生涯・経歴#
幼少期と教育: フィリップ・デュフォー(Philippe Dufour)は1948年にスイスのヴァレ・ド・ジュウ渓谷にあるル・サンティエ村で生まれた (現代の著名な独立時計師のひとり、フィリップ・デュフォーの半生を振り返る | 高級腕時計専門誌クロノス日本版[webChronos])。15歳で大学進学ではなく職業の道を選び、機械工学を学ぶことを決意する (Philippe Dufour - Wikipedia)。地元ヴァレ・ド・ジュウの時計学校(エコール・オルロジュリー・ド・ラ・ヴァレ・ド・ジュウ)に入学し、1967年に卒業した (現代の著名な独立時計師のひとり、フィリップ・デュフォーの半生を振り返る | 高級腕時計専門誌クロノス日本版[webChronos])。同年、名門ジャガー・ルクルト社に時計師として入社し、時計製造のキャリアを開始する (Philippe Dufour - Wikipedia)。
キャリア初期と修復業: 1960年代後半から1970年代にかけて、デュフォーはジャガー・ルクルトで経験を積んだ後、ジェラルド・ジェンタ社やオーデマ・ピゲ社など複数の高級時計メーカーで働いた (A Beginner’s Guide To The World Of Philippe Dufour)。その後、1970年代後半にはビンテージ時計の修理・修復に活動の軸足を移す。とりわけ「古典時計ギャラリー (Galerie d’Horlogerie Ancienne)」にて約10年にわたり懐中時計や腕時計の修復に携わり (A Beginner’s Guide To The World Of Philippe Dufour)、過去の名工たちの作品に学んだ。この修復の経験によって、時計製造の歴史的様式や技法を体得し、自らの作風に伝統を取り入れる素地が培われたといえる (Why Philippe Dufour Matters. And It’s Not A Secret - Quill & Pad)。彼自身、「昔の巨匠たちが成し遂げたことを発展させているに過ぎず、時計技術に“真新しいもの”はない」と述べており (Why Philippe Dufour Matters. And It’s Not A Secret - Quill & Pad)、伝統的工芸への深い敬意と謙虚さを持っていることでも知られる。
独立時計師への転身: 1978年、デュフォーはちょうどスイス時計界がクォーツ危機に直面する中で、自身の工房をル・サンティエに設立し、独立時計師として歩み始めた (Brand History: Philippe Dufour – The Amateur horologist)。当初は修復の仕事を続ける一方で、自ら設計した複雑懐中時計の製作に取り組む。この頃、デュフォーはヴァレ・ド・ジュウ地方の伝統的な複雑機構に着想を得て、古典的な グラン・ソヌリ(Grande Sonnerie) 機構を備えた懐中時計ムーブメントを開発した (A Beginner’s Guide To The World Of Philippe Dufour)。このムーブメントは19世紀のレイモン兄弟(Reymond Frères)製のアンティーク機構に触発されたもので、彼はそれを19リーニュサイズ(直径約43mm)で試作し、真鍮製のケースに収めて完成させた (A Beginner’s Guide To The World Of Philippe Dufour)。デュフォーはこの試作ムーブメントを資金援助を求めて複数の高級メーカーに持ち込んだ結果、オーデマ・ピゲ社が関心を示し、5個のグラン・ソヌリ懐中時計ムーブメント製作を彼に発注した (A Beginner’s Guide To The World Of Philippe Dufour)。デュフォーは1982年に最初の一つを納品し、1988年までに全5つの懐中時計を完成させている (A Beginner’s Guide To The World Of Philippe Dufour)。このオーデマ・ピゲ向け受注生産で名声を高めた後、自身の名を冠した時計を作る決意を固めた。
独立ブランドの創設と転機: 1989年、デュフォーは初めて自身の名前をダイヤルに記した時計を完成させる。それが フィリップ・デュフォー グランド&プティ・ソヌリ No.1 と呼ばれるユニークピースの懐中時計であり、数年間の蓄積を注ぎ込んだ彼の自主製作第1号であった (First Full Set Of Philippe Dufour Watches At Historical Phillips Geneva Watch Auction: XIV: Grande Et Petite Sonnerie (Wristwatch And Pocket Watch), Duality, And Simplicity - Quill & Pad) (First Full Set Of Philippe Dufour Watches At Historical Phillips Geneva Watch Auction: XIV: Grande Et Petite Sonnerie (Wristwatch And Pocket Watch), Duality, And Simplicity - Quill & Pad)。この19リーニュ懐中時計は複雑機構の粋を尽くしたもので、完成までに2,000時間以上を要したという (First Full Set Of Philippe Dufour Watches At Historical Phillips Geneva Watch Auction: XIV: Grande Et Petite Sonnerie (Wristwatch And Pocket Watch), Duality, And Simplicity - Quill & Pad)。1989年当時、それはデュフォーが独立時計師として一本立ちするための投資の結晶であり、彼はこの懐中時計を最初の顧客に販売して得た資金をもとに以後の活動資金を得た (First Full Set Of Philippe Dufour Watches At Historical Phillips Geneva Watch Auction: XIV: Grande Et Petite Sonnerie (Wristwatch And Pocket Watch), Duality, And Simplicity - Quill & Pad)。1992年のバーゼルワールド見本市において、デュフォーは自身のブランド「Philippe Dufour」を正式に世に問う。バーゼルでは前述の懐中時計(唯一作られたデュフォー名義のグランド・ソヌリ懐中時計)と、新開発の グランド&プティ・ソヌリ搭載腕時計 を発表した (A Beginner’s Guide To The World Of Philippe Dufour)。この腕時計は、限られた41mm径の腕時計ケースに当時“最も複雑”と称されたグランド・ソヌリ&プチ・ソヌリ機構を内蔵した世界初の作品であり、時計業界に大きな衝撃を与えた (First Full Set Of Philippe Dufour Watches At Historical Phillips Geneva Watch Auction: XIV: Grande Et Petite Sonnerie (Wristwatch And Pocket Watch), Duality, And Simplicity - Quill & Pad)。同1992年、デュフォーは独立時計師アカデミー(AHCI)の会員にも迎えられており、これらの出来事は独立時計師としての彼のキャリアのみならず、業界全体の流れにおいても一つの転換点となったと評価される (First Full Set Of Philippe Dufour Watches At Historical Phillips Geneva Watch Auction: XIV: Grande Et Petite Sonnerie (Wristwatch And Pocket Watch), Duality, And Simplicity - Quill & Pad)。
