チャールズ・ファソルト ― 二つのがんぎ車を使ったアメリカの時計師

チャールズ・ファソルト ― 二つのがんぎ車を使ったアメリカの時計師

チャールズ・ファソルト#

チャールズ・ファソルト(Charles Fasoldt)は、ドイツで時計製作を学び、19世紀半ばにアメリカで時計と精密器械を作った時計師・発明家である。大小二つのがんぎ車を同軸に置いた携帯時計の脱進機を改良し、自らの時計に「パテント・クロノメーター」の名を用いた。振り子時計の脱進機や顕微鏡用の精密な線引き装置にも取り組んでいる。1 2 3

生没年には食い違いがある。スミソニアンの器械目録は1819–1889年とする一方、サザビーズの競売目録は1818–1898年と記す。ここではこの相違を残す。3 4

ドレスデンからニューヨーク州へ#

スミソニアンによれば、ファソルトはドレスデンで生まれ、時計師として徒弟修業をし、ザクセン軍にも所属した。1849年の反乱に関わった後、家族とアメリカへ渡り、ニューヨーク州ローム、続いてオールバニに拠点を置いた。同館はオールバニへの移転を1861年としている。3

作品にもローム時代の痕跡がある。時計番号43はロームの名と1859年の特許日を刻み、二つの爪を使う初期型の脱進機を備えると競売目録に記載される。5 一方、1864年の緩急調整器の特許は発明者をロームの住人と記し、1865年の脱進機特許はオールバニと記す。特許の住所表記だけで実際の移転日を確定することはできない。1 6

時計の精度を支える発明#

二つのがんぎ車と三つの役割#

機械式時計では、動力源からの力を歯車列で伝え、脱進機がその進みを区切りながらテンプの振動を維持する。ファソルトの1865年米国特許第46,652号は、1859年の自身の特許を改良したものとして、同じ軸に固定した大小二つのがんぎ車を示す。1 7

明細書では、小さい車の歯がレバーに作用し、テンプの往復の一方向に力を与える。大きい車の歯は二つの停止爪によって交互に止められ、反対方向の運動はテンプの慣性とひげぜんまいによって続く。力を与える部分と、車の進みを止める部分を分ける設計である。特許図は四つの位置を示しており、部品の位置関係は図と文章を合わせて読む必要がある。1

発明者は停止爪と歯の摩擦がテンプの運動へ影響せず、脱進機に油が不要で、衝撃にも強いと主張した。これは特許での説明であり、あらゆる使用条件で無給油や精度が保証されたという実測結果ではない。1 同じ「クロノメーター」の名称でも、ここで示される構造を船舶用のばねデテント脱進機と同一視することはできない。

緩急調整と振り子時計#

1864年の米国特許第42,175号は、ひげぜんまいの緩急調整を細かく行うための装置を説明する。この装置はねじと弾性アームを用いてひげぜんまいに作用し、歩度を微調整する。6 サザビーズが記録した携帯用置時計には、二車式脱進機と微調整器、巻き上げた端曲線を持つひげぜんまいが組み合わされ、1859年・1864年・1865年の特許日が刻まれている。8

ファソルトの関心は携帯時計に限らなかった。1884年の米国特許第301,873号は、1873年の時計脱進機を改良し、重力で働くレバーを固定部分から吊るすことと、がんぎ車の作用でレバーを解放することを目的とする。9 スミソニアンには1875年の特許日を持つ塔時計の模型も残る。模型が示すのは申請に関連する設計であり、それだけで個々の塔への設置を証明するものではない。10

作品と精密加工#

番号43のローム銘時計に加え、番号77はオールバニの Arthur Bott のために1864年3月12日付で作られたと刻まれる懐中時計として記録される。こうした署名や銘は、一般的な製造数の推定よりも、個別の作品と顧客の関係をたどる具体的な手掛かりになる。5 11

米国国立博物館の1909年報告は、1864–1870年にファソルトが製作した懐中クロノグラフと懐中クロノメーターの寄贈を記録する。クロノグラフには通常の時刻機構とは独立した計測機構があり、分・秒・10分の1秒の三つの指針を備えたという。同報告は同種のクロノグラフの製作数を4、5個以下と伝えるが、これは当時の博物館の記述であり、現在確認できる総数そのものではない。12

時計以外では顕微鏡とその性能を調べるための器械に取り組んだ。スミソニアンによれば、1870年代後半から顕微鏡の分解能を試す細かい線入りの試験板を作り始めた。同館所蔵の線引き装置は、細かい繰り返し位置を作る工作が時計製作の外でも重要だったことを示す。ただし現存する装置は、当初の設計から大きく改修されている。3

年表#

年確認できる出来事
1849年ごろドレスデンでの反乱の後、家族と渡米し、その後ニューヨーク州ロームで活動する。3
1859年2月1日、時計脱進機の米国特許第22,791号。7
1864年4月5日、緩急調整器の米国特許第42,175号。特許上の所在地はローム。6
1865年3月7日、二車式脱進機の改良特許第46,652号。特許上の所在地はオールバニ。1
1875年塔時計の特許模型に7月27日の特許日が記録される。10
1870年代後半顕微鏡用の線入り試験板を製作し始める。3
1884年7月15日、振り子時計用重力レバー脱進機の改良特許。9
1909年国立博物館が懐中クロノグラフとクロノメーターの寄贈を報告。12

ファソルトの時計は、特許図に見える設計と現存する個体を照らし合わせて理解できる。ただし個体の仕様は一様ではなく、競売目録の推定製作数にも幅がある。現存個体の番号や宣伝上の名称だけから生産総数や優位性を確定することはできない。5 8

参考文献#

1. Charles Fasoldt, “Improvement in Chronometer-Escapements,” 米国特許 US46652A、1865年3月7日、明細書、2026年11月1日閲覧。

2. National Museum of American History, Chronometer Escapement, Patent Model、資料番号 ME.309055、2026年11月1日閲覧。

3. National Museum of American History, Fasoldt Ruling Engine、2026年11月1日閲覧。

4. Sotheby’s, Charles Fasoldt, Albany, New York, lot 1、2010年、2026年11月1日閲覧。

5. Jones & Horan, Exquisite Pocket Watches, No. 43、2019年、2026年11月1日閲覧。

6. Charles Fasoldt, “Improvement in Regulating Watches,” 米国特許 US42175A、1864年4月5日、明細書、2026年11月1日閲覧。

7. Charles Fasoldt, “Escapement for Timekeepers,” 米国特許 US22791A、1859年2月1日、明細書、2026年11月1日閲覧。

8. Sotheby’s, Charles Fasoldt, Albany, New York, lot 2、2010年、2026年11月1日閲覧。

9. Charles Fasoldt, “Escapement for Clocks,” 米国特許 US301873A、1884年7月15日、明細書、2026年11月1日閲覧。

10. Smithsonian Institution, Patent Model, Clock, Tower、資料番号 nmah_856758、2026年11月1日閲覧。

11. Christie’s, Charles Fasoldt, No. 77, made for Arthur Bott、2026年11月1日閲覧。

12. United States National Museum, Report for 1909、時計資料の寄贈記録、2026年11月1日閲覧。