時計と航海計器をつないだ職人#
エドワード・マッシー(Edward Massey、1768–1852)は、イングランドの時計師、脱進機製作者、航海計器の発明者である。懐中時計のマッシー式レバー脱進機と、船の速力や水深を測る機械式計器に名を残した。同名の父も時計師だったため、初期の資料では息子を「Edward Massey the Younger」と区別する必要がある。1 2
時計と航海計器は用途が違うが、どちらも歯車、軸、回転の制御と読み取りを要する。マッシーは完成時計だけでなく、他の時計に組み込まれる脱進機を扱い、海では回転を距離や深さの指示へ変える装置を改良した。これらを一人で完成させた単純な成功談ではなく、部品の分業、実用試験、複数の改良を伴う仕事として見ることができる。2 3
生涯と仕事の場#
マッシーはスタッフォードシャーのニューカッスル・アンダー・ライムに生まれた。海事史研究によれば、父の下で時計製作を学び、1790年に同町の自由市民となった。父の仕事を経て1802年には独立し、HanleyとBurslemで航海計器製作者として活動していた。父は1813年に亡くなっている。1 2
Science Museum Groupの人物目録は、1803年に空気抵抗を使う調速羽根を用いない打鐘輪列の設計でSociety of Artsから20ギニーを受け、1813年にコヴェントリーへ移り、1825年までにロンドンのクラーケンウェルに製造所を開いたと記す。一方、海事史研究は1819–1830年の居住・仕事の場をランカシャーのPrescotとする。製造所と居住地が必ずしも同一とは限らないが、この資料だけでは時期の関係を確定できない。1 2
Prescot周辺は時計部品の供給地で、完成品の署名がそのまま全部品の製作者を意味するわけではない。マッシーの名を持つ脱進機も、別の時計師や販売者の名を刻む時計の中に見られる。誰が各個体を組み立てたかは、署名や刻印、現物の検討を分けて判断する必要がある。3 12
マッシー式レバー脱進機#
機械式時計では、ぜんまいから輪列に伝わる力を脱進機が小刻みに解放し、振動するてんぷへ力を補う。レバー式では、がんぎ車を交互に止めるアンクルと、てんぷ側の部品が周期的に接触する。振動の大部分で両者が離れる方式を離脱式という。先行するリザーランドのラック・レバーは広く使われたが、離脱式ではなかった。3
時計史解説によれば、マッシーは1812年頃から、てんぷ軸上のローラーの突起がレバーを動かす離脱式を発展させた。形には複数の変種があり、後には宝石製の振り石を使う形も現れた。後世の英国式レバーでは、平たいローラーと、別の小さな安全ローラーを用いる構成が発達する。これは複数の製作者による展開であり、後の標準形をすべてマッシー一人の発明とみなすことはできない。3 5
1814年の離脱式レバーの特許について、技術革新を扱う研究が言及している。また骨董商の解説は、押し引き式巻上げに関係する同年のマッシーの特許を第3854号と記す。時計用特許の原明細書は確認できておらず、これらは二次資料に基づく説明である。請求範囲の細部は確定できない。6 11
グリニッジの海事博物館が所蔵するNo.3552は、John Wood Liverpoolの署名と1826–1827年のチェスターの刻印を持ち、マッシーII型脱進機、約30時間の持続、巻上げ中も動力を保つ機構を備える。博物館は贈呈に関する来歴には疑いがあると注記している。12
別のBaldwin & Jones名義の時計にも、マッシー式の脱進機と「EMP」の刻印が報告されている。刻印は部品の由来を考える手掛かりだが、それだけで時計全体の製作や輸出の経緯を確定できない。7
水深と船の進みを測る#
測深器の仕組み#

1873年の雑誌に描かれたマッシー式測深器。作者不詳。出典:Wikimedia Commons。パブリックドメイン(米国での保護期間、日本の著作権法)。加工なし。
海上では水深を知ることが座礁回避に重要だった。マッシーが1802年に特許を得た測深器の現存例をScience Museum Groupが説明している。器具をロープで水中へ下ろすと、水流で羽根が回転し、その回転がウォームねじを介して計数機構に伝わる。海底に達すると機構が止まり、引き上げた後に目盛りを読む。下ろしたロープの長さを人が直接数える代わりに、器具自身が下降を記録する考え方である。8
海事史研究によれば、1802年の特許第2601号と1806年の第2938号は測深を主とし、船の速力の測定も副次的に含んだ。初期の速力計は水面へ飛び出す問題を抱え、測深器も競合するより簡単な装置に一時取って代わられた。発明から採用までが一直線だったわけではない。2
船速計の改良#
船速計は船と水との相対的な動きで回転子を回し、その回転を指示へ伝える。1835年のドイツ語技術誌は、1834年12月9日にEdward Massey the elderへ与えられた特許を紹介し、船尾下に没する回転子、歯車、垂直の連結棒を介した指示器を説明する。同じ紹介には、測深器を引き上げる間にウォームが回り続けるのを防ぐ停止装置もある。これは同時代の特許紹介であり、原明細書そのものではない。9