独立後の展開(1990年代): バーゼルでの成功を機に、デュフォーの名声は一躍高まり、彼の卓越した手仕上げ技術は愛好家の間で高く評価されるようになった (First Full Set Of Philippe Dufour Watches At Historical Phillips Geneva Watch Auction: XIV: Grande Et Petite Sonnerie (Wristwatch And Pocket Watch), Duality, And Simplicity - Quill & Pad)。グランド・ソヌリ腕時計はまず18KイエローゴールドのNo.1が完成し、その後ピンクゴールド、ホワイトゴールド、プラチナの各1本ずつ、合計4本が1992年から数年かけて製作された (現代の著名な独立時計師のひとり、フィリップ・デュフォーの半生を振り返る | 高級腕時計専門誌クロノス日本版[webChronos])。さらに1990年代後半には特別仕様として文字盤にソヌリ機構を覗かせるサファイアクリスタル製ダイヤルのバージョンが2本デザインされている(1999年) (現代の著名な独立時計師のひとり、フィリップ・デュフォーの半生を振り返る | 高級腕時計専門誌クロノス日本版[webChronos])。最終的にデュフォーによるグランド・ソヌリ腕時計は全部で8本のみが製作された稀少作となった (First Full Set Of Philippe Dufour Watches At Historical Phillips Geneva Watch Auction: XIV: Grande Et Petite Sonnerie (Wristwatch And Pocket Watch), Duality, And Simplicity - Quill & Pad)。一方で、彼は他社との協業にも積極的であり、1993年には時計師ダニエル・ロートと組んで世界初の瞬跳式(インスタント)パーペチュアルカレンダー搭載腕時計を開発し、これはダニエル・ロート名義で市販されている (A Beginner’s Guide To The World Of Philippe Dufour)。1996年には自身2作目のオリジナル腕時計となる 「デュアリティ (Duality)」 を発表した (現代の著名な独立時計師のひとり、フィリップ・デュフォーの半生を振り返る | 高級腕時計専門誌クロノス日本版[webChronos])。デュアリティは一つのムーブメントに2つのテンプと脱進機を備え、それらを差動歯車(ディファレンシャル)で連結した世界初の腕時計である (First Full Set Of Philippe Dufour Watches At Historical Phillips Geneva Watch Auction: XIV: Grande Et Petite Sonnerie (Wristwatch And Pocket Watch), Duality, And Simplicity - Quill & Pad)(技術詳細は後述)。当初25本の限定製作を計画していたが、市場の理解が追いつかなかったことと調整の困難さもあり、実際に製作されたのはプロトタイプのNo.00を含め9本に留まった (First Full Set Of Philippe Dufour Watches At Historical Phillips Geneva Watch Auction: XIV: Grande Et Petite Sonnerie (Wristwatch And Pocket Watch), Duality, And Simplicity - Quill & Pad) (First Full Set Of Philippe Dufour Watches At Historical Phillips Geneva Watch Auction: XIV: Grande Et Petite Sonnerie (Wristwatch And Pocket Watch), Duality, And Simplicity - Quill & Pad)。この時代、独立系の高度な機械式時計は一部愛好家の支持にとどまり、生産数もごく僅かな状況であったが、デュフォーは少数精鋭の作品によって着実に評価を高めていった。
「シンプリシティ」の成功と2000年代: 2000年、デュフォーは12年ぶりとなる新作、そして自身4作目のオリジナルモデル 「シンプリシティ (Simplicity)」 を発表する (現代の著名な独立時計師のひとり、フィリップ・デュフォーの半生を振り返る | 高級腕時計専門誌クロノス日本版[webChronos])。これは時・分・秒表示だけのシンプルな手巻三針時計でありながら、伝統的な高級仕上げの粋を極めた作品である。複雑時計で名を馳せたデュフォーがあえて「究極にシンプル」な時計を作るという試みは注目を集めた。シンプリシティ開発の背景には、日本人コレクターからの強い要望があったと言われ (現代の著名な独立時計師のひとり、フィリップ・デュフォーの半生を振り返る | 高級腕時計専門誌クロノス日本版[webChronos])、実際このモデルの製作数約200本のうち半数以上が日本人顧客に渡ったと推定されている (A Beginner’s Guide To The World Of Philippe Dufour) (A Beginner’s Guide To The World Of Philippe Dufour)。オリジナルは34mm径ケースだったが、日本市場を中心により大径を望む声が多かったため、程なく37mm版も追加された (A Beginner’s Guide To The World Of Philippe Dufour)。デュフォーはムーブメントを単にスペーサーで拡大することを良しとせず、37mm用に地板から再設計している (A Beginner’s Guide To The World Of Philippe Dufour)。シンプリシティはその名の通り設計思想こそ簡明だが、ムーブメントの仕上げ品質は桁外れであり、発売当初から「現代最高の仕上げを持つ腕時計」として賞賛された (Brand History: Philippe Dufour – The Amateur horologist) (Brand History: Philippe Dufour – The Amateur horologist)。生産はデュフォー本人が一人で手掛け(必要最小限の助手の協力を得ただけで)約15本程度/年に限られたため (A Beginner’s Guide To The World Of Philippe Dufour)、長い待ち時間が発生し一時は10年待ちのリストができるほどだった (First Full Set Of Philippe Dufour Watches At Historical Phillips Geneva Watch Auction: XIV: Grande Et Petite Sonnerie (Wristwatch And Pocket Watch), Duality, And Simplicity - Quill & Pad)。デュフォーは十分な注文を抱え込み生涯の製作分が埋まったため、新規の注文は打ち切らざるを得なくなった (現代の著名な独立時計師のひとり、フィリップ・デュフォーの半生を振り返る | 高級腕時計専門誌クロノス日本版[webChronos])。シンプリシティはその後2010年代半ばまで少数ずつ作られ続け、最終的な製作数は約200本強(No.000~200番台)に達したとみられる (First Full Set Of Philippe Dufour Watches At Historical Phillips Geneva Watch Auction: XIV: Grande Et Petite Sonnerie (Wristwatch And Pocket Watch), Duality, And Simplicity - Quill & Pad) (First Full Set Of Philippe Dufour Watches At Historical Phillips Geneva Watch Auction: XIV: Grande Et Petite Sonnerie (Wristwatch And Pocket Watch), Duality, And Simplicity - Quill & Pad)。
近年の活動: 2010年代以降、デュフォーの作品はオークション市場でも高額で取引され始め、2013年にはジュネーブ時計グランプリ(GPHG)において審査員特別賞が満場一致で贈られるなど、その功績が公式に讃えられた (現代の著名な独立時計師のひとり、フィリップ・デュフォーの半生を振り返る | 高級腕時計専門誌クロノス日本版[webChronos])。同年からGPHGの審査員も務め、業界への助言も行っている (現代の著名な独立時計師のひとり、フィリップ・デュフォーの半生を振り返る | 高級腕時計専門誌クロノス日本版[webChronos])。また次世代への技術継承にも関与し、独立時計師の支援団体「タイムエオン基金 (Time Æon Foundation)」の創設メンバーとして、伝統技術の保存・教育プロジェクトに参加した (A Beginner’s Guide To The World Of Philippe Dufour)。その一環として2010年代半ばにグルーベル・フォルセイ社らと協働し、フランス人時計師見習いのミシェル・ブーランジェに高度な手工芸を伝授する「ナエッサンス・ドゥ・モントル(時計の誕生)プロジェクト」を遂行している (A Beginner’s Guide To The World Of Philippe Dufour)。このプロジェクトで製作された完全手作りの腕時計は2016年にプロトタイプがオークションに出品され、約146万ドル(約1.5億円)で落札された (A Beginner’s Guide To The World Of Philippe Dufour)。デュフォー自身の製作活動はシンプリシティ完了後しばらく小休止状態にあったが、2020年にシンプリシティ発売20周年を記念した小シリーズを制作すると発表した (A Beginner’s Guide To The World Of Philippe Dufour)。この「シンプリシティ 20th Anniversary」シリーズは全22本(プラチナ、ホワイトゴールド、ピンクゴールド各7本とNo.00のプロトタイプ1本)からなり、2020年11月にまずNo.00が競売にかけられて136万スイスフラン(約1.5億円)で落札されている (A Beginner’s Guide To The World Of Philippe Dufour)。デュフォーは2020年に名高いコレクターであるクロード・スフェール氏をビジネスパートナーに迎え、現在と今後の商業面のマネジメントを委ねており (A Beginner’s Guide To The World Of Philippe Dufour)、20周年モデルの残り20本の割当については抽選による販売を行うなど公正を期した (A Beginner’s Guide To The World Of Philippe Dufour)。応募には1万人以上の希望者が殺到し (A Beginner’s Guide To The World Of Philippe Dufour)、独立時計師デュフォーへの関心が世界的に極めて高いことを示した。
