時計の科学 — 織田一朗がたどる計時技術と暮らしの変化

時計の科学 — 織田一朗がたどる計時技術と暮らしの変化

織田一朗の『時計の科学 人と時間の5000年の歴史』は、自然を利用して時を知る道具から、機械式・クオーツ・原子時計へと至る計時技術を扱う日本語の本です。2017年に講談社ブルーバックスの一冊として刊行されました。時計の精度が上がる過程を、暮らしの中で時計に求める役割や、製造コストの変化と結び付けて説明する点に特徴があります。12

精度が変わると、時計との付き合い方も変わる#

「はじめに」は、機械式時計が日常的に使われていた時代の、待ち合わせや目覚まし時計の話から始まります。時計に多少の進み遅れがあることを織り込んで行動し、使う側が時刻を確かめ直していた、という導入です。著者はその後にクオーツ時計の普及を置き、時刻を頻繁に合わせなくてもよくなった変化を描きます。2

この説明は、精度の数字だけでは終わりません。機械式目覚まし時計では、表示の針とは別の目安針を合わせるため、目安針が小さく短いため、針と目盛りを使う設定にずれが生じる、と説明します。対して電子式では、数字を指定してアラームを設定できます。時刻を刻む正確さと、使い手が希望する時刻を設定する正確さを、身近な道具から区別する導入になっています。2

価格についても同じ視点があります。著者は、細かい部品を機械加工する費用に制約された機械式時計と、クオーツ技術や樹脂の成型加工を利用した時計を対比します。技術の進歩を、高価な時計がさらに正確になることだけでなく、日用品として必要な性能を低い価格で得られるようになることとして捉えています。2

時計を比べるための三つの要素#

序文末尾の「時計の基本的な要素」という図では、機械式時計と電子式水晶時計を並べ、動作を三つの役割に分けています。2

役割機械式時計の図電子式水晶時計の図
動かすためのエネルギー源ゼンマイ電池
周期を生む振動部テンプ水晶振動子
時刻を伝える表示部歯車と針数字の表示

用語を補うと、テンプは往復して回転することで時計の周期をつくる部品です。水晶振動子は、水晶の振動を電子回路で利用するための部品を指します。図は、外観の違う時計でも「何で動かすか」「何を周期の基準にするか」「どう表示するか」を分けて比べられるようにしたものです。ここでの電子式の図は数字表示の例であり、クオーツ時計がすべてデジタル表示という意味ではありません。テンプの働きはFHHの技術解説でも確認できます。26

この三つの役割を入口にすると、機械式から電子式への変化を、単に針が数字へ変わったこととして捉えずに済みます。本書の後半に目次として登場する電源の多様化、振動子の小型化、LEDと液晶の競争も、それぞれ異なる部分の課題として位置付けられます。2

自然の観察から、腕時計と時刻の配信へ#

本書は五章で構成されています。最初の章は、日時計、水時計、火を利用する時計、砂時計、花時計を扱います。第1章冒頭の日時計の節では、太陽の動きに伴って影の向きや長さが変わることから話を起こし、農耕や季節への関心を時間の認識につなげています。これは本書が提示する古代の時間認識の説明であり、特定個人が時間を「発見」したという記録を示すものではありません。2

機械式時計から腕時計へ進む第2・3章の目次には、振り子、脱進機、ゼンマイ、和時計、自動巻、姿勢による誤差を補う機構、量産技術などが並びます。用語の意味をFHHの技術解説で補うと、脱進機とは、歯車が一気に回り切らないよう動きを刻み、振動を維持する働きを持つ仕組みです。ここでは機構の名称だけでなく、携帯、精度、製造という異なる要求が、どの項目につながるのかを調べられます。26

第4章は、音叉時計からクオーツ、デジタル時計へと進みます。詳細目次には、水晶振動子と変換機構に加えて、消費電力、LEDとLCD、センサー、太陽電池、体温発電、ゼンマイで動くクオーツ時計が含まれます。LCDは液晶表示のことです。時計の電子化を振動源だけの変化として扱わず、表示や電源まで広く取り上げる構成だと分かります。2

第5章では、ラジオの時報、標準電波、GPS衛星の電波、原子時計、各国のデータによる世界時刻へと範囲が広がります。手元の時計が時を刻む問題から、基準となる時刻をつくり、離れた場所へ伝える問題へ移る構成です。章末には高精度時計が時間の概念を変えるという項目もあり、計時装置の歴史を、時間の基準そのものへの問いへつないでいます。2

著者の背景と紹介対象の版#

晨星出版社の著者紹介によれば、織田は1971年に服部時計店に入社し、営業、宣伝、広報などを経て1997年から独立して活動しています。時計産業と一般の使い手の双方に関わるこの経歴は、序文が性能・加工・価格・生活習慣を一続きに扱うことを理解する背景になります。ただし、本書を特定メーカーの公式社史や設計書と位置付けるものではありません。3

項目日本語版
書名時計の科学 人と時間の5000年の歴史
著者織田一朗
出版社・シリーズ講談社、ブルーバックス B-2041
紙版発売日2017年12月14日
電子版発売日2017年12月22日
言語・判型日本語、新書
ISBN978-4-06-502041-8
ページ数出版社表示240ページ、NDL目録238p・18cm

発売日は講談社、目録情報は国立国会図書館に基づきます。ページ数の表示差から改訂版の存在を推測することはできません。14

繁体字訳は『鐘錶的科學:錶面底下隱藏著時間的祕密,科學如何用尖端的技術追求〈分秒不差〉』として晨星から刊行されています。訳者は黃怡筠、紙版ISBNは9786263202818。出版社は初版日を2022年12月15日、240ページと表示しています。日本語版とは書名、言語、判型が異なるため、参照する際には版を区別する必要があります。3

大阪市立図書館の2018年4月の紹介も、さまざまな時計をつくる人間の試行錯誤を本書の主題として捉えています。出版社の宣伝文とは別に、公立図書館が新刊を紹介した記録です。5

確認範囲と参照方法#

この紹介では、講談社の正規試読に含まれる「はじめに」、三要素の図、詳細目次、第1章冒頭の日時計の説明を確認しています。第2章以降の紹介は詳細目次から確認できる扱いの範囲であり、各章の本文全体や参考資料一覧を読了した要約ではありません。原子時計などの研究状況を確認する場合は、2017年刊という時点も区別する必要があります。

日本語版の書誌と全国の所蔵先は国立国会図書館サーチ、公開試読は講談社のページから参照できます。124

参考文献#

  1. 講談社「時計の科学 人と時間の5000年の歴史」。紙版・電子版書誌、章目次。閲覧日:2026年10月18日。

2. 織田一朗『時計の科学 人と時間の5000年の歴史 正規試読』講談社、2017年。「はじめに」「時計の基本的な要素」図、詳細目次、第1章「人類初の時計は日時計」冒頭。閲覧日:2026年10月18日。

3. 晨星出版社「鐘錶的科學」。繁体字版書誌、著者・訳者紹介、目次。閲覧日:2026年10月18日。

4. 国立国会図書館「時計の科学 : 人と時間の5000年の歴史」。書誌ID 028682090、請求記号M197-L22。閲覧日:2026年10月18日。

5. 大阪市立図書館「月刊 あなたにこの本を! 平成30年4月号」2018年、PDF第1頁。閲覧日:2026年10月18日。

6. Christophe Roulet, “How does a mechanical watch work?”, Fondation Haute Horlogerie, 2023年4月25日。Distribution・Regulation節。閲覧日:2026年10月18日。