Traité des horloges marines — ベルトゥーの航海時計論

Traité des horloges marines — ベルトゥーの航海時計論

『Traité des horloges marines』は、フェルディナント・ベルトゥーが1773年に刊行した、航海時計の理論・構造・製作・試験を扱うフランス語の技術書です。海図の修正と海上での経度決定に時計を役立てるという目的が、書名の副題に掲げられています。1

Traité des horloges marines 1773年版の略扉

略扉:Ferdinand Berthoud, 1773。Zentralbibliothek Zürich所蔵、NE 704 | G。e-rara公開原本、Public Domain Mark。画像はデジタル原本の略扉画像。

書誌情報#

項目内容
原題Traité des horloges marines
著者Ferdinand Berthoud(フェルディナント・ベルトゥー)
刊行1773年、パリ
出版者J. B. G. Musier fils
印刷L. F. Delatour
言語フランス語
構成1冊、序文等40ページ・本文590ページ、折込図版27葉
本稿で参照した原本Zentralbibliothek Zürich所蔵、NE 704 | G、e-rara公開本

以上は所蔵館の書誌情報に基づきます。本文は4部構成で、後半には関係文書を収める付録や補足もあります。「4部」は4冊という意味ではありません。12

なぜ航海に時計が必要なのか#

本書が取り組むのは、揺れや温度変化のある船で、基準の場所の時刻を保ち続けるにはどうするかという問題です。序論の冒頭でベルトゥーは、船での時刻がわかっているとき、同じ瞬間に既知の場所では何時なのかを求めることが、海上で経度を知る問題だと説明しています。4

経度は、地球上の東西方向の位置です。地球は24時間で360度回転するため、時刻の差1時間は経度15度に当たり、4分なら1度に当たります。船で太陽などを観測して求めた現地の時刻と、基準地点の時刻を比較すれば、その地点からどれだけ東西へ移動したかを計算できます。5

たとえば、時刻の比較に4分の誤りがあれば、経度には1度分の誤りが出ます。これは上の関係を使った説明用の例です。時計が止まらず動くだけでは足りず、長い航海のあいだの進み遅れを把握できることが必要になる理由がわかります。

理論から試験までを一続きで扱う#

Cnumの詳細目次を見ると、本書は「しくみの説明」だけで終わらず、作り方と確かめ方まで続く構成です。4部は4冊ではなく、1冊の中の区分です。12

部・開始ページ読むときの問い内容の例
第1部・1ページ何が時計の精度を乱すのか摩擦と油、テンプとヒゲゼンマイ、等時性、温度補償、脱進機、船上での支持
第2部・118ページその問題にどの機構で取り組んだか番号付き航海時計の構造、寸法、実験と改良
第3部・370ページ設計した部品をどう作るか工具、歯切り、軸の加工、ヒゲゼンマイの製作、組立
第4部・460ページ完成した時計の精度をどう確かめるか基準時計との比較、温度や姿勢を変えた試験、調整

テンプは往復回転する輪、ヒゲゼンマイはそれを元へ戻す細いばねです。等時性は、振れ幅が変わっても往復にかかる時間が変わらない性質を指します。温度補償は、暑さ寒さによる部品の変化が時刻に及ぼす影響を打ち消す工夫です。これらの意味を押さえると、なぜ本書が一つの機構だけでなく、油・摩擦・動力・支持方法まで扱うのかを理解しやすくなります。2

具体例:航海から戻った時計の遅れを調べる#

第2部の第6号時計では、海上試験での歩度、つまり時計が進む・遅れる割合を記録した後、遅れの原因を分けて調べる項目が続きます。第8号時計にも、航海後の実験と改良の項目があります。完成品の紹介にとどまらず、実際に使う、ずれを調べる、直すという過程を追える章立てです。2

また、第4部には温度補償を働かせない状態で暑さ寒さの影響を調べる試験や、支持装置に載せた場合と台の上に置いた場合を比べる試験があります。複数の条件を一度に変えるのではなく、原因を切り分けて調べようとする構成に注目できます。2

『Essai』との違いと、成立の背景#

『Essai sur l’horlogerie』(1763年)が日常・天文・航海の時計学を広く扱うのに対し、本書は航海用精密時計に焦点を合わせた別著です。時計全般のしくみを知りたいときは『Essai』、船上で精度を保つ設計と試験を調べたいときは本書、という違いがあります。123

メトロポリタン美術館の時計史解説によれば、ベルトゥーは1770年に国王と海軍の時計師・機械師に任命され、1773年には年4台の航海時計の製作と海軍向け時計の監督を委ねられました。本書は、航海時計が国家の事業として求められた時期の技術資料でもあります。6

付録には科学アカデミーの報告、ロンドン行きに関する文書、海上試験の記録、船内での設置・操作の指示も収められています。ただし、それらは著者が編集した記録です。発明の優先権や性能の評価を調べる場合には、他の当事者の資料とも照合する必要があります。2

原本の閲覧#

Zentralbibliothek Zürichのe-rara公開本で原本画像を閲覧できます。Cnumの詳細目次では、部・章・項目の名前と開始ページから、調べたいテーマを探せます。12

本稿は1773年刊の著作を対象としています。後年の補遺や復刻を参照する際には、原著の刊年、収録内容、図版の有無を別に確認してください。

紹介の確認範囲#

本稿は所蔵館の書誌・略扉、Cnumの詳細目次と序論冒頭(ixページ)の公開テキスト、英国の博物館と米国の美術館の解説を確認した資料紹介です。機構の構成・試験項目は目次から説明し、全編読了に基づく感想や、個々の時計の性能に関する独自評価は含めていません。

購入先#

以下は1773年刊の原本ではなく、Hachette Livre BnFによる2016年刊のフランス語復刻版(ISBN 9782011341983)です。復刻版の印刷品質や折込図版の再現状態は本稿では確認していません。

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出典#

  1. Zentralbibliothek Zürich / e-rara, Traité des horloges marines(1773年)(書誌・所蔵・利用条件・略扉、閲覧日:2026年10月16日)。

2. Conservatoire national des arts et métiers / Cnum, Traité des horloges marines 詳細目次(構成・開始ページ・付録、閲覧日:2026年10月16日)。

3. ETH-Bibliothek Zürich / e-rara, Essai sur l’horlogerie(1763年)(比較対象の書誌、閲覧日:2026年10月16日)。

4. Cnum, Traité des horloges marines, Introduction, p.ix(フランス語原著。序論冒頭の経度問題の定義と注記。OCRには誤認識があるため短い範囲の趣旨を参照、閲覧日:2026年10月16日)。

5. Royal Museums Greenwich, “What is longitude?”(英語。現地時刻と基準地点の時刻の比較、24時間・360度と4分・1度の関係、閲覧日:2026年10月16日)。

6. The Metropolitan Museum of Art, Longcase astronomical regulator, 1982.60.50(英語。ベルトゥーの1770年の任命と1773年の製作・監督任務、閲覧日:2026年10月16日)。