弟子・後継者: デュフォーは長らく一人で製作を行い、「現代の若手時計師には自身が求める完璧への情熱が足りない」と感じていたため、ジョージ・ダニエルズがロジャー・スミスを弟子に育てたような直接の後継者を持たなかった (Brand History: Philippe Dufour – The Amateur horologist)。しかし2020年代に入り、娘のダニエラ・デュフォーが父の工房で修行を始めている。2021年頃にはダニエラが初めて組み上げたシンプリシティも披露されており、フィリップは自身の伝統を次世代に引き継ぐ決意を固めている (First Full Set Of Philippe Dufour Watches At Historical Phillips Geneva Watch Auction: XIV: Grande Et Petite Sonnerie (Wristwatch And Pocket Watch), Duality, And Simplicity - Quill & Pad)。これにより、デュフォーの時計製作哲学と技巧を未来へ継承する体制が整いつつある。現在フィリップ・デュフォーは70代半ばとなったが、工房で製作と監修を続けながら、完成間近のシンプリシティ20周年モデルや娘への技術伝授に注力している。
発明と技術的革新#
グランド&プティ・ソヌリの腕時計化#
デュフォーの代表的発明の一つは、グランド・ソヌリ(定時と四分刻みに自動で時報を鳴らす機構)と プティ・ソヌリ(四分刻みで時だけを自動で鳴らす)を組み合わせ、さらにミニッツリピーター機能(ボタン操作で任意の時刻を報音)も備えた機構を腕時計サイズに収めたことである (First Full Set Of Philippe Dufour Watches At Historical Phillips Geneva Watch Auction: XIV: Grande Et Petite Sonnerie (Wristwatch And Pocket Watch), Duality, And Simplicity - Quill & Pad) (First Full Set Of Philippe Dufour Watches At Historical Phillips Geneva Watch Auction: XIV: Grande Et Petite Sonnerie (Wristwatch And Pocket Watch), Duality, And Simplicity - Quill & Pad)。グランド&プチ・ソヌリは、それ以前は大型の懐中時計で実現される極めて高度なコンプリケーションだった。デュフォーはこの複雑機構を世界で初めて腕時計に小型化することに成功し、1992年に発表した (First Full Set Of Philippe Dufour Watches At Historical Phillips Geneva Watch Auction: XIV: Grande Et Petite Sonnerie (Wristwatch And Pocket Watch), Duality, And Simplicity - Quill & Pad)。ムーブメント設計にあたっては、懐中時計用に自身が製作した前述の19リーニュ機構をベースに、3年がかりで再設計を行っている (A Beginner’s Guide To The World Of Philippe Dufour)。腕時計ケース径41mmという制約の中で音量や音質を損なわないよう工夫を凝らし、最終的に大型懐中時計と同等の響きを得ることに成功した (A Beginner’s Guide To The World Of Philippe Dufour)。
このムーブメントは手巻き式で2つの香箱(ぜんまい)を持ち、一方が時刻駆動用、もう一方が報音機構用である。リューズを正転・逆転させることでそれぞれの香箱を巻き上げられるよう設計されており、複雑な機構でありながら操作性は非常に良好である (A Beginner’s Guide To The World Of Philippe Dufour)。またケース側面のスライダーで報音モードを切替でき、例えば12時位置のスライドで「常時報音(ソヌリ)/サイレント」を選択し、6時位置のスライドで「グランド(毎正刻+15分毎)/プティ(15分毎のみ)」を選択する構造となっている (現代の著名な独立時計師のひとり、フィリップ・デュフォーの半生を振り返る | 高級腕時計専門誌クロノス日本版[webChronos])。さらにリューズ一体のボタンを押すことでミニッツリピーターを作動させ、現在時刻を時・四分・分までオンデマンドで打刻させることができる (A Rare Philippe Dufour Watch Sold For $9.9 Million)。これらの操作系統は直感的で扱いやすくまとめられており、複雑機構でありながら日常使用にも耐える工夫がなされている (A Beginner’s Guide To The World Of Philippe Dufour)。
技術的難度の高い点は、狭い腕時計ケース内に約400点もの部品から成る複雑機構を配置しつつ、音響上の共鳴空間やトリガー機構を確保する点であった (Brand History: Philippe Dufour – The Amateur horologist)。デュフォーは地板やブリッジを自ら製作し、微小なクリアランスまで調整してムーブメントを組み上げた。また音響工学的にも工夫があり、音色に影響を与えるゴング(音簧)の材質や取り付け方法、ケース厚などを最適化している。完成したグランド&プティ・ソヌリ腕時計は、打刻の響き渡る美しさと機械そのものの精緻さで「機械工学と音響芸術の融合」と評された (A Rare Philippe Dufour Watch Sold For $9.9 Million) (A Rare Philippe Dufour Watch Sold For $9.9 Million)。この功績により、デュフォーは「腕時計で不可能を可能にした現代最高の時計師」と称えられ、彼の名声を不動のものとした (First Full Set Of Philippe Dufour Watches At Historical Phillips Geneva Watch Auction: XIV: Grande Et Petite Sonnerie (Wristwatch And Pocket Watch), Duality, And Simplicity - Quill & Pad)。
ダブル脱進機「デュアリティ」の開発#
もう一つの技術的革新は、ダブル脱進機構を持つ腕時計「デュアリティ」である。デュフォーは学生時代に1930年代製作の古い学校作品で、2つのテンプと脱進機を一つの輪列で駆動し差動歯車で出力をまとめるという特殊な時計を目にした (A Beginner’s Guide To The World Of Philippe Dufour)。この仕組みに着想を得て、自らの腕時計に応用することを考案した。デュアリティ(1996年発表)は、一系統の歯車輪列から差動ギアを介して左右対称に配置した2つの脱進・調速機構(テンプ&アンクル脱進機)へ動力を伝え、最終的に差動ギアで2つのテンプの速度の平均をとって時刻表示に伝達する構造である (First Full Set Of Philippe Dufour Watches At Historical Phillips Geneva Watch Auction: XIV: Grande Et Petite Sonnerie (Wristwatch And Pocket Watch), Duality, And Simplicity - Quill & Pad)。この差動による平均化により、一方のテンプがわずかに進み気味で他方が遅れ気味の場合、互いの誤差を打ち消し合い、時計全体としての精度が安定化する (A Beginner’s Guide To The World Of Philippe Dufour)。特に姿勢差(時計の置かれる向きによる歩度の誤差)の軽減に効果があり、複数姿勢にわたってより均一な率で歩度を刻むことが期待できる (A Beginner’s Guide To The World Of Philippe Dufour)。これは天文台クロノメーター競技の分野でかつて複数のムーブメントを同期させて平均を取る「ダブルクロック」などの発想に通じるが、腕時計への実装は世界初だった。
