時計の社会史 ― 時間を測る道具と暮らしの変化

時計の社会史 ― 時間を測る道具と暮らしの変化

角山栄の『時計の社会史』は、時計という道具を手がかりに、時刻の測定と人々の暮らし、労働、社会の変化を結び付ける歴史書である。日本と世界を視野に入れ、和時計から時計の大衆化までを扱う。日本時計協会も、時間と時計を軸に資本主義社会の発達を解説した本として紹介している。1 2

時計を通して社会を見る#

2014年再刊の目次は、シンデレラの物語を入口に機械時計、労働時間、時間意識を並べる。続いて中国・日本への機械時計の伝来、和時計を作った人々、江戸の暮らしを扱い、航海における懐中時計、消費と産業革命、スイスとアメリカの時計の大衆化へと視野を広げる。時計の部品や発明だけでなく、それがどのような社会の中で使われたかを追う構成である。1

目次にある「不定時法」は、昼と夜をそれぞれ六つに分けるため、季節によって一時の長さが変わる時刻制度である。国立国会図書館の展示解説は、輸入されたぜんまい時計がこの制度に対応するよう作り変えられたことを説明している。機械を社会の時刻制度に合わせる必要があったという点は、和時計の歴史を考える手がかりになる。3

同じ展示で国立国会図書館は本書を紹介し、松尾芭蕉の旅行で時を知る手段として寺の鐘に触れている。時刻を知らせるものは個人の携帯時計に限らない。再刊の目次にある「奥の細道」の時計や江戸の暮らしという主題は、時刻が人々に伝わる方法へも目を向けさせる。1 3

本書への反応と背景#

1984年の鼎談書評では、丸谷才一、木村尚三郎、山崎正和が本書を取り上げ、シンデレラと松尾芭蕉という異なる人物を時計の文化史への入口にした構成を論じている。鼎談で山崎は、曾良の日記に旅の途中の時刻が細かく記されていることを挙げ、角山が生活の中の時間意識を問題にしたと説明した。木村は近世日本に市民社会が成立していたとする見方に疑問を示し、時鐘についての研究不足にも触れている。書評では、日本の時鐘の広がりや時間管理についても議論が交わされた。これは刊行当時の読者による解釈であり、本書の全ての主張がそのまま確定したという意味ではない。4

角山は経済史家であり、時計のほか茶などのモノを糸口に社会を考えた。日本時計協会の紹介も本書の対象を時計と資本主義社会の発達に置く。技術の仕組みを詳述する修理書とは異なり、時計と、それを取り巻く生活や経済を結び付ける視点が主題である。2 5

橋本毅彦の2008年の英語論文は、近代日本の時間厳守を考える際、学校・工場・鉄道と日常生活の間に差があったとする角山の議論を紹介する。橋本がここで参照するのは1998年の別著『時間革命』であり、1984年の本の内容と混同はできない。時計の普及と時間意識の関係が後の研究でも問われたことを示す例である。8

版と参照先#

版書誌
中公新書版角山栄著、中央公論社、1984年1月、248ページ、18 cm。国立国会図書館書誌ID 000001661598。
読みなおす日本史版角山榮著、吉川弘文館、2014年3月。ISBN 978-4-642-06574-0。1984年刊の再刊で、目次には著者による補論がある。

初刊と再刊は判型やページ数を区別する必要がある。再刊の出版社目録は四六判250ページと記載する。両版の本文全体を比較しておらず、補論以外の改訂の有無は確認していない。1 6 7

国立国会図書館サーチやCiNii Booksから所蔵館を探せる。国立国会図書館の初刊デジタル資料は館内限定公開と表示されている。利用条件は各館で確認したい。1 6

確認範囲#

ここでは両版の書誌、再刊の目次と出版社紹介、国立国会図書館の展示解説、日本時計協会の紹介、刊行当時の鼎談書評、橋本の英語論文を確認した。本書の本文全体は通読していないため、個別章の論証や使用史料の詳細は目次だけから推定していない。

参考文献#

1. CiNii Books「時計の社会史」2014年版の書誌・目次、https://ci.nii.ac.jp/ncid/BB14861474 (2026年11月6日閲覧)。

2. 日本時計協会「時と時計に関する本」、https://www.jcwa.or.jp/info/books.html (同日閲覧)。

3. 国立国会図書館「第120回常設展示」、https://dl.ndl.go.jp/view/download/digidepo_999338_po_120.pdf?contentNo=1 (同日閲覧)。

4. 丸谷才一・木村尚三郎・山崎正和「角山榮『時計の社会史』読書鼎談」、ALL REVIEWS、https://allreviews.jp/column/7062 (同日閲覧)。

5. CiNii Books「『生活史』の発見」、https://ge.nii.ac.jp/ncid/BA53763310 (同日閲覧)。

6. 国立国会図書館サーチ「時計の社会史(中公新書)」、https://ndlsearch.ndl.go.jp/books/R100000002-I000001661598 (同日閲覧)。

7. 吉川弘文館『出版図書目録2023–2024』、https://hondana-storage.s3.amazonaws.com/24/files/%E5%9B%B3%E6%9B%B8%E7%9B%AE%E9%8C%B2/%E5%90%89%E5%B7%9D%E5%BC%98%E6%96%87%E9%A4%A8%E5%87%BA%E7%89%88%E5%9B%B3%E6%9B%B8%E7%9B%AE%E9%8C%B22023-2024.pdf (同日閲覧)。

8. Takehiko Hashimoto, “Japanese Clocks and the History of Punctuality in Modern Japan”, 2008年論文の再録、pp. 19–20, 26、https://utcp.c.u-tokyo.ac.jp/publications/pdf/CollectionUTCP6_Hashimoto_01.pdf (2026年11月6日閲覧)。