Antiquarian Horological Society(AHS)は、時計と時間計測の歴史を研究し、その成果と資料を次の研究へつなぐ英国の学会です。1953年に発足し、季刊誌『Antiquarian Horology』、講演・見学、専門部会、図書館・アーカイブを通じて活動しています。製品の精度を認証する機関ではなく、時計という物と、それを作り使った人々の歴史を調べるための組織です。1
成立と組織の位置づけ#
ロンドンの所蔵資料目録は、AHSの創設を1953年10月としています。一方、Companies Houseの法人登録では、正式登記名は ANTIQUARIAN HOROLOGICAL SOCIETY(THE)、法人番号は00541551、設立日は1954年12月4日です。学会としての活動開始と、その後に法人として成立した日を分けて理解する必要があります。法人形態は株式資本を持たない保証有限会社で、2026年11月7日確認時の登記住所はロンドンの4 Lovat Laneです。公式サイトには登録チャリティ番号260925も示されています。2 3 1
初代ChairはFrank Knowles-Brownで、1953〜1961年に務めました。その後はTheodore Camerer Cuss、Charles Droverらが引き継ぎ、2015年からJames NyeがChairです。Presidentは別の役職で、Lord Harris、Nicholas Goodison、Arnold Wolfendale、Lisa Jardineを経て、2016年からPatricia Faraが務めています。現在の運営は会員から選ばれるCouncilを中心に、事務局、編集、図書、アーカイブなどの担当が支えています。4 1
AHSの目的には、時間計測に関する美術・技術・歴史の研究、独自研究の普及、時計と関連する工芸品の保存が含まれます。そのため、時計の銘や部品を調べる物の研究と、帳簿・刊行物・書簡を読む文献研究が同じ活動の中にあります。1
会誌が蓄積する時計史#
『Antiquarian Horology』は1953年から刊行される季刊誌です。研究論文に加え、書評、会合の報告、書簡などを掲載し、会員へ送付されます。投稿者向けの執筆要領と、査読者向けの注意事項が別々に公開されていることも、学会誌としての仕組みを示しています。5 6
研究を探す入口には二種類の索引があります。一つは創刊からの論文題名一覧、もう一つは各巻末索引をまとめた検索可能なPDFです。題名から関心のある対象を見つけ、詳細索引や本文へ進む使い方ができます。2026年11月7日確認の会員案内と索引案内では、検索可能な会誌アーカイブは1953年の創刊号から「2年前まで」が対象です。紙の最新号の受領と、オンラインの過去号閲覧は範囲が異なります。7 8
会誌だけでなく、古い技術資料への到達を助ける仕事もあります。公開研究資源のページには、Thomas Earnshawの1808年の著書へのJonathan Betts作成の索引、John Harrisonの原資料、James Upjohnの手稿の翻刻・研究を含む刊行物などが用意されています。原本の画像、翻刻、解釈、索引はそれぞれ役割が異なり、古い資料を検索し、読み、根拠として確かめる手間を減らします。9
三つの専門部会#
電気時計の研究#
Electrical Horology Groupは電気を利用する時間計測を扱います。講演や見学に加え、会誌全体には専門的すぎるテーマをTechnical Papersという別の資料群にまとめています。公式案内によれば刊行点数は100点を超え、会員用の検索可能なアーカイブで利用できます。10
その一覧には電気接点での火花防止、電気時計の電流制御、親時計、クオーツと原子時などが並びます。機械式時計の歯車と脱進機だけを追うと見落としやすい、電源・接点・配線・同期の問題も時計史の対象になります。公開研究資源には、親時計が複数の子時計へ時刻を伝えるSynchronomeの調整に関する技術文書も紹介されています。10 9
塔時計の調査と記録#
Turret Clock Groupは、建物に設けられた大時計を対象に、見学・会合・講演を行う部会です。会員が利用できる塔時計のデータベースも運営し、情報提供の入口を設けています。個々の時計を現地で見る活動と、調査結果を蓄積する仕組みが組み合わされています。11

図1:ベルンのツィットグロッゲ時計の銘板。写真の説明によれば、AHSの2008年スイス視察旅行の際に撮影されました。作者:Fortunat Mueller-Maerki。出典:Zytglogge-Bern-MakersNameplate.jpg(Wikimedia Commons)。ライセンス:CC BY-SA 3.0。変更:なし。
この写真のような製作者名・年号の記録は、機構の観察とともに時計の歴史を調べる手掛かりになります。ただし、現存する銘板の写真だけで時計の全ての部品が同じ年代と判断することはできません。
腕時計をめぐる研究と議論#