技術面での課題は、2つのテンプが互いに干渉しないよう精密に調整する点と、差動装置をできるだけ小型化してムーブメント内に組み込む点であった。デュフォーは差動ギアの部品を微細に削り出してユニットを縮小し、その分テンプを大型化することで高い慣性モーメントを確保している (A Beginner’s Guide To The World Of Philippe Dufour)。ムーブメントは直径34mm程度だが、ブリッジ上に左右対称に配置された2個のテンプが目を引くレイアウトで、審美的にも調和が取れている。デュフォーの狙いは「非常に洗練されたムーブメントを内包しながら、驚くほどシンプルな外観の時計を作る」ことであったとされ (現代の著名な独立時計師のひとり、フィリップ・デュフォーの半生を振り返る | 高級腕時計専門誌クロノス日本版[webChronos])、デュアリティの文字盤側から見るデザインは一見すると二針時計のように端正で簡潔である (Brand History: Philippe Dufour – The Amateur horologist)。秒表示は6時位置のスモールセコンドにオフセットされているが、これはダブル脱進機の機構上どうしても秒針を中心に置けないためで、裏蓋を開けない限りこの時計の異質さは分からないほど控えめな設計となっている (Brand History: Philippe Dufour – The Amateur horologist)。
デュアリティは精密工作と調整の難易度がきわめて高く、2つのテンプの振動数や姿勢偏差を丹念に揃える必要があった。また当時(1990年代半ば)の市場ではこの革新的機構の意義が十分伝わらず (First Full Set Of Philippe Dufour Watches At Historical Phillips Geneva Watch Auction: XIV: Grande Et Petite Sonnerie (Wristwatch And Pocket Watch), Duality, And Simplicity - Quill & Pad)、先述のように製作は9本で終了した。しかしその後、2000年にフランソワ=ポール・ジュルヌが2つのテンプを共振(レゾナンス)で同期させる腕時計を発表するなど、複数調速機構による精度向上という思想は高く評価されていく (First Full Set Of Philippe Dufour Watches At Historical Phillips Geneva Watch Auction: XIV: Grande Et Petite Sonnerie (Wristwatch And Pocket Watch), Duality, And Simplicity - Quill & Pad)。デュフォーのデュアリティはそうした動きに先鞭をつけたものであり、機械式時計のクロノメーター性能追求にユニークな一頁を加えた発明といえる。
シンプルな高精度時計と仕上げ技術#
シンプリシティ(2000年発表)は、複雑機構ではなく仕上げの極致を追求した点で技術的意義が大きい。デュフォーは「時計の本質は時を正確に示すこと」に立ち返り、シンプルな二針または三針の時計にこそ最高の技術を注ぐべきだと考えた (A Magnificent Philippe Dufour Simplicity 34MM | The 1916 Company) (A Magnificent Philippe Dufour Simplicity 34MM | The 1916 Company)。シンプリシティのムーブメントは、かつて天文台コンクール用に使われた名機バルジュー社製 VZSSキャリバーを下敷きにしている (A Beginner’s Guide To The World Of Philippe Dufour)。伝統的なスイスレバー脱進機と大型テンプ(毎時18,000振動)を備えたこの設計をベースに、地板や受け板の形状、輪列の配置をデュフォー自ら再設計・加工し直し、古典的で安定した機械構造を維持しつつ現代的な精度と耐久性を両立させた (A Beginner’s Guide To The World Of Philippe Dufour)。ことに仕上げ(フィニッシング)においてシンプリシティは現代随一と謳われる。ムーブメントの各受け板には深いコート・ド・ジュネーブ(ジュネーブ波模様)が施され、エッジはすべて手作業で鏡面研磨のアングラージュ(面取り)されている。しかも複数の橋角が交わる内角部(通称「悪魔の角」)に至るまでヤスリと木材バフで完全な鏡面を出しており、その鋭角の処理は「他のいかなるブランドの時計にも見られない」レベルと評される (Brand History: Philippe Dufour – The Amateur horologist) (Brand History: Philippe Dufour – The Amateur horologist)。受け石の座やネジ穴は面取り後に隈取り(カウンターシンク)研磨され、ネジ頭やレバー類は黒色鏡面仕上げ(ポリ・ノワール)で光を吸い込むような艶を放つ (A Beginner’s Guide To The World Of Philippe Dufour)。さらに大型のルビー石受けや緻密なペルラージュ装飾により、ムーブメント全体がまるでコンクール用懐中時計のような風格を備えている (A Beginner’s Guide To The World Of Philippe Dufour)。特筆すべきは、こうした仕上げ作業の大半をデュフォーが一人の手で行っている点である (Brand History: Philippe Dufour – The Amateur horologist)。量産メーカーではチームですら困難なレベルの仕上げを、一人で一貫して完成させることで、均質で芸術性の高い結果を得ている。
シンプリシティは技術革新的な複雑機構こそ持たないが、「シンプルな機械式時計でも最高峰の芸術作品になり得る」ことを証明した点で時計界に新風を吹き込んだ。デュフォーはまたCAD技術や近代的な工作機械も積極的に導入し、自らの独立性向上に役立てている。 (Brand History: Philippe Dufour – The Amateur horologist)によれば、彼は独立時計師の中でも早い時期からCADを設計に用い、自身の工房で時計の90%以上の部品を製造可能にしたという (Brand History: Philippe Dufour – The Amateur horologist)。最新技術を伝統の継承のために使うその姿勢は、単に昔の手法に固執するのではなく**「伝統の精神」を現代に生かす**ものであり、独立時計師の新たなモデルとなった。
以上のように、デュフォーの技術的功績は、複雑機構の小型化や新機軸に留まらず、過去の遺産を洗練して現代に甦らせる点にもある。彼自身は「自分は大したイノベーターではない、ただし徹底的に品質を追求しただけだ」と謙遜するが (Why Philippe Dufour Matters. And It’s Not A Secret - Quill & Pad) (Why Philippe Dufour Matters. And It’s Not A Secret - Quill & Pad)、グランド・ソヌリ腕時計やデュアリティなど世界初の機構を成し遂げたこと、そしてシンプリシティによる仕上げ技術の到達点は、まさに現代時計史に残る革新である。
時計業界への影響#
独立時計師という道の確立#
デュフォーはしばしば「独立時計師のゴッドファーザー(教父)」と称される (Brand History: Philippe Dufour – The Amateur horologist)。1980年代から90年代初頭にかけて、スイス高級時計界はクォーツ危機からの復興期にあり、大手メゾン以外で高級機械式時計を作ることは非常にリスクが高かった。そんな中でデュフォーは伝統的手作業にこだわった少量生産の独立工房を維持し、次第に世界的な評価とビジネス的成功を収めていった。その姿は後進の独立系時計師たちに大きな勇気を与え、後に続く才能が現れる土壌を作った (First Full Set Of Philippe Dufour Watches At Historical Phillips Geneva Watch Auction: XIV: Grande Et Petite Sonnerie (Wristwatch And Pocket Watch), Duality, And Simplicity - Quill & Pad) (First Full Set Of Philippe Dufour Watches At Historical Phillips Geneva Watch Auction: XIV: Grande Et Petite Sonnerie (Wristwatch And Pocket Watch), Duality, And Simplicity - Quill & Pad)。実際、1990年代以降に活躍した著名な独立時計師(例:フランソワ=ポール・ジュルヌ、ヴァイニ・ハルター、カリ・ヴティライネンなど)の多くが何らかの形でデュフォーの影響を受けているといわれる。彼らはそれぞれ独自の路線を歩みつつも、「大企業に属さず自身の理想を追求する」という点でデュフォーの足跡を追った存在である。
