高級時計財団FHH

高級時計財団FHH

高級時計財団FHH(Fondation de la Haute Horlogerie)は、時計の歴史・技術・工芸を文化として伝える、ジュネーブの財団です。2005年にオーデマ ピゲ、ジラール・ペルゴ、リシュモン・グループが設立しました。時計を製造するブランドや企業集団ではなく、展示、教育、知識の認定、業界の対話を通じて時計への理解を広げる組織です。1

成立と活動の変化#

創設当時のスイス時計協会FHの発表では、FHHは文化・制度を担う非営利の部門と、展示会・販売促進を担う部門を組み合わせていました。後者には2006年の第16回SIHH(ジュネーブ国際高級時計サロン)の運営が託されました。時計師や製造業者だけでなく、小売店、収集家、報道関係者も結ぶ構想で、とりわけ顧客に時計を説明する小売店への働きかけを重視していました。2

知識教育を担うFHH Academyは2014年に発足しました。2021年には文化普及をWatches and Cultureとして展開し、展示会のWatches and Wondersと並ぶ活動として説明しています。当時の発表には、2016年に作られた学習アプリWatch Essentialsの更新や、若い層への交流媒体の活用も挙げられています。1 3

展示会の体制はその後変わります。2022年10月27日の発表によると、ロレックス、リシュモン、パテック フィリップが同年9月にWatches and Wonders Geneva Foundation(WWGF)を設立しました。FHHの当時のCEOマチュー・ユメールは、新財団のCEOに就くとされています。FHHとWWGFは名前の異なる財団であり、創設者の組み合わせも同じではありません。4

2023年6月のFHの紹介では、FHHは文化普及、Academy、Forumの三本柱へ活動を集中し、パスカル・ラヴスーとオーレリー・ストライトが共同で率いる体制となっています。過去のSIHH運営を、そのまま現在のFHHの事業構成と考えないことが大切です。5

時計文化を伝える三つの活動#

Watches and Cultureは、展示やデジタルコンテンツを通じて一般の人と時計文化をつなぎます。2021年の活動紹介は、専門家や愛好家だけでなく、時計にまだ詳しくない人への入口を設ける意図を示しています。学習アプリにはゲームやクイズを取り入れ、専門知識に触れる方法を広げました。3

FHH Academyは時計について説明し、理解するための知識を育てます。入門のWatch Advisorでは、機械式時計の動きや部品の役割、ブランドと産業、素材と仕上げ、歴史上の発明などを扱います。公式案内には、講師による講習、動画とクイズによる10章の自習教材、推薦図書やアプリを使う自主学習が示されています。認定の対象は理論的な時計知識であり、これを時計修理の実技資格や時計製品の精度保証と読み替えることはできません。6

FHH Forumは業界関係者が将来を議論する場です。2023年の説明は、持続可能性、遺産、革新、顧客体験、産業という五つの論点を挙げています。新製品の紹介に限らず、文化の継承と産業の課題を結び付ける役割を担います。同年の資料では約40のパートナーブランドの支援を受けており、この数値は当時の状況です。5

知識認定の仕組みと範囲#

2026年11月6日に確認した2025年1月23日付試験規則には、Advisor、Specialist、Expertの三種類の試験があります。出題分野は技術、市場の担い手、素材、歴史と文化の四つです。Advisorは80問・1時間、Specialistは120問・1時間30分、Expertは160問・2時間と定められています。7

Advisor試験からの認定は総合70%以上、Specialist試験からは総合75%以上が条件です。一方、Expert試験から下位の認定を受ける経路もあり、Advisorは総合55%以上、Specialistは総合70%以上に加えて歴史と文化60%以上、他の各分野70%以上が必要です。Expert認定は総合80%以上に加え、歴史と文化70%以上、他の各分野80%以上を求めます。全問への回答も認定条件です。7

各設問では回答と確信度を申告し、規則の配点表に従って加点・減点されます。したがって、合格基準の百分率を単なる正答率と同一視することはできません。これは知識の評価制度であり、受験者が作った時計や販売する時計そのものを認証する制度ではありません。7

高級時計を説明する言葉#

FHHの『Fine Watchmaking Manifesto』は、高級時計を理解するための指針です。時計の技術と応用芸術の結び付き、伝統と革新、知識の継承、倫理と文化などを取り上げています。歴史あるメゾン、現代のブランド、複数分野を扱う高級ブランド、独立した作り手という異なる担い手を扱い、ブランド名だけで時計の価値を決めない視点も示します。8

同書は、自らの枠組みを厳密科学ではなく、理解を助ける指針として位置付けています。文化評議会は活動への助言と知識提供を担い、独立性のため、委員は時計ブランドや企業集団から選ばず無報酬とする、と説明しています。こうした自己説明と、外部機関による品質保証や法的規格は区別して読む必要があります。8

FHHの時計史上の役割は、特定の機構の発明というより、専門家の知識を展示・教材・認定・議論の形へ変換する点にあります。時計がどのように動くかに加え、なぜその素材や仕上げ、歴史が意味を持つのかを共有するための基盤といえます。

年表#

年出来事
2005オーデマ ピゲ、ジラール・ペルゴ、リシュモンがFHHを設立。1
2006創設時の発表に基づき、第16回SIHHの運営を担当。2
2014FHH Academy発足。1
2016学習アプリWatch Essentialsが作られる。3
2021Watches and Cultureとして文化普及活動を展開。3
2022別財団WWGFの設立が発表される。4
2023文化普及・Academy・Forumの三本柱と共同指導体制を紹介。5
20251月23日付の試験規則で三種類の試験と認定条件を規定。7

参考文献#

以下のWeb資料は2026年11月6日閲覧。

  1. FHH, About us, “Who we are”, “What we do”, “Leadership”.

2. スイス時計協会FH, Fine Watchmaking – Creation Of The FHH, 2005年11月22日。

3. スイス時計協会FH, Watches and Culture, 2021年8月19日。

4. Richemont, Watches and Wonders creates its own Foundation!, 2022年10月27日。

5. スイス時計協会FH, FHH is refocusing on three important pillars, 2023年6月22日。

6. FHH, FHH Watch Advisor, “Format and Content”, “How to train yourself?”.

7. FHH Academy, Examination Regulations, 2025年1月23日、第6〜15条。

8. FHH, Fine Watchmaking Manifesto, pp.3–11、刊年記載なし。