<?xml version="1.0" encoding="utf-8" standalone="yes"?><rss version="2.0" xmlns:atom="http://www.w3.org/2005/Atom"><channel><title>時計の雑談 on 私の時計学</title><link>https://horology.deep-research.jp/docs/chat/</link><description>Recent content in 時計の雑談 on 私の時計学</description><generator>Hugo</generator><language>ja-jp</language><lastBuildDate>Sun, 25 Oct 2026 22:15:00 +0900</lastBuildDate><atom:link href="https://horology.deep-research.jp/docs/chat/index.xml" rel="self" type="application/rss+xml"/><item><title>裏蓋に残る修理記号――時計師は何を書き残したのか</title><link>https://horology.deep-research.jp/docs/chat/watchmakersservicemarks/</link><pubDate>Sun, 25 Oct 2026 22:15:00 +0900</pubDate><guid>https://horology.deep-research.jp/docs/chat/watchmakersservicemarks/</guid><description>&lt;p>時計を修理に出すと、裏蓋の内側に小さな印が増えることがあります。針の先で引っかいたような数字、何文字かのアルファベット、ペンで走り書きした日付。持ち主には見えない場所で、修理した人が仕事の記録を残しているのです。&lt;a href="#ref-1">1&lt;/a> &lt;a href="#ref-2">2&lt;/a>&lt;/p>
&lt;p>英語では &lt;em>watchmaker’s service marks&lt;/em>、&lt;em>repair marks&lt;/em>、&lt;em>scratch marks&lt;/em> などと呼ばれます。ここではまとめて「修理記号」と呼びます。ただし、その中身は一様ではありません。誰が、いつ、何をしたかを表すものもあれば、工房の台帳を引くための番号もあります。&lt;a href="#ref-3">3&lt;/a> &lt;a href="#ref-4">4&lt;/a>&lt;/p>
&lt;p>この小さな印の面白さは、時計の中に仕事の痕跡が残ること。そして難しさは、目の前に文字があっても、書いた本人の約束事が分からなければ読めないことです。&lt;/p>
&lt;h2 id="何のために何を書いたのか">何のために、何を書いたのか&lt;a class="anchor" href="#%e4%bd%95%e3%81%ae%e3%81%9f%e3%82%81%e3%81%ab%e4%bd%95%e3%82%92%e6%9b%b8%e3%81%84%e3%81%9f%e3%81%ae%e3%81%8b">#&lt;/a>&lt;/h2>
&lt;p>修理記号には、大きく分けて次のような働きがあります。ひとつの印に複数の情報を組み合わせることもあります。&lt;/p>
&lt;table>
 &lt;thead>
 &lt;tr>
 &lt;th>記録するもの&lt;/th>
 &lt;th>何に役立つか&lt;/th>
 &lt;th>確認できる実例&lt;/th>
 &lt;/tr>
 &lt;/thead>
 &lt;tbody>
 &lt;tr>
 &lt;td>修理した人・店・工房&lt;/td>
 &lt;td>自分が以前扱った時計か確かめる&lt;/td>
 &lt;td>個人の印、担当者や店のイニシャル。&lt;a href="#ref-1">1&lt;/a> &lt;a href="#ref-2">2&lt;/a> &lt;a href="#ref-4">4&lt;/a>&lt;/td>
 &lt;/tr>
 &lt;tr>
 &lt;td>作業した年月日&lt;/td>
 &lt;td>前回の作業からの経過を知る&lt;/td>
 &lt;td>オーバーホール日、電池交換日。&lt;a href="#ref-1">1&lt;/a> &lt;a href="#ref-2">2&lt;/a>&lt;/td>
 &lt;/tr>
 &lt;tr>
 &lt;td>作業の内容&lt;/td>
 &lt;td>今回の不調と前回の処置を照合する&lt;/td>
 &lt;td>洗浄・オーバーホールや部品を表す個人用コード。&lt;a href="#ref-4">4&lt;/a>&lt;/td>
 &lt;/tr>
 &lt;tr>
 &lt;td>台帳・作業の番号&lt;/td>
 &lt;td>工房にある詳しい記録へ戻る&lt;/td>