デュフォー自身、同業の若い時計師に対して非常に開かれた姿勢で知られる。例えば独立時計師デュオ「オシロン (Oscillon)」の若手がプロジェクトに取り組んでいた際、デュフォーの工房を訪れて仕上げ技術の助言を乞うと、彼は懇切丁寧に全ての質問に答えてくれたという (A Beginner’s Guide To The World Of Philippe Dufour)。またデュフォーはSNS(インスタグラム等)でも気さくに情報を発信し、畏れ多い伝説的巨匠というよりは親しみやすい名匠として後進を励ましている (A Beginner’s Guide To The World Of Philippe Dufour) (A Beginner’s Guide To The World Of Philippe Dufour)。このように知識や技を惜しみなく共有する姿勢は、古来の徒弟制度的な職人社会では異例とも言えるが、時計界全体の発展に寄与している。デュフォーはタイムエオン基金を通じてミシェル・ブーランジェらを指導したほか (A Beginner’s Guide To The World Of Philippe Dufour)、独立時計師アカデミー(AHCI)の活動にも参加して独立系の地位向上に努めた。彼の存在そのものが、独立時計師コミュニティにおける精神的支柱となっており、現代最高峰のフィニッシャーである彼がいることで独立系全体の威信が高まっているとの指摘もある (First Full Set Of Philippe Dufour Watches At Historical Phillips Geneva Watch Auction: XIV: Grande Et Petite Sonnerie (Wristwatch And Pocket Watch), Duality, And Simplicity - Quill & Pad) (First Full Set Of Philippe Dufour Watches At Historical Phillips Geneva Watch Auction: XIV: Grande Et Petite Sonnerie (Wristwatch And Pocket Watch), Duality, And Simplicity - Quill & Pad)。
技術・デザイン面での影響#
技術的側面でもデュフォーの遺したものは大きい。グランド・ソヌリ腕時計の実現以降、他のメーカーもこの複雑機構に挑戦するようになった。特に21世紀に入り、パテック フィリップやヴァシュロン・コンスタンタンといった大手もグランド・ソヌリ搭載腕時計を発表しているが、デュフォーはその先駆者であった。またデュアリティのコンセプトは、前述のFPジュルヌ「レゾナンス」(2000年)や、MB&F社の「Legacy Machine No.2」(2013年、2つのテンプを差動で平均化する仕組み)など同様の多重調速機構の時計に影響を与えていると考えられる。デュフォーが「新発明ではないが価値ある機構」として世に示したアイデアが、他の制作者によって発展・応用されている点も見逃せない。
デザイン面では、シンプリシティの衝撃が大きかった。複雑機構全盛の時代に、三針のみの純粋な時計がここまで熱烈に支持されるとは当初予想されていなかった。しかしシンプリシティは発売と同時に世界中の目の肥えたコレクターを虜にし、「シンプルな美」の価値を再認識させた (A Magnificent Philippe Dufour Simplicity 34MM | The 1916 Company) (A Magnificent Philippe Dufour Simplicity 34MM | The 1916 Company)。その影響で、後年他の独立系や有名ブランドからもタイムオンリーの高級時計がいくつか登場している。例として、ローラン・フェリエの創業作(ガランテ風三針時計)や、セイコー・クレドールの「叡智」シリーズ(高級手仕上げの二針時計)など、シンプリシティに通底する哲学を感じさせる作品が挙げられる。さらに言えば、デュフォーが切り開いた伝統仕上げ復興の流れは、A.ランゲ&ゾーネ社のような復興組にも影響し、機械式時計の仕上げ品質全体を底上げした (First Full Set Of Philippe Dufour Watches At Historical Phillips Geneva Watch Auction: XIV: Grande Et Petite Sonnerie (Wristwatch And Pocket Watch), Duality, And Simplicity - Quill & Pad) (First Full Set Of Philippe Dufour Watches At Historical Phillips Geneva Watch Auction: XIV: Grande Et Petite Sonnerie (Wristwatch And Pocket Watch), Duality, And Simplicity - Quill & Pad)。デュフォーの作る「究極の手仕上げ時計」に対抗すべく、大手メーカーも自社製品に内部の高級仕上げを施すようになり、結果として業界全体の水準向上につながったと評価されている (First Full Set Of Philippe Dufour Watches At Historical Phillips Geneva Watch Auction: XIV: Grande Et Petite Sonnerie (Wristwatch And Pocket Watch), Duality, And Simplicity - Quill & Pad) (First Full Set Of Philippe Dufour Watches At Historical Phillips Geneva Watch Auction: XIV: Grande Et Petite Sonnerie (Wristwatch And Pocket Watch), Duality, And Simplicity - Quill & Pad)。
市場と文化への影響#
フィリップ・デュフォーは独立時計師の社会的評価や市場価値にも多大な影響を与えた。2010年代後半から彼の作品がオークションに立て続けに出品され、従来は一部愛好家だけの秘蔵品だった独立系時計が、美術品的価値をも持つことが広く認知されるようになった。特に2021年11月、ジュネーブのフィリップス拍売においてデュフォーのグランド・ソヌリ懐中時計No.1とグランド・ソヌリ腕時計No.1、デュアリティNo.8、シンプリシティNo.57という「デュフォー4作品セット」が一挙に競売にかけられたことは歴史的出来事だった (First Full Set Of Philippe Dufour Watches At Historical Phillips Geneva Watch Auction: XIV: Grande Et Petite Sonnerie (Wristwatch And Pocket Watch), Duality, And Simplicity - Quill & Pad) (First Full Set Of Philippe Dufour Watches At Historical Phillips Geneva Watch Auction: XIV: Grande Et Petite Sonnerie (Wristwatch And Pocket Watch), Duality, And Simplicity - Quill & Pad)。腕時計No.1は予想をはるかに超える約474万スイスフラン(手数料込、当時約5.2億円)で落札され、独立系の時計として世界最高額を記録した (A Beginner’s Guide To The World Of Philippe Dufour)。さらには同年8月、デュフォーが1990年代にスルタン・オブ・ブルネイ(ブルネイ国王)向けに製作したとされるグランド・ソヌリ腕時計No.3が民間取引で約990万ドル(約10億円弱)という驚異的価格で売買されており (A Rare Philippe Dufour Watch Sold For $9.9 Million)、独立時計師作品がオークション市場のトップ10に入る快挙となっている (A Rare Philippe Dufour Watch Sold For $9.9 Million)。これらのニュースは一般メディアにも取り上げられ、「フィリップ・デュフォー」の名は時計界のみならず広く知られるところとなった。
