Théorie des montres compliquées:現代の複雑時計を機構の動きから学ぶ本

Théorie des montres compliquées:現代の複雑時計を機構の動きから学ぶ本#

Théorie des montres compliquées は、現代の複雑時計を、機能の分類と部品の動きから説明するフランス語の技術書である。Sylvian Aubry(シルヴィアン・オーブリ)が執筆し、Pascal Landwerlinが歴史解説を担当した。スイスの技術教育団体Fédération des écoles techniques(FET)が2023年に刊行した。1 2

基礎の教科書から、現代の複雑機構へ#

FETの序文によると、基礎部品と機構を教える『Théorie d’horlogerie』では、現代の複雑時計を十分に扱えないことが企画の出発点だった。FETは2018年に新しい教材の制作に着手し、企業との連絡や編集を含む5年以上の過程を経て本書を刊行した。1

基礎を扱う『Théorie d’horlogerie』と、時計の調速部分を専門に扱う『Théorie des échappements』を補う位置づけである。FETは高度な時計教育を受ける人を主な対象とし、数学の事前知識は不要と説明している。ただし、これは時計機構の予備知識も不要という意味ではない。歯車やばね、動力を伝える部品についてのフランス語の説明を読む本である。2

序文を寄せたPhilippe Stern(パテック フィリップ名誉会長)は、小型化や加工技術に加え、視認性や操作のしやすさが現代の開発課題になったと述べる。利用者の操作を簡単にするために、内部の設計はかえって複雑になる、という本書の対象を理解する視点である。これは序文執筆者の見解として読む必要がある。1

「複雑」の範囲をどう捉えるか#

冒頭の定義は、単純な機能の数え上げに疑問を向ける。「時・分・秒以外の情報を加える機構」という定義だけでは、時刻を音で知らせるリピーターや、精度の改善を目的とするトゥールビヨンを説明しきれないからである。本書はこの曖昧さを示したうえで、音、天文表示、歩度精度、短時間計測、使い勝手、表示方式、独立した機構という広い範囲を扱う。1

目次から確認できる内容は、次のように整理できる。ここでいう歩度は時計の進み遅れを指す。1

調べたいこと本書が扱う範囲の例
音や天体の周期をどう表すか通過時・要求時の打鐘、年次・永久カレンダー、月の周期、星図、時差表示
動力と精度をどう保つか精度改善を目的とするトゥールビヨン、残りの作動時間の表示
計測や操作をどう実現するかクロノグラフ(経過時間の計測)、自動巻き、機能選択機構
通常の針以外でどう見せるか逆戻りする針、跳躍表示、伸縮する針、円盤・液体による表示、オートマタ(機械仕掛けの人形など)

これらは目次で確認した対象であり、すべての章の本文を確認したという意味ではない。古い懐中時計の機構だけに限らず、現代の腕時計で用いられる表示・操作の仕組みまで対象にしている点が分かる。1 2

部品を追って理解する具体例#

公開試読のp.349は、星図と月の表示に関する機構を例に、動力伝達と修正操作を分けて説明している。図3-384では、ぜんまいを収める香箱から星図の円盤へ力が伝わり、その円盤とともに回る月表示の歯車が、固定された小歯車とのかみ合いによって自転する。円盤全体の回転と、その上の歯車の回転を分けて見る説明である。1

同じ頁の図3-383では、星図を修正するときに月側の修正機構を切り離す動きを示す。歯の滑りとばねの働きを番号で追わせ、通常運転時の力の流れと、利用者が操作したときの動きを別々に示している。図の番号と短い説明を対応させる方法を、実際の試読頁で確認できる。1

2024年3月13日の著者講演を記録したジュネーヴ時計師協会も、色、陰影、回転方向の表現を揃え、複数の図に動きを分ける編集方法を紹介している。同協会の報告では、73の機構と1,319の図を扱い、20社が説明や図の提供に協力したという。これらの総数は講演報告によるもので、試読の図を独自に数えた結果ではない。4

この協力関係は巻末の謝辞からも確認できる。メーカーだけでなく、時計学校、博物館、ジュネーヴ大学天文台などが技術資料や文章の確認に関わった。企業提供の説明を教材として整理した本であり、各機構の性能を独立した比較試験で順位づけする本とは目的が異なる。1

書誌と版の確認#

項目確認できる情報
原題Théorie des montres compliquées
執筆・歴史解説Sylvian Aubry/Pascal Landwerlin
出版者・刊年Fédération des écoles techniques、2023年
言語フランス語
ISBN978-2-940025-61-9
紙版の書誌712頁、図版あり、31cm(スイス国立図書館の全国書誌)
奥付の版表示HCL1f/Version 1.0/Janvier 2023

全国書誌の頁数は712頁で、試読の奥付にもp.712がある。一方、FETの紹介ページは714頁と記載する。頁数に差があるため、同じ値へ推測で統一せず、書誌上の仕様と販売案内の表記を区別しておく。1 2 3

Booksimoninでは紙版、紙版とデジタル版の組合せ、デジタル版を別の商品として案内している。いずれも2023年・フランス語の表示だが、販売形態の違いだけで改訂版や翻訳と判断することはできない。5

確認範囲と参照先#

内容の説明はFET公開試読の序文・前書き・定義p.5・機構の抜粋p.349・目次pp.707–708・謝辞とクレジット・奥付を中心とする。書誌はスイス国立図書館、制作の具体像は時計師協会の講演記録と照合した。全章の読了、全版の内容比較、各機構の実機検証は行っていない。

公式試読は下記の参考文献から閲覧できる。公開されている図版にも個別の権利表示があり、奥付は転載を禁じているため、本記事には書影や原書の図版を転載していない。1

参考文献#

  1. Sylvian Aubry, historiques de Pascal Landwerlin, Théorie des montres compliquées, FET, Version 1.0, janvier 2023。FET公式公開試読PDF。全14 PDF頁。Avant-propos、Préface、p.5、p.349、pp.707–712を中心に確認。閲覧日:2026年11月7日。

2. Fédération des écoles techniques, Théorie des montres compliquées 公式紹介。著者・ISBN・刊年、位置づけ、対象読者、頁数表記。閲覧日:2026年11月7日。

3. Bibliothèque nationale suisse, Le livre suisse / Das Schweizer Buch 2023/21, p.83、項目951、BN 19264038003976。著者・出版者・刊年・712頁・ISBNの書誌。閲覧日:2026年11月7日。

4. Société des Horlogers de Genève, “Rédaction d’un livre sur les montres compliquées”, 13 mars 2024。著者講演の主催団体による報告。制作方法と機構・図版数。閲覧日:2026年11月7日。

5. Editions Booksimonin, 紙版 No.10306、紙版+デジタル版 No.10308、デジタル版 No.10793。2023年フランス語版の販売形態。閲覧日:2026年11月7日。