Théorie d’horlogerie — 時計の仕組みと寸法を学ぶ教科書

Théorie d’horlogerie — 時計の仕組みと寸法を学ぶ教科書

『Théorie d’horlogerie』は、「時計の各部品は何をし、その寸法や働きはどのようにつながるのか」を学ぶための教科書です。スイスの時計学校での基礎教育を背景に、時刻の基準から機械式時計、振り子時計、電子時計までを扱います。部品名の解説に加え、力の計算と機構の図解を組み合わせていることが、公式試読の具体的なページから分かります。12

書誌と紹介する版#

項目内容
原題Théorie d’horlogerie
著者Charles-André Reymondin、Georges Monnier、Didier Jeanneret、Umberto Pelaratti
出版者Fédération des écoles techniques(FET)
初刊1998年、フランス語
本稿の中心となる版2022年1月、フランス語版。奥付の表記はHL1f/version 05.4
判型・ページ数A4、378ページ(出版社の2022年版案内)
ISBN978-2-940025-72-5(2022年フランス語版)

初刊年は出版社の沿革と図書館書誌で一致します。2022年版の刊年・ISBNは出版社の案内と試読に含まれる奥付の両方で確認できます。初刊の目録にあるISBN 978-2-940025-10-7と、2022年版の番号を区別する必要があります。1234

時計学校と産業界が作った本#

試読の「Avant-propos」(刊行のことば)で、FET会長Robert Besançonは、時計修理を担う職人の養成に必要な知識をまとめることが出版の目的だと説明しています。目次は産業界・時計学校・雇用者団体の関係者が検討し、ヴァレ・ド・ジュー技術学校の校長だったReymondinが教員たちと執筆を進めました。表題紙も執筆場所を同校の所在地Le Sentierと明記しています。2

したがって、一人の時計師の個人的な製作法だけを紹介する本とは成り立ちが異なります。謝辞では複数のメーカーが機構の説明用図版を提供したこと、学校の教員や専門家が原稿や技術資料に協力したことも記録されています。時計を作り、点検し、修理するための共通の説明を、教育と産業の接点で整理した教材といえます。2

何を学ぶ本なのか#

試読に収録された目次では、15章を通して次の範囲を扱います。以下は章名の逐語訳ではなく、学ぶ対象による整理です。目次にある章のすべてを本文まで確認したものではありません。2

学ぶ対象内容のまとまり
時間と時計の全体像天文学的な時刻、暦や時差、日時計・流体を使う時計・機械式と電子式の歴史、時計の機能の分け方
力を蓄え、伝え、刻む部分香箱と主ゼンマイ、歯車列、脱進機、振り子やテンプとヒゲゼンマイ、歩度の調整
時刻以外の働き自動巻、日付・曜日・月相や永久暦、音で知らせる機構、経過時間を測るクロノグラフ
機構を支える条件ケース・文字盤・針・ガラスなどの外装、材料、摩擦・摩耗・洗浄・潤滑・軸受
別の時計方式への展開振り子時計、Atmos、電子回路、ステップモーター、水晶振動子、電子表示

時計を理解するうえでは、ゼンマイが強ければそれだけで正確になるわけではありません。動力を蓄える部分、力を伝える部分、動きを区切る部分、一定の周期で振動する部分には、それぞれ異なる役割があります。試読129ページの図は、エネルギー源、蓄積、計数・伝達、分配、調速、表示という機能を並べ、調速に当たる振り子とテンプ・ヒゲゼンマイを示しています。部品の外観と時計全体の機能を往復できる構成です。2

主ゼンマイを「強さ」から考える#

公式試読49ページの4.2.6節では、主ゼンマイを芯の周囲に完全に巻き込んだ条件で、最大の回転力を計算します。回転力を表すトルクをM、ゼンマイの厚さをe、幅に相当する高さをh、材料の許容応力をσとすると、掲載式は M = e² × h × σ / 6 です。長さや厚さはmm、応力はN/mm²で表し、結果はN·mmになります。2

この式から読み取れるのは、厚さと幅が同じ効き方をしないという点です。他の条件を固定した同式の範囲では、幅は一次、厚さは二乗でトルクに関わります。材料に許される負担も式に入るため、寸法だけを大きくすればよいという説明にはなっていません。同じページは材料としてコバルト・ニッケル・クロム系合金を挙げ、弾性率や許容応力、芯の半径と厚さの比も示します。2

また、同書は24時間後のトルクを最大値の約0.8倍として見積もる例を載せています。これは同ページで用いる概算条件です。あらゆる時計で24時間後に必ず20%低下することや、時計全体の駆動時間・精度を保証する数値とは区別して読む必要があります。部品の形・材料・計算条件を一緒に確認するという、本書の説明方法が分かる箇所です。2

クロノグラフを「動作の違い」から考える#

経過時間を測るクロノグラフでは、針を止めることと、ゼロへ戻すことは別の機能です。公式試読241ページは、カムを使う方式の説明の一部として、この違いを複数の図に分けています。2

停止時は、制御部品に動かされたブレーキがクロノグラフの回転部品を止め、測定値を読めるようにします。分積算では、回転部品に付く送り指が中間の歯車を介して分の積算機構を動かし、ジャンパーというばねで押された位置決め部品が歯車の位置を保ちます。帰零時はプッシャーの操作でハンマーを解放し、針の軸と一体のハート形カムを押して針をゼロへ戻します。図ではこれらの部品が色分けされています。2