またデュフォーは日本との関わりも深く、その影響は日本の時計愛好文化にも及んでいる。シンプリシティ購入者の半数以上が日本人だったことは前述したが、彼の作品が日本市場で特に人気を博した背景には、日本人コレクターが伝統工芸的な匠の技を尊ぶ気風があったとされる (A Beginner’s Guide To The World Of Philippe Dufour) (A Beginner’s Guide To The World Of Philippe Dufour)。デュフォー自身もしばしば来日し、ファンとの交流やイベントに参加している。また日本の高級時計誌やウェブ媒体では早くからデュフォーの功績が紹介されており、「世界で最も尊敬される独立時計師」としてその半生や哲学が度々特集された (現代の著名な独立時計師のひとり、フィリップ・デュフォー) (現代の著名な独立時計師のひとり、フィリップ・デュフォーの半生を振り返る | 高級腕時計専門誌クロノス日本版[webChronos])。こうした情報発信を通じて、日本の時計愛好家コミュニティにおいてもデュフォーの理念(伝統を守り抜き完璧を期す姿勢)は支持され、独立系時計師や手仕上げの価値に対する理解が深まった。
総じて、フィリップ・デュフォーの存在は現代時計界において文化的アイコンとなっている。彼の作品は非常に少ない(約230点程度とされる)にもかかわらず (現代の著名な独立時計師のひとり、フィリップ・デュフォーの半生を振り返る | 高級腕時計専門誌クロノス日本版[webChronos]) (現代の著名な独立時計師のひとり、フィリップ・デュフォーの半生を振り返る | 高級腕時計専門誌クロノス日本版[webChronos])、その影響範囲は広大だ。独立時計師の地位向上、機械式時計の芸術性復権、技術伝承の推進、市場での認知拡大――そのいずれにもデュフォーは中心的な役割を果たした。「たった一人の時計師が業界全体にもたらしたリターンは計り知れない」と評する声もある (First Full Set Of Philippe Dufour Watches At Historical Phillips Geneva Watch Auction: XIV: Grande Et Petite Sonnerie (Wristwatch And Pocket Watch), Duality, And Simplicity - Quill & Pad) (First Full Set Of Philippe Dufour Watches At Historical Phillips Geneva Watch Auction: XIV: Grande Et Petite Sonnerie (Wristwatch And Pocket Watch), Duality, And Simplicity - Quill & Pad)。これほどの功績を残したデュフォーは、同時代の多くの時計師や愛好家にとって生ける伝説であり続けている。
主要作品と顧客#
グランド&プティ・ソヌリ・ミニッツリピーター#
作品概要: デュフォーの第一作にして最高傑作の一つとされるのが、グランド&プティ・ソヌリ・ミニッツリピーターである。これは前述のように、自動時報(グランド/プチ・ソヌリ)と任意時報(ミニッツリピーター)を兼ね備えた複雑機構時計で、まず懐中時計版(No.1)が1989年に完成し、続いて腕時計版が1992年に発表された (First Full Set Of Philippe Dufour Watches At Historical Phillips Geneva Watch Auction: XIV: Grande Et Petite Sonnerie (Wristwatch And Pocket Watch), Duality, And Simplicity - Quill & Pad) (First Full Set Of Philippe Dufour Watches At Historical Phillips Geneva Watch Auction: XIV: Grande Et Petite Sonnerie (Wristwatch And Pocket Watch), Duality, And Simplicity - Quill & Pad)。デュフォー名義で製作された懐中時計版はNo.1の一点のみで、これはデュフォーが独立ブランドを立ち上げるための原点となった作品である (First Full Set Of Philippe Dufour Watches At Historical Phillips Geneva Watch Auction: XIV: Grande Et Petite Sonnerie (Wristwatch And Pocket Watch), Duality, And Simplicity - Quill & Pad) (First Full Set Of Philippe Dufour Watches At Historical Phillips Geneva Watch Auction: XIV: Grande Et Petite Sonnerie (Wristwatch And Pocket Watch), Duality, And Simplicity - Quill & Pad)。一方、腕時計版はバーゼルワールド1992で初公開され、当初18KYG(イエローゴールド)、18KPG(ピンク)、18KWG(ホワイト)、Pt950(プラチナ)の各1本ずつ、計4本が製作発表された (現代の著名な独立時計師のひとり、フィリップ・デュフォーの半生を振り返る | 高級腕時計専門誌クロノス日本版[webChronos])。この4本はいずれもグラン・フー(高温焼成)エナメルのクラシカルな文字盤を持ち、3時位置に「Philippe Dufour」銘が誇らしげに記されている。ケース径は41mm、厚さ約15mmと当時の腕時計としては大型だが、これは複雑機構を収めつつ音響性能を確保するために必要な寸法だった。裏蓋はスケルトン仕様で、美しく仕上げられたムーブメントを見ることができる。ムーブメントの地板・橋板は鳴り物機構のスペース確保のため一部オープンワークされ、複雑なレバーやガンギ車、2本のゴングが折り重なる様子が鑑賞できる。
追加製作とバリエーション: 初期の4本に続き、1990年代後半に特別仕様が少数作られた。記録によれば1999年に2本の追加製作があり、これらは透明サファイア文字盤を採用してムーブメント正面の機構美を鑑賞できるようにしたバージョンである (現代の著名な独立時計師のひとり、フィリップ・デュフォーの半生を振り返る | 高級腕時計専門誌クロノス日本版[webChronos]) (現代の著名な独立時計師のひとり、フィリップ・デュフォーの半生を振り返る | 高級腕時計専門誌クロノス日本版[webChronos])。また、製作番号No.3の個体(1995年製作と推測)はブルネイ国王(スルタン)からの特別注文品で、デュフォーが直接納品したと報じられている (A Rare Philippe Dufour Watch Sold For $9.9 Million)。ブルネイ国王は1990年代に複数の超複雑時計を依頼した世界有数のコレクターであり、デュフォーの腕時計もそのコレクションに加えられた。総計すると、デュフォー製グランド・ソヌリ腕時計は全部で8本存在する (First Full Set Of Philippe Dufour Watches At Historical Phillips Geneva Watch Auction: XIV: Grande Et Petite Sonnerie (Wristwatch And Pocket Watch), Duality, And Simplicity - Quill & Pad)。これはデュフォー自身が「グランド・ソヌリ腕時計は二度と作らない」と公言したこともあり(当時は十分な市場の支持を得られなかったため) (Brand History: Philippe Dufour – The Amateur horologist)、極めて希少なシリーズとなっている。実際、初号機のNo.1(YGケース)は1992年のバーゼル発表後すぐ売約され、その後長年市場に出ることはなかったが、2021年に初めて競売に出品され約4.75百万CHFで落札されている (A Beginner’s Guide To The World Of Philippe Dufour)。また前述のNo.3(WGケースと推定)は、2021年に英国のディーラー経由で約990万ドルという途方もない価格で取引された (A Rare Philippe Dufour Watch Sold For $9.9 Million)。
