することと、現在の時計への整備手順として採用することは別である。1

確認範囲#

本稿の内容紹介は、1696年初版の扉・序文・目次、用語、第2章の輪列・打鐘・チャイム、第3章の改造、第5章の振子、第7–9章の発明史、第10–11章の歯数例と表、末尾追補を確認した範囲に基づく。1734年版は扉・前付・目次と121–122・127–136頁を照合した。第4章の歯車寸法と第6章の古代史の全記述について、個々の計算・古典引用を検証したものではない。本文の確認と各所蔵機関の書誌記録を区別し、版をまたぐ全行比較や、翻訳・復刻版すべての本文確認は行っていない。

購入先#

以下は本稿で紹介した1696年初版の原本ではなく、1759年刊の第4版をもとにしたGale Ecco, Print Editionsの2010年刊英語ペーパーバック復刻版(ISBN 9781170546673)である。初版との本文の異同や、復刻版の印刷・図版の再現品質は本稿では確認していない。

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参考文献#

  1. William Derham, The Artificial Clock-maker, James Knapton, London, 1696. Internet Archive原本複製。序文、本文1–80・93–130頁、Addendaを中心に参照。閲覧日:2026年11月7日。

2. Getty Research Institute / Internet Archive, The artificial clock-maker(1696年刊本の所蔵・複製記録)。資料番号 artificialclockm00derh、OCLC 606552550。書誌・所蔵情報を参照。閲覧日:2026年11月7日。

3. ETH-Bibliothek, The artificial clock-maker(1734年第4版、目録・原本複製)。Rar 2002、DOI 10.3931/e-rara-15925。扉・前付・目次・121–122・127–136頁、および書誌記録を参照。閲覧日:2026年11月7日。

4. Linda Hall Library, “William Derham”, Scientist of the Day, 2014年11月26日。著者と所蔵する初版・第3版の解説。閲覧日:2026年11月7日。

5. The Huntington, The artificial clock-maker(1700年増補第2版)。請求記号290207。補遺の項目を含む所蔵目録。閲覧日:2026年11月7日。

6. The Huntington, The artificial clock-maker(1714年刊本)。請求記号496475。刊年・著者・刊行者の所蔵記録。閲覧日:2026年11月7日。

7. Universitäts- und Landesbibliothek Düsseldorf, Neu-vermehrte Welperische Gnomonica, Nürnberg, Weigel, 1708。Johann Gabriel Doppelmayr編、付録 Der kunstreiche Uhrmacher の所蔵書誌。URN urn:nbn:de:hbz:061:1-174115。閲覧日:2026年11月7日。

8. Rijksmuseum, Traité d’horlogerie pour les montres et les pendules の所蔵書誌, William Derham, Paris, Dupuis, 1731。言語・刊行・著者の確認に用いた目録。閲覧日:2026年11月7日。