Science Museum Group所蔵の1836年頃の測深器には、回転子を保護する環と、引き上げ時に水圧で羽根の回転を止める仕組みがある。博物館はこれを1836年の特許の改良型と説明する。水中での計数だけでなく、衝突からの保護と回収時の誤計数も実用上の課題だったことが分かる。10
1844年には電気を利用する船速計について特許を出願した。海事史研究が説明する装置では、船尾に引く回転子の動きで接点を断続し、船上の電磁石が歯車を一歯ずつ進める。船上に置いたダニエル電池が電流を供給し、指示盤で航走距離を読む。回転を長い機械的伝動だけで船上まで戻す代わりに、電気信号として伝える仕組みである。同研究は1848年にも改良特許があり、後に甥のThomas F. Walkerが発展させたと記す。2
作品と評価#
Science Museum Groupによれば、マッシーのクロノメーター第1号はグリニッジ天文台の試験後、1842年に海軍が50ギニーで購入した。購入は公的利用の具体例だが、この記録だけで試験順位や航海中の性能までは分からない。1
彼の仕事は、時計の部品専門家と航海計器の製作者という二つの側面を持つ。脱進機は時計の振動と輪列の間を、測深器は水中の移動と計数機構の間を取り持つ。両者を同じ発明に還元することはできないが、回転を確実に伝え、必要なときに止める機構への関心が、異なる仕事を理解する手掛かりになる。
年表#
- 1768年:ニューカッスル・アンダー・ライムに生まれる。1
- 1790年:同町の自由市民となる。1
- 1802年:独立して活動し、測深を主とする装置の特許を取得。2 8
- 1803年:打鐘輪列の設計でSociety of Artsから賞を受ける。1
- 1806年:航海計器の改良について第2938号特許を申請。2
- 1813年:父が死去。博物館の人物目録はコヴェントリーへの移動を記す。1 2
- 1814年:二次資料は離脱式レバーの特許と、押し引き式巻上げに関係する第3854号特許を記す。6 11
- 1825年まで:クラーケンウェルに製造所を開く。1
- 1834–1836年:船速計と測深器の改良が特許・現存品に記録される。9 10
- 1842年:クロノメーター第1号が試験後に海軍へ購入される。1
- 1844・1848年:海事史研究によれば電気式船速計と改良の特許を出願。2
- 1852年:死去。1
参考文献#
1. Science Museum Group, Edward Massey, 人物目録(2026年11月4日閲覧)。
2. J. Pottinger, 「Massey’s Patent Electric Log」, Liverpool Nautical Research Society, Merseyside Maritime Research 2008, pp. 53–59(2026年11月4日閲覧)。
3. David Boettcher, English Watchmaking, レバー脱進機と分業の節(2026年11月4日閲覧)。
5. Joseph Johnson and John Johnson, 脱進機の型の説明(2026年11月4日閲覧)。
6. BADA, Rare Pull Wind Gold English Duplex, 骨董商の作品解説(2026年11月4日閲覧)。
7. Colonial Watches, Baldwin & Jones, 個体記述(2026年11月4日閲覧)。
8. Science Museum Group, Massey’s sounding machines, 1876-775/1–2(2026年11月4日閲覧)。
9. Polytechnisches Journal, Verbesserungen an den Apparaten zum Messen der Geschwindigkeit von Schiffen und zum Sondiren der See, 第58巻、1835年、p. 214(2026年11月4日閲覧)。
10. Science Museum Group, Massey’s patent, frictionless ocean depth sounder, 1874-69(2026年11月4日閲覧)。
11. Tony Proctor, Collaboration and networking in the process of innovation: the path to precision time keeping, Journal of Management History 19(2), 2013, p. 179(2026年11月4日閲覧)。
12. Royal Museums Greenwich, No.3552, JEW0235(2026年11月4日閲覧)。