 &lt;td>作業番号、顧客カードとの対応。&lt;a href="#ref-3">3&lt;/a> &lt;a href="#ref-5">5&lt;/a>&lt;/td>
 &lt;/tr>
 &lt;tr>
 &lt;td>団体に登録した識別記号&lt;/td>
 &lt;td>記号から修理者を探す&lt;/td>
 &lt;td>米国の時計師団体によるケースマーク。&lt;a href="#ref-5">5&lt;/a> &lt;a href="#ref-6">6&lt;/a>&lt;/td>
 &lt;/tr>
 &lt;/tbody>
&lt;/table>
&lt;h3 id="誰が直したかのサイン">「誰が直したか」のサイン&lt;a class="anchor" href="#%e8%aa%b0%e3%81%8c%e7%9b%b4%e3%81%97%e3%81%9f%e3%81%8b%e3%81%ae%e3%82%b5%e3%82%a4%e3%83%b3">#&lt;/a>&lt;/h3>
&lt;p>1991年の米国の業界誌『Horological Times』には、職人ごとの記号の具体例が載っています。Alice B. Carpenterが紹介したRexという修理者は、Rにxを組み合わせた印を使っていました。別の職人は、作業番号を丸で囲み、その外側に日付を書いていました。&lt;a href="#ref-4">4&lt;/a>&lt;/p>
&lt;p>こうした印は、同じような外観の時計が再び持ち込まれたとき、自分の扱った個体かどうかを確かめる助けになります。一方、日本の修理現場でも、店名や担当者のイニシャルを残す例が説明されています。&lt;a href="#ref-2">2&lt;/a>&lt;/p>
&lt;p>署名であることと、第三者が修理者を特定できることは別です。Rという一文字だけでは、その人を知らない読者には意味が分かりません。書いた側の識別方法があって初めて、印と人が結びつきます。&lt;/p>
&lt;h3 id="いつ何をしたかのメモ">「いつ、何をしたか」のメモ&lt;a class="anchor" href="#%e3%81%84%e3%81%a4%e4%bd%95%e3%82%92%e3%81%97%e3%81%9f%e3%81%8b%e3%81%ae%e3%83%a1%e3%83%a2">#&lt;/a>&lt;/h3>
&lt;p>正美堂時計店の合田圭四郎は、電池交換で預かった時計の裏蓋を見て、前回の交換日を確認すると説明しています。前の交換から日が浅ければ、単なる電池切れ以外の原因も考える手がかりになります。同店では交換後に古いメモを消し、その日の日付を書き直して返していました。&lt;a href="#ref-2">2&lt;/a>&lt;/p>
&lt;p>ここで残しているのは電池交換の記録です。日付があるからといって、分解掃除をした日とは限りません。&lt;/p>
&lt;p>作業内容を数字で表す実例もあります。先ほどの1991年の記事には、団体登録の識別記号に独自の作業コードを続け、最後に日付を置く職人が登場します。その人の方式では、1が洗浄とオーバーホール、2が天真、3がぜんまいを表しました。天真は、テンプの軸にあたる部品です。&lt;a href="#ref-4">4&lt;/a>&lt;/p>
&lt;p>ただし、これは紹介された一人の職人の約束事です。別の時計に「2」があっても、同じ意味だとは読めません。宝石広場の修理技師・小島も、裏蓋の限られた場所に収めるために作業を略記し、その略し方はメーカーや工房によって違うと説明しています。&lt;a href="#ref-7">7&lt;/a>&lt;/p>
&lt;h3 id="詳細は台帳にあった">詳細は台帳にあった&lt;a class="anchor" href="#%e8%a9%b3%e7%b4%b0%e3%81%af%e5%8f%b0%e5%b8%b3%e3%81%ab%e3%81%82%e3%81%a3%e3%81%9f">#&lt;/a>&lt;/h3>
&lt;p>裏蓋に長い修理明細を書くことはできません。そこで、詳しい記録を工房の側に置き、時計にはそれを引くための印や番号を残す使い方がありました。&lt;/p>
&lt;p>英国のOxford Pocket WatchesのJohn Lashbrookは、英国で見かける印について、台帳番号や作業番号、記入者にだけ意味のある符号であることが多いと説明しています。&lt;a href="#ref-3">3&lt;/a> また、1959年の米国の資料には、時計の記号と、顧客の氏名・住所を記した店のカードを対応させる運用が記録されています。&lt;a href="#ref-5">5&lt;/a>&lt;/p>
&lt;p>つまり、裏蓋そのものが修理記録の全文とは限りません。「この時計の詳しい記録は、こちら」という索引の役目もあったのです。その場合、台帳が失われれば、番号だけを手がかりに作業内容を復元するのは難しくなります。&lt;/p>