Wristwatch Groupの初会合は、2015年10月29日にロンドンのブレゲのブティックで開かれました。2016年1月の会合報告では、収集家、ケースの修復家、博物館学芸員、販売店側が、腕時計のオリジナル性をめぐって議論しています。使い続けるための修理と、歴史資料として介入を抑えて保存する考え方の違いも紹介されています。12
このように腕時計は、型番や市場価格だけでなく、製造技術、修復、所有者の使い方、博物館での保存を横断する研究対象になっています。同会合における各参加者の見解を、AHS全体の統一的な保存基準とみなすことはできません。12
図書館とアーカイブの違い#
AHSの図書館はロンドンのGuildhall Libraryに置かれています。AHS、Clockmakers、Guildhallの各図書館の印刷書籍を調べる共通のオンライン目録があり、公式案内は貸出を行わないとしています。利用を考える場合はGuildhallへ直接確認するよう案内されています。13
これに対し、AHS本部のアーカイブは、研究ノート、手稿、写真、カタログ、修理記録、書簡などを保存します。公式案内では全体で棚延長約80メートルに及び、寄贈・遺贈された資料を、可能な範囲で最初の収集者の名の下に整理しています。完成した本だけでなく、研究が形になる前の記録も残す活動です。14
また、The London Archives所蔵のAHS関係資料群CLC/002には、学会の議事録・会員一覧・広報資料のほか、Benjamin Grayの1704〜1726年の日記帳などが記録されています。資料群の年代が1704年から始まるのは、学会そのものが18世紀に存在したという意味ではありません。古い職人の記録を後世の学会が保存・寄託しているためです。この資料群には学会の許可を要する閲覧制限が明記されています。2
研究と技能を支える賞#
AHSは刊行物だけでなく、教育と研究を賞で支えています。1994年に設けられたPercy Dawson Medalは、当初の新しい執筆者を奨励する目的から、現在は全ての執筆者を対象とした会誌の優れた論文への賞となっています。2004年設立のDr Alan Shenton Awardは、1840年以降の時間計測に関する優れた会誌論文を対象としています。15
Birmingham City UniversityとWest Dean Collegeの学生を対象とする賞もあります。2026年11月7日確認の基準では、完成品だけでなく、調査と参照資料、設計・製作過程を説明する記述も重視されています。AHSが支えるのは過去の物を集めることだけでなく、その理解を実技と文章に結び付ける活動でもあります。15
年表#
| 年月 | 出来事 |
|---|---|
| 1953年10月 | AHSが発足。会誌も1953年に刊行を開始。2 5 |
| 1954年12月4日 | 保証有限会社として法人設立。3 |
| 1961年 | 初代ChairのKnowles-BrownからCamerer Cussへ交代。4 |
| 1983年以降 | Cedric Jaggerが学会役員として関係記録を寄託。2 |
| 1994年 | Percy Dawson Medalを設立。15 |
| 2000年 | AHS初期ウェブサイトが公開。1 |
| 2004年 | Dr Alan Shenton Awardを設立。15 |
| 2015年 | James NyeがChairに就任。10月にはWristwatch Groupの初会合。4 12 |
| 2016年 | Patricia FaraがPresidentに就任。4 |
| 2026年11月確認 | 紙の季刊誌、2年前までの会誌デジタル閲覧、三専門部会、図書・アーカイブ活動を継続。8 14 |
参考文献#
以下はいずれも2026年11月7日閲覧。
- AHS, About us.
2. The London Archives / AIM25, ANTIQUARIAN HOROLOGICAL SOCIETY, CLC/002.
3. Companies House, Company 00541551 overview.
4. AHS, Former postholders.
5. AHS, The Journal.
6. AHS, Contributor guidance.
7. AHS, Indexes for Antiquarian Horology.
8. AHS, Join us or renew membership.
9. AHS, Research resources.
10. AHS, Electrical Horology Group.
11. AHS, Turret Clock Group.
12. AHS, Wristwatch Group.
13. AHS, The AHS Library.
14. AHS, Discover the AHS Archive collections.
15. AHS, Prizes and awards.