同じ「針が動く・止まる」という見た目でも、動力の伝達、数値の保持、基準位置への復帰には異なる部品が必要です。この例では、機構の名称を覚えるだけでなく、各動作でどの部品が何に接触するかを追えるように説明されています。試読が示すのは特定方式の該当部分であり、すべてのクロノグラフの構造が同じという意味ではありません。2

教育での使用と、修理手引書との違い#

スイス時計産業雇用者団体CPIHの2022年版学校教育計画は、脱進機と調速機構に関する学習の教材に本書の第6・7章を挙げています。学習内容には、振動数や周期、ヒゲゼンマイの長さと歩度の計算、温度・磁気・重力などの影響が含まれています。本書が単に収集家向けの紹介として売られているだけでなく、計算や構造理解を伴う職業教育に組み込まれている具体例です。5

また、ジュネーヴの高等教育機関hepiaの2025–2026年度マイクロ技術課程でも、時計分野の参考書一覧に1998年の本書が記載されています。これは教材として参照されていることを示しますが、その一覧だけから全学生の必携書であるとまではいえません。6

英語版については、Manuel Yazijianが2002年の米国専門誌『Horological Times』で書評を書いています。書評は、カラー図と数式の提示、巻末の解答付き演習に注目する一方、時計修理の手順を細部まで順番に示す本とは区別しています。ここで扱われるのは当時の英語版であり、2022年版のすべてのページや改訂内容を評価した書評ではありません。7

本書の中心は、作業の背後にある構造と理屈です。現行版の出版社も、基礎教育を受ける人を主な対象とし、脱進機や複雑時計のさらに詳しい説明にはFETの別の専門書があると案内しています。必要な予備知識を判断する際には、「基礎教育向け」という位置づけと、図面・部品名・単位を伴う技術教材であることの両方が手がかりになります。17

初刊、改訂、翻訳の区別#

年刊行・改訂の記録
1998年フランス語『Théorie d’horlogerie』刊行
1999年英語『Theory of Horology』刊行。FET沿革はRosamund Bandi-TebbuttとDerek Prattによる翻訳と記載
2001年ドイツ語『Theorie der Uhrmacherei』刊行
2011年イタリア語『Teoria di orologeria』刊行
2015年フランス語の改訂版とスペイン語『Teoría de la relojería』刊行
2022年FET沿革にフランス語・ドイツ語・英語の改訂版刊行を記録

年表はFETの沿革によります。試読374ページは2015年改訂の目的を技術とNIHS規格の変化への対応と説明しています。NIHSはスイス時計産業の規格です。一方、2022年の改訂で個々の章がどこまで変わったかは、この試読と沿革だけでは確定できません。23

現行英語版の出版社表示は2022年、378ページ、ISBN 978-2-940025-74-9です。フランス語版とページ数が一致しても、ページごとの本文や訳語が完全に対応するとは限りません。英訳の初刊、現行英訳、フランス語の初刊を区別して、引用箇所や購入する版を確認する必要があります。238

参照先と確認範囲#

FETの書籍紹介ページから公式試読へ進めます。本稿では、フランス語の試読16ページに含まれる刊行のことば・序文、本文5・49・129・241ページ、目次364–366ページ、謝辞・改訂記録・奥付373–376ページを確認しました。これに出版社の版情報、公的な書誌、学校の教育計画、当時の英語版書評を照合しています。全巻を読了した紹介ではなく、具体例はこの確認範囲に基づきます。124567

本書の特徴は、時計の全体を機能に分け、それを部品の寸法・材料・動作へつなぐ構成にあります。主ゼンマイの計算とクロノグラフの図解は、その異なる二つの入口です。機構の理屈を調べる教材としての範囲を押さえ、具体的な修理手順や特定機種の仕様が必要な場面では、その目的に対応する技術資料と使い分ける本です。127

参考文献#

  1. Fédération des écoles techniques, Théorie d’horlogerie(2022年版案内)。閲覧:2026年10月17日。

2. Reymondin, Monnier, Jeanneret, Pelaratti, Théorie d’horlogerie:公式試読。FET、2022年奥付を含む16ページ。本文49・129・241、目次364–366、改訂・奥付373–376ページほか。閲覧:2026年10月17日。

3. Fédération des écoles techniques, Historique。1998・1999・2001・2011・2015・2022年の項。閲覧:2026年10月17日。

4. WorldCat, Théorie d’horlogerie(1998年、書誌ID 82315448)。書誌確認に使用。閲覧:2026年10月17日。

5. Convention patronale de l’industrie horlogère suisse(CPIH), Plan national d’études école:Horloger/ère de production CFC。2022年版、印刷20–21・34ページ(PDF21–22・35ページ)、脱進機・調速の教材欄。閲覧:2026年10月17日。

6. hepia, Microtechniques, 3ème année, 2025–2026:descriptifs des modules。PDF44–45ページ、時計分野参考書一覧。閲覧:2026年10月17日。

7. Manuel Yazijian, Book Review: Theory of Horology, Horological Times, August 2002, pp.22–24。英語版の書評と同版からの図版再録。閲覧:2026年10月17日。

8. Fédération des écoles techniques, Theory of Horology(2022年英語版案内)。閲覧:2026年10月17日。