&lt;h2 id="けがくペンで書くシールを貼る">けがく、ペンで書く、シールを貼る&lt;a class="anchor" href="#%e3%81%91%e3%81%8c%e3%81%8f%e3%83%9a%e3%83%b3%e3%81%a7%e6%9b%b8%e3%81%8f%e3%82%b7%e3%83%bc%e3%83%ab%e3%82%92%e8%b2%bc%e3%82%8b">#&lt;/a>&lt;/h2>
&lt;p>印を残す方法にも違いがあります。&lt;/p>
&lt;h3 id="金属にけがく">金属にけがく&lt;a class="anchor" href="#%e9%87%91%e5%b1%9e%e3%81%ab%e3%81%91%e3%81%8c%e3%81%8f">#&lt;/a>&lt;/h3>
&lt;p>けがきは、先のとがった工具で金属表面に細い線を刻む方法です。時計修理工房の友輝は、油性マジックで線を引いた上から、針状の工具で文字をけがく例を紹介しています。けがいた印は、超音波洗浄をしても残るという利点があると説明しています。&lt;a href="#ref-1">1&lt;/a>&lt;/p>
&lt;p>記録が消えにくい一方、時計そのものに跡を残します。同じ修理者は、見えない内側でも消せない跡を刻むことに抵抗があるとして、自分の作業では極細の油性マジックだけを使うと述べています。&lt;a href="#ref-1">1&lt;/a>&lt;/p>
&lt;p>修理する側にも、履歴を残すことを重視する考えと、素材に手を加えないことを重視する考えがあるわけです。&lt;/p>
&lt;h3 id="ペンで書く">ペンで書く&lt;a class="anchor" href="#%e3%83%9a%e3%83%b3%e3%81%a7%e6%9b%b8%e3%81%8f">#&lt;/a>&lt;/h3>
&lt;p>1996年の『Horological Times』には、Jack Kurdzionakによる「Stop Scratching」という提案が載っています。けがきの代わりに極細ペンを使い、「針だけ」「文字盤だけ」「巻真とリューズだけ」といった作業範囲を裏蓋に記す例です。紹介したペンの記録は、後の整備時にアルコールで消す運用を想定していました。&lt;a href="#ref-8">8&lt;/a>&lt;/p>
&lt;p>これは当時の職人の提案であり、どの時計・どの筆記具にも適用できる推奨手順ではありません。それでも、「印を付けるかどうか」だけでなく、「消せる形で残す」という選択が以前から議論されていたことが分かります。&lt;/p>
&lt;h3 id="シールと工房のデータ">シールと工房のデータ&lt;a class="anchor" href="#%e3%82%b7%e3%83%bc%e3%83%ab%e3%81%a8%e5%b7%a5%e6%88%bf%e3%81%ae%e3%83%87%e3%83%bc%e3%82%bf">#&lt;/a>&lt;/h3>
&lt;p>宝石広場の小島は、刻む方法、サインペン、シールを挙げています。また、裏蓋にはサインを残さず、パソコンで履歴を管理する工房もあると説明しています。&lt;a href="#ref-7">7&lt;/a>&lt;/p>
&lt;p>紙や画面の修理記録と、時計の中の印では、情報の残る場所が違います。外の記録は詳しく書けますが、その記録と時計を対応させる手がかりが必要です。内側の印は時計と一緒に移動しますが、記入できる量が少なく、読み方が引き継がれないこともあります。&lt;/p>
&lt;p>そのため、ペンがあるから新しい、けがきだから古い、と年代を二分することもできません。ここで確認した資料でも、同じ時代に方法の選択が分かれています。&lt;a href="#ref-1">1&lt;/a> &lt;a href="#ref-7">7&lt;/a> &lt;a href="#ref-8">8&lt;/a>&lt;/p>
&lt;h2 id="職人の印を集めた米国の登録制度">職人の印を集めた、米国の登録制度&lt;a class="anchor" href="#%e8%81%b7%e4%ba%ba%e3%81%ae%e5%8d%b0%e3%82%92%e9%9b%86%e3%82%81%e3%81%9f%e7%b1%b3%e5%9b%bd%e3%81%ae%e7%99%bb%e9%8c%b2%e5%88%b6%e5%ba%a6">#&lt;/a>&lt;/h2>
&lt;p>個人用の符号を、ほかの人からもたどれるようにしようとした仕組みがあります。&lt;/p>
&lt;p>1959年7月の『FBI Law Enforcement Bulletin』に、United Horological Association of America（UHAA）の事務局長Orville R. Hagansが寄稿しています。同協会は職人の記号を集める全国的な登録簿を整備し、記事では5,000件を超える登録があると報告していました。会員以外も、無料で登録できる制度でした。&lt;a href="#ref-5">5&lt;/a>&lt;/p></description></item></channel></rss>