スイス時計協会FH

スイス時計協会FH

スイス時計協会FH(Fédération de l’industrie horlogère suisse FH、英語名 Federation of the Swiss Watch Industry FH)は、スイスの時計産業を代表する業界団体です。ビール/ビエンヌを拠点に、企業の共通利益を行政や海外市場に伝え、輸出統計、産地表示の保護、模倣品対策、技術標準化などを担います。時計ブランドを所有・製造する企業集団ではなく、民間の職業団体として組織されています。1 2

二つの前身から現在の協会へ#

現在のFHは1982年11月19日に設立され、1983年1月1日に活動を開始しました。合併したのは、1876年に起源を持つスイス時計商工会議所と、1924年設立のスイス時計製造業者連盟です。したがって1876年は前身の出発点、1982年は現在の協会の成立年に当たります。3

会議所の系譜は、1876年5月14日に発足したジュラ産業の州際団体にさかのぼります。1900年に時計と関連産業の商工会議所となり、州の商工会議所や地域団体を束ねました。一方、製造業者側は1924年1月17日に全国的な連盟を設立します。1920年代の過剰生産、販売不振、失業を背景に、価格や部品供給をめぐる業界内の調整が重要になりました。3

戦後には共同宣伝が広がり、1960年代末以降は経済、法務、通商、技術へ活動が多様化しました。二団体の活動領域が重なったことが1982年の統合につながったと、公式沿革は説明しています。3 この歩みは、時計産業の団体活動が製造業者間の調整から、海外市場への対応や共通の制度を支える仕事へ展開してきた過程として読むことができます。

会員と産業の窓口#

2026年11月6日確認の公式案内では、会員は約500で、大企業だけでなく個人事業、部品企業、中小企業、他の団体、サービス事業者も含みます。4 FHは会員間の利害を調整して業界の立場をまとめ、法律・経済・商業の情報やサービスを提供します。香港、日本、ラテンアメリカにも活動拠点を持ちます。1

情報の利用者は会員だけではありません。2010年に専門誌『arbido』が行った当時の会長ジャン=ダニエル・パッシュへの取材では、報道機関、政治当局、労働組合からも統計や産業情報の照会があると説明されています。同取材は、団体が保有していた歴史資料をラ・ショー=ド=フォンの国際時計博物館へ移したことも記録しています。FHは産業の現状を伝える窓口であるとともに、企業ごとには残しにくい業界史の資料をつなぐ役割も果たしてきました。2

輸出統計をどう読むか#

FHの時計輸出統計は、連邦税関の貿易統計に基づいて毎月更新されます。金額は輸出企業の申告した輸出価格です。市場・地域、価格帯、素材、機械式とクォーツ式などの区分で、産業の動向を調べられます。5

ここでいう輸出額は、消費者が店頭で買った時計の小売売上ではありません。輸出から販売までの在庫や流通の時間差があり、企業・企業集団ごとの業績を示すものでもありません。例えばある市場向けの輸出が増えても、それだけで現地の消費者需要が同率で増えたとは判断できません。統計には後日の改訂もあるため、比較には最新公表値と同じ集計範囲を用いる必要があります。5

Swiss madeの保護と技術の共通基盤#

産地表示と法制度#

FHは2007年に、時計のSwiss made表示を強化する取り組みを始めました。狙いは表示の信用を守り、スイスに由来する付加価値を確保し、不正使用に対処することでした。6

制度は協会の自主的な宣伝文句だけで決まるものではありません。スイス連邦知的財産庁によると、連邦参事会は2016年6月17日に時計のSwiss表示に関する政令改正を承認し、2017年1月1日に施行しました。完成した時計の製造費用の少なくとも60%をスイスで生じさせることが改正の主要点です。時計とムーブメントの技術開発もスイスで行うことが求められます。7 この60%は部品の個数の割合ではありません。FHが制度強化を推進したことと、国が法的条件を定めたことを区別して理解する必要があります。

標準化、模倣品対策、規制への対応#

2025年の年次報告によれば、FHはスイス時計工業規格(NIHS)の作成・改訂・刊行を担い、スイス規格協会の下で、時計を扱うISOの専門委員会TC 114の議長と事務局も担っています。規格の対象には材料、構造、試験、防水性、耐衝撃性、耐磁性などがあります。共通の用語や試験条件を整える仕事であり、個々の製品の精度認定とは役割が異なります。8

同年の報告は、オンラインの模倣品出品削除、通商障壁への対応、会員への市場情報提供も記載しています。また持続可能性の作業部会を設け、複雑化する社会・環境関連の規制について経験を共有する場を整えました。これらはFH自身による活動報告であり、対策の効果を独立に測定した評価とは区別されます。8

FHの特徴は、時計そのものの設計ではなく、製造・輸出・表示・取引を成り立たせる共通基盤を扱う点にあります。輸出統計は産業を測る道具、Swiss madeは産地との結び付きを示す制度、技術規格は製品や試験を共通の条件で扱う道具です。それぞれの範囲を分けて見ると、業界団体の役割が理解しやすくなります。

年表#

年月日出来事
1876年5月14日前身の系譜に当たるジュラ産業の州際団体が発足。3
1900年時計と関連産業の商工会議所となる。3
1924年1月17日スイス時計製造業者連盟を設立。3
1982年11月19日二団体の合併により現在のFHを設立。2
1983年1月1日現在のFHが活動を開始。2
2007年FHがSwiss madeの条件強化に取り組み始める。6
2017年1月1日改正された時計のSwiss made政令が施行。7
2025年年次報告にNIHS・ISO標準化、模倣品対策、持続可能性作業部会の活動を記載。8

参考文献#

1. FH, “About us”, 公式団体概要(2026年11月6日閲覧)。

2. Stéphane Gillioz, “Fédération de l’industrie horlogère suisse: Entretien avec Jean-Daniel Pasche, président”, arbido, 2010/1, インタビュー(2026年11月6日閲覧)。

3. FH, “Our history”, 公式沿革(2026年11月6日閲覧)。

4. FH, “Become an FH member”, 会員案内(2026年11月6日閲覧)。

5. FH, “Watch industry statistics”, 統計と利用上の注意(2026年11月6日閲覧)。

6. FH, “Stricter Swiss made criteria for watches”, 制度強化の説明(2026年11月6日閲覧)。

7. Swiss Federal Institute of Intellectual Property, “Revision of the Ordinance on the Use of ‘Swiss’ for Watches”, 政令改正の説明(2026年11月6日閲覧)。

8. FH, Annual Report 2025, 2026, pp. 10–23, PDF(2026年11月6日閲覧)。