顧客と収蔵先: グランド・ソヌリ作品の顧客には、上述のブルネイ国王のほか、欧米や日本の有力コレクターが名を連ねる。No.1懐中時計を購入した初代顧客は不明だが、完成から30年以上手放さず所有し続け、2021年にようやく市場に登場したことから、相当の愛好家であったと推察される (First Full Set Of Philippe Dufour Watches At Historical Phillips Geneva Watch Auction: XIV: Grande Et Petite Sonnerie (Wristwatch And Pocket Watch), Duality, And Simplicity - Quill & Pad)。このことはデュフォーの時計が一度手にしたコレクターに長く大切に保持される傾向を示している。また2021年のフィリップス競売では、懐中時計No.1と腕時計No.1を収めるためデュフォーが特別誂えた木製ケースまで出品され、約3.78万CHFで落札された (A Beginner’s Guide To The World Of Philippe Dufour)。こうした付属品にまで価値が認められる点にも、デュフォー作品の文化的高さが表れている。なお、デュフォーは生前親交のあった時計師ガブリエル・ロカテリ(後述)に敬意を表し、自身用のプロトタイプなど一部の作品を彼の名義で保持していると伝えられる。グランド・ソヌリ腕時計については、現存する8本すべてが個人コレクションにあり、メーカーにも保存用は残っていない。デュフォー自身も現在手元に所有していないとされ、今後このシリーズが再生産される可能性もないため、その希少性と神秘性は一層高まっている。
デュアリティ (Duality)#
作品概要: デュアリティはデュフォーが1996年に発表した、世界初の二重脱進機腕時計である (現代の著名な独立時計師のひとり、フィリップ・デュフォーの半生を振り返る | 高級腕時計専門誌クロノス日本版[webChronos])。外観は一見シンプルな小秒針つき三針時計だが、裏蓋を開けると2つのテンプと差動装置を備えた独特のムーブメントが現れる。ケース径は34mm前後で、グランド・ソヌリより一回り小振り。発売当初は18Kローズゴールドとイエローゴールドのモデルが用意され、その後プラチナケースの特別仕様も製作された。文字盤はホワイトエナメル調またはギョーシェ仕上げが選択でき、インデックスもブレゲ数字やローマ数字など顧客の要望に応じてカスタム可能であったという。表側から見た意匠はシンプリシティにも通ずる端正なもので、デュフォーの署名が12時下に控えめに記されている。
技術的特徴: 最大の特徴はムーブメントに2つの独立した調速機構(テンプ×2、アンクル脱進機×2)を搭載し、それらをディファレンシャルギアで合成して一つの時刻表示にしている点である (First Full Set Of Philippe Dufour Watches At Historical Phillips Geneva Watch Auction: XIV: Grande Et Petite Sonnerie (Wristwatch And Pocket Watch), Duality, And Simplicity - Quill & Pad)。これによって腕時計の姿勢差やムーブメントの個体差による歩度誤差を平均化でき、優れた精度安定性が期待できる。実際、デュフォーは精度向上を主目的としてこの機構を採用したと語っており (現代の著名な独立時計師のひとり、フィリップ・デュフォーの半生を振り返る | 高級腕時計専門誌クロノス日本版[webChronos])、デュアリティの歩度は非常に安定しているという。もっとも、2つのテンプが完全に同期するわけではないため、公的なクロノメーター検定を受けた記録などはない。しかし所有者からは日常使用で抜群の精度を示すとの評価も伝えられる。ムーブメント仕上げはシンプリシティに匹敵する丁寧さで、ゴールドプレート仕上げのブリッジに鏡面の面取り、細部まで磨き上げられた差動歯車など、極めて手の込んだものとなっている。テンプ受けブリッジが2つ左右対称に配置されるデザインは機能美に溢れ、シンメトリーを愛する日本の愛好家からも高評価を得た。
製作数と現状: デュアリティは前述の通り試作No.00からNo.8までの9本が製作されたに留まった (First Full Set Of Philippe Dufour Watches At Historical Phillips Geneva Watch Auction: XIV: Grande Et Petite Sonnerie (Wristwatch And Pocket Watch), Duality, And Simplicity - Quill & Pad)。No.00はプラチナケースのプロトタイプでデュフォー自身が長年所持していたとされるが、2017年のオークションで約91.5万ドル(当時約1億円)で落札され市場に出た (A Beginner’s Guide To The World Of Philippe Dufour) (A Beginner’s Guide To The World Of Philippe Dufour)。量産分としてはNo.1~No.8の8本が顧客に渡っており、いずれも極めて市場流通性が低い。2017年にフィリップス社の競売に出品されたNo.8(PGケース)は約366万CHF(約4億円)という高額で落札され、大きな話題となった (A Beginner’s Guide To The World Of Philippe Dufour) (A Beginner’s Guide To The World Of Philippe Dufour)。デュアリティもまた独立時計師作品として最高峰の評価を受けており、「幻の一本」と呼ばれることもある。顧客には欧米の著名コレクターがおり、中には複数のデュフォー作品を体系的に集めている者もいる。2021年には前述の「デュフォー4作品セット」の一つとしてNo.8が市場に姿を見せ、再び数億円規模で取引された (First Full Set Of Philippe Dufour Watches At Historical Phillips Geneva Watch Auction: XIV: Grande Et Petite Sonnerie (Wristwatch And Pocket Watch), Duality, And Simplicity - Quill & Pad) (First Full Set Of Philippe Dufour Watches At Historical Phillips Geneva Watch Auction: XIV: Grande Et Petite Sonnerie (Wristwatch And Pocket Watch), Duality, And Simplicity - Quill & Pad)。デュフォー自身は「デュアリティを作り続けていれば現在もっと成功していただろうが、自分は大量生産より次の挑戦を選んだ」と述懐しており、彼にとってこの作品は過去から学び未来につなげる実験的作品でもあったようだ。
シンプリシティ (Simplicity)#
作品概要: シンプリシティはフィリップ・デュフォーの名前を広く知らしめた代表作であり、2000年から約15年にわたり製作されたタイムオンリー(時・分・秒表示のみ)の手巻き時計である (現代の著名な独立時計師のひとり、フィリップ・デュフォーの半生を振り返る | 高級腕時計専門誌クロノス日本版[webChronos]) (現代の著名な独立時計師のひとり、フィリップ・デュフォーの半生を振り返る | 高級腕時計専門誌クロノス日本版[webChronos])。ケース径は当初34mm、後に37mmが追加され、素材はプラチナ、18Kローズゴールド、18Kホワイトゴールド(極少数にステンレススチールも)で製作された (First Full Set Of Philippe Dufour Watches At Historical Phillips Geneva Watch Auction: XIV: Grande Et Petite Sonnerie (Wristwatch And Pocket Watch), Duality, And Simplicity - Quill & Pad) (First Full Set Of Philippe Dufour Watches At Historical Phillips Geneva Watch Auction: XIV: Grande Et Petite Sonnerie (Wristwatch And Pocket Watch), Duality, And Simplicity - Quill & Pad)。文字盤デザインは購入者の要望により多彩で、ホワイトエナメル風、シルバーオパーリン、ギョーシェ(手彫り波紋)、グレー地にブレゲ数字など様々なバリエーションが存在する (A Beginner’s Guide To The World Of Philippe Dufour)。針はクラシックなリーフ型(フェイル型)が用いられ、全体として古典的スイス懐中時計のエレガンスを継承する外観となっている。裏蓋はスケルトン仕様で、上述した超絶的なムーブメント仕上げを見ることができる。
特徴と評価: シンプリシティは華美な複雑機構を持たず、時計本来の「時を示す」という機能に純化したデザインである。しかし、そのムーブメントは細部に至るまで手仕上げが施され、時計愛好家に**「究極の三針時計」と讃えられる (Brand History: Philippe Dufour – The Amateur horologist) (Brand History: Philippe Dufour – The Amateur horologist)。デュフォーは各個の注文に応じて微細な仕様変更を行い、一人ひとりの顧客にとって理想の一本を提供した。例えば文字盤の書体や針、地板に刻むシリアル番号の指定、ケース裏にイニシャル彫刻などにも対応したケースがある。こうしたテーラーメイド性**も独立時計師ならではの魅力であり、高級宝飾品さながらのパーソナライズが行われた。またデュフォーは自身の審美眼に反するカスタムは受け付けなかったと言われ、結果としてすべてのシンプリシティが統一感のある上品さを保っている。
顧客層と市場: シンプリシティは発売当初から熱狂的な支持を得たが、購入には紹介制が取られていた。デュフォー本人や周囲の信頼のおける知人からの紹介が無ければ注文できず、さらに既存顧客の推薦も必要だったと言われる (A Beginner’s Guide To The World Of Philippe Dufour)。この閉じられた販売手法は、一見すると排他的だが転売目的の投機的購入を防ぎ、本当に理解ある愛好家の手に渡るよう工夫されたものである (A Beginner’s Guide To The World Of Philippe Dufour) (A Beginner’s Guide To The World Of Philippe Dufour)。その効果もあって、シンプリシティが中古市場に姿を現したのは発売後16年も経った2016年が最初であった (A Beginner’s Guide To The World Of Philippe Dufour)。以降、少しずつオークションに出品される例が増えたものの、2023年時点でも公開市場に出たシンプリシティは30本足らずしかない (A Beginner’s Guide To The World Of Philippe Dufour) (A Beginner’s Guide To The World Of Philippe Dufour)。これは裏を返せば、大半のオーナーが手放さずに所有し続けていることを意味する。日本人コレクターの存在も特筆される。全生産の約半数が日本に渡ったとの推測があり (A Beginner’s Guide To The World Of Philippe Dufour) (A Beginner’s Guide To The World Of Philippe Dufour)、国内では特に高い人気を誇った。一部のシンプリシティは東京や大阪の有力正規店が代理で顧客を募って納品されたケースもあったという。またスイスのラ・ショー=ド=フォンにある時計博物館「エスパス・オルロジェ」にはデュフォーから寄贈されたシンプリシティが収蔵・展示されており (Philippe Dufour - Wikipedia)、公共機関にとっても歴史的価値のあるモデルと見なされている。
市場での評価: 近年、シンプリシティの市場価格は高騰を続けている。2016年に初めてオークションに登場した際は約25万スイスフランで落札され、その後2020年には香港で1本が約200万CHF(約2.2億円)に達した (A Beginner’s Guide To The World Of Philippe Dufour)。直近では2022年11月にジュネーブで37mm WGケースの特別仕様(灰色ギョーシェ文字盤、ブレゲ数字)が102万CHF(約1.3億円) (A Beginner’s Guide To The World Of Philippe Dufour) (A Beginner’s Guide To The World Of Philippe Dufour)、同月香港でプラチナ37mmモデルが約690万HKD(約0.85億CHF, 約12億円)で落札されている (A Beginner’s Guide To The World Of Philippe Dufour)。いずれも極めて高額であり、シンプリシティが「21世紀の名作」としてコレクターズアイテム化していることを示している。もっとも、これらは市場に出た稀少な例であり、大多数のシンプリシティは今も個人蔵で大切に保持されている。
特筆すべきその他の活動#
ダニエル・ロートとの協業: 前述のように、デュフォーは1990年代前半に時計師ダニエル・ロートと協力し、世界初の**瞬跳式永久カレンダー(インスタント・パーペチュアル)**機構を開発した (A Beginner’s Guide To The World Of Philippe Dufour)。この機構は複数のカレンダーディスクが深夜0時に一斉に切り替わる高度なもので、1993年にダニエル・ロート名義の腕時計「瞬転カレンダー」として発売された。デュフォーは裏方としてその複雑カレンダー機構部分を設計・製作したとされ、当時まだ独立時計師の認知が低かった中で、他ブランド製品の技術向上にも貢献していた。同作は現在でも名作として評価が高く、デュフォーの多才さを示すエピソードである。
ミシェル・ブーランジェ/ナエッサンス・ドゥ・モントル: 2010年代のNaissance d’une Montre(時計の誕生)プロジェクトでは、デュフォーはグルーベル・フォルセイ社と共に若手時計師ミシェル・ブーランジェを指導した (A Beginner’s Guide To The World Of Philippe Dufour)。このプロジェクトでは電動工具を使わず19世紀型の手作業のみで腕時計を製作することに挑戦し、デュフォーは伝統工作法や仕上げのノウハウを伝授した。完成した試作機は2016年5月にオークションで約146万ドルを記録し (A Beginner’s Guide To The World Of Philippe Dufour)、得られた資金は伝統技術保存のために活用されている。デュフォーは第二弾となる「Naissance d’une Montre 2」にも助言者として関与し、若い時計師コンビ(Oscillonの2名)に仕上げ面でアドバイスを提供した (A Beginner’s Guide To The World Of Philippe Dufour)。このように直接の弟子を持たなかったデュフォーだが、プロジェクトを通じて複数の若手育成に尽力し、その成果が形となっている。
個人コレクションと嗜好: デュフォー自身も他者の時計を愛好する一面がある。彼はインタビューで「自分のために買った唯一の新品時計はランゲ&ゾーネのダトグラフだ」と語り (Philippe Dufour - Wikipedia)、A.ランゲ&ゾーネ製の名クロノグラフ「ダトグラフ」を絶賛している (Philippe Dufour - Wikipedia)。この個体は愛用のあまり「デュフォーグラフ」の愛称で呼ばれるほど彼のトレードマークとなった。また近年ではロレックスGMTマスターIIやオーデマ・ピゲのロイヤルオーク15202(=初代モデルの後継)なども日常的に着用している姿が目撃されており (A Beginner’s Guide To The World Of Philippe Dufour) (A Beginner’s Guide To The World Of Philippe Dufour)、巨匠といえども他社の優れた時計を認め楽しむ懐の深さがうかがえる。
師匠と影響を受けた人物: デュフォーのキャリア形成において重要な人物として、ガブリエル・ロカテリ(Gabriel Locatelli)の名が挙げられる。ロカテリはジャガー・ルクルトにおけるデュフォーの上司で、高度な仕上げ技術や伝統的ノウハウを惜しみなく彼に伝えた恩人である (Why Philippe Dufour Matters. And It’s Not A Secret - Quill & Pad) (Why Philippe Dufour Matters. And It’s Not A Secret - Quill & Pad)。ロカテリはその後自動車事故で若くして他界したが、デュフォーとは深い友情で結ばれており、シンプリシティの試作機(デュフォー自身が日常使いするNo.000)を一緒に製作した間柄だった (Why Philippe Dufour Matters. And It’s Not A Secret - Quill & Pad) (Why Philippe Dufour Matters. And It’s Not A Secret - Quill & Pad)。デュフォーはこの師から受け継いだ教えを胸に常に時計作りへ向き合い、自身もまた「伝説の時計師」として次世代に影響を与える存在となっている。
年表#
- 1948年 – スイス・ヴァレ・ド・ジュウ渓谷ル・サンティエに生まれる (現代の著名な独立時計師のひとり、フィリップ・デュフォーの半生を振り返る | 高級腕時計専門誌クロノス日本版[webChronos])。
- 1963年頃 – 15歳で時計師を志し、地元の時計学校に入学 (Philippe Dufour - Wikipedia)。
- 