Watchmaking — ジョージ・ダニエルズの時計製作技法書

Watchmaking — ジョージ・ダニエルズの時計製作技法書

『Watchmaking』の中心にあるのは、「機械式時計を、部品からどう作るか」という問いです。英国の時計師ジョージ・ダニエルズが、工具や金属加工からムーブメント、ケースまでを扱った英語の技法書で、初刊は1981年。完成した時計の外観だけでなく、その形を生み出す作業を知るための本です。12

書誌情報#

項目内容
原題Watchmaking
著者George Daniels(ジョージ・ダニエルズ)
初刊1981年、Sotheby Publications
本稿で紹介する版Philip Wilson Publishers、2011年5月3日刊、ハードカバー
言語英語
ページ数464ページ(2011年版の出版社表示)
ISBN9780856677045(2011年版)

初刊年と出版者は、現在の米国時計師団体AWCIが公開する1982年の団体誌の書評で確認できます。2011年版の情報は出版社の書誌によります。12

書影は出版社の書籍紹介ページで確認できます。

工具から完成した時計まで、何を扱うのか#

公開目次を、作る対象ごとに整理すると次のようになります。これは章の逐語訳ではなく、本書の範囲をつかむための案内です。1

内容のまとまり扱う対象ここで注目すること
作業の準備と加工作業場・設備、手工具、鋼と真鍮の仕上げ、旋削小さな部品を作るために、どんな設備と加工が必要か
動く部品の製作歯車とカナ、小部品、石入れ、脱進機、主ゼンマイ力を蓄え、伝え、少しずつ解放する部品をどう形にするか
全体の設計と外装ムーブメント設計、テンプとヒゲゼンマイ、ケース、文字盤の装飾部品をひとつの機構にまとめ、外観まで完成させるには何が必要か

たとえば「歯車とカナ」のカナ(pinion)は、歯車とかみ合う小さな歯車状の部品です。脱進機(escapement)は、ゼンマイの力が一度に解放されないように動きを区切り、テンプの往復運動を維持する仕組み。テンプとヒゲゼンマイは、その往復の周期によって時計の進む速さを決めます。こうした役割がわかると、加工の章と機構の章が何をつないでいるかが見えてきます。56

「歯車を作る」とは、歯の形だけの話ではない#

刊行直後の1982年、米国時計師団体の『Horological Times』で、時計技術の著述家Henry B. Friedが本書を詳しく紹介しています。書評には、歯車やカナを切るための切削工具そのものの製作、歯の加工、熱処理や仕上げまでが挙げられています。手元の部品を組み立てる段階より前に、部品と工具を生み出す作業があることを示す具体例です。2

同じ書評は、針や文字盤、ケースも対象に含め、修復のための部品製作にも関わる内容だと説明しています。本書の射程は、時計の構造を知ることから、失われた部品をどう再び形にするかという問題にまで及びます。ただし、ここで参照したのは1981年初刊に対する書評であり、その記載を2011年版のページ番号や図版数として読み替えることはできません。2

ダニエルズの製作と、次の世代へのつながり#

ダニエルズはコーアクシャル脱進機の発明者で、ムーブメントだけでなくケースと文字盤も手作りした時計師でした。本書が加工と機構と外装を横断する構成は、この製作活動と重なります。3

その影響を具体的に伝えるのが、弟子となったロジャー・スミスの証言です。2026年のダニエルズ生誕100年に寄せた文章で、スミスは最初の2個の懐中時計を作る7年間、『Watchmaking』を常に参照していたと述べています。製作者自身が、本書をどのように使ったかを語る一次資料です。この例は本書と実作のつながりを示しますが、誰でも同じ期間・手順で製作できるという意味ではありません。4

山田五郎の本との違いと、読むときの手がかり#

日本語で構造・歴史・ブランド・購入を広く扱う山田五郎『機械式時計大全』と比べると、本書は作る側の作業に焦点があると整理できます。知りたいことが「この機能は何か」から「その部品はどう作られるのか」に進んだとき、目次の加工・設計の項目が手がかりになります。12

英語の目次で目的の箇所を探すなら、歯車は wheels、カナは pinions、主ゼンマイは mainsprings、ケース製作は casemaking。まず部品の役割を整理し、その名称を製作の章に対応させると、本書が何を説明しようとしているかを把握しやすくなります。156

版と言語を確認するときの注意#

1981年の刊行物と2011年版では書誌情報が異なります。出版社の2011年版ページは目次に「第3版への序文」を掲げる一方、製品情報の Edition 欄を「1st」と表示しています。本稿ではこの表示を同一の意味と解釈せず、「2011年版」とISBNで対象を特定しています。1

本稿で確認したのは英語版です。「ウォッチメイキング」は原題のカタカナ表記として用いており、日本語訳の書名を示すものではありません。日本語版の刊行情報は、今回参照した資料では確認できていません。

紹介の確認範囲#

本稿は英語の出版社資料・公開目次、刊行当時の時計師団体誌の書評、著者公式サイト、実作者の証言、時計専門機関の用語解説に基づく紹介です。本文全体を読了した書評ではなく、説明のわかりやすさや作業手順の再現性に関する評価は行っていません。

購入先#

紹介した2011年刊の英語ハードカバー版(ISBN 9780856677045)です。

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出典#

  1. Bloomsbury / Philip Wilson Publishers, “Watchmaking”(書誌・内容紹介・目次、閲覧日:2026年10月16日)。

2. American Watchmakers-Clockmakers Institute, Horological Times, February 1982, “Book Review”(Henry B. Fried執筆、印刷頁45・47・50、PDF 47・49・52頁目。初刊の書誌・製作工程の紹介、閲覧日:2026年10月16日)。

3. Daniels London, “Welcome”(著者の製作活動・脱進機、閲覧日:2026年10月16日)。

4. Roger W. Smith, “George Daniels at 100”(最初の2個の懐中時計と本書についての本人の回想、閲覧日:2026年10月16日)。

5. Fondation Haute Horlogerie, “How does a mechanical watch work?”(部品の役割を補う英語解説。本書本文の代用ではない、閲覧日:2026年10月16日)。

6. Fondation Haute Horlogerie, “Pinion”(カナの英語用語解説、閲覧日:2026年10月16日)。