山田五郎の『機械式時計大全』は、機械式時計がどう動き、どのような歴史を経て、いまどんな時計が選べるのかを一冊で扱う日本語の本です。2021年刊。構造の解説から時計史、ブランド、購入へと進む構成で、機械式時計を製作する工程に主眼を置くダニエルズの『Watchmaking』とは、関心の置きどころが異なります。1
書誌情報#
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 書名 | 機械式時計大全 |
| 著者 | 山田五郎 |
| 出版社 | 講談社 |
| シリーズ | 講談社選書メチエ 750 |
| 紙版発売日 | 2021年8月12日 |
| 言語 | 日本語 |
| 判型 | 四六判 |
| ページ数 | 400ページ(出版社表示) |
| ISBN | 9784065233689 |
上記は出版社の書誌に基づきます。国立国会図書館の目録では資料形態を「397p ; 19cm」と記録しているため、ページ数を参照する際には表示元の違いに注意が必要です。12
書影は講談社の書籍紹介ページで確認できます。
「仕組み」「歴史」「選び方」をどうつなぐ本か#
出版社の公開目次を、読者が知りたいことに対応させると次のようになります。1
| 知りたいこと | 対応する内容 |
|---|---|
| 機械式とクオーツ式は何が違うのか | 序章と第一章:時計の定義と基本構造 |
| 小さな時計で、時刻以外に何ができるのか | 第二章:計測、カレンダー、天文、動く仕掛け、音の機構 |
| 有名な発明の物語をどう捉えればよいか | 第三章:起源、携帯時計、和時計、経度、産業の変化など |
| ブランドの違いを知り、実物を選びたい | 第四・五章:ブランドと購入・使用の視点 |
たとえば、文字盤に小さな針や窓が多い時計を見たとき、第二章で機能の種類を調べ、第三章でその背景をたどり、第四章でブランドの特徴と結び付ける、という探し方ができます。これは公開目次から考えられる使い方で、本文を読了したうえでの読みやすさの評価ではありません。
複雑機構は、「何をする仕掛けか」から捉える#
第二章に登場する複雑機構は、時刻表示に加わるさまざまな機能を指す時計用語です。目次の名称をそのまま覚える前に、何をする仕掛けなのかで分けると見通しがよくなります。以下の用語説明は、出版社の目次に加え、スイスの高級時計財団FHHの英語解説で補ったものです。145
- クロノグラフ:スタート・停止・ゼロ戻しによって、経過時間を測るストップウォッチ機能。
- 永久カレンダー:月ごとの日数と閏年の周期に合わせて日付を進める機能。「永久」という名前でも、一般的な方式は2100年に手動修正が必要です。
- 天文表示:月や太陽などに関わる情報を表示する機能。FHHの分類には月相、日の出・日の入り、星図などがあります。
- オートマタ:人形などを動かす機械仕掛け。本書では独立した項目になっています。FHHが紹介する実例には、文字盤上の蝶の羽を動かす時計があります。7
- 鳴り物:音で時刻を知らせる機能の総称。本書はアラーム、ソヌリ、リピーターを取り上げます。
ここでの「五つ」は本書の章の整理です。時計の複雑機構全体がこの五種類だけという意味ではありません。FHHは世界時や複数時間帯なども挙げており、機構の分類は目的によって変わります。5
時計史の章は、年表よりも「語られ方」に注目#
第三章の特徴は、よく知られた説明を問い直す形式にあります。たとえば和時計の項目は、機械式時計の「1時間」が季節にかかわらず一定なのか、という問いを掲げます。経度の項目は、「クロノメーター」を現代の精度認定の意味だけで捉えてよいのかを問います。現在使っている言葉や感覚を、昔の時計にもそのまま当てはめてよいのか、という読み方ができる目次です。1
ただし、公開目次にある通説への判定記号は、本文の議論そのものではありません。本紹介ではそれを根拠に歴史上の結論を確定せず、著者が何を問題として扱う本なのかを案内しています。論拠まで知るには、それぞれの本文と参照史料を確かめる必要があります。
著者の背景と、他の紹介本との違い#
国立国会図書館サーチの出版社由来の紹介は、山田五郎を時計や西洋美術などを扱う評論家とし、英国古時計協会(AHS)とジュネーヴ時計グランプリ(GPHG)アカデミーの会員と紹介しています。2 また、本人へのインタビューでは、1980年代に地方で時計店や質店を回り、機械式時計を集めていたことを語っています。機構だけでなく、所有し、身に着ける時計にも長年関わった著者です。6
『Watchmaking』が工具や部品製作を追う本であるのに対し、本書の公開目次にはブランドや購入・使用の項目もあります。身の回りの時計から技術と歴史へ進みたいときに、どの章を参照するかを選べる構成です。ブランドと産業の「現状」は、2021年刊行時の情報として読む必要があります。1
同名書・紙版と電子版の違い#
『機械式時計大全』という書名には、誠文堂新光社が2013年に刊行した本間誠二監修の別書もあります。そちらはISBN 9784416713907、B5判208ページで、山田五郎の著書ではありません。図書館や書籍目録では著者・出版社・ISBNもあわせて確認すると区別できます。3
山田五郎の本には電子版もあり、出版社は2021年8月18日を発売日として記載しています。本稿のISBN、判型、ページ数は紙版を対象としています。1
紹介の確認範囲#
本稿は出版社の書誌・公開目次、国立国会図書館の目録、著者インタビューに基づく紹介です。用語はFHHの英語解説で補いました。本文全体を読了した感想や、各章の論証・読みやすさの評価は含みません。
購入先#
紹介した講談社の紙版(ISBN 9784065233689)です。
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出典#
- 講談社『機械式時計大全』(山田五郎)(書誌・内容紹介・目次、閲覧日:2026年10月16日)。
2. 国立国会図書館サーチ『機械式時計大全』(講談社選書メチエ ; 750)(書誌・JPRO提供の内容紹介と著者紹介、閲覧日:2026年10月16日)。
3. 誠文堂新光社『機械式時計大全』(本間誠二監修)(同名別書の書誌、閲覧日:2026年10月16日)。
4. Fondation Haute Horlogerie, “Watch complications”(クロノグラフ・永久カレンダーの英語解説。用語補足であり、本書の内容の検証資料ではない、閲覧日:2026年10月16日)。
5. Fondation Haute Horlogerie, “Ultra-complicated watch”(複雑機構と機能分類の英語解説、閲覧日:2026年10月16日)。
6. 『ぼくのおじさん』「最短距離はつまらない! 勉強嫌いの〈山田五郎〉が西洋美術と時計のカリスマになった理由」(山田五郎本人へのインタビュー。1980年代の時計収集についての発言を参照、本書の書評ではない、閲覧日:2026年10月16日)。
7. Fondation Haute Horlogerie, “Loving Butterfly Automaton”(オートマタの意味を補う実例。本書での掲載を示すものではない、閲覧日:2026年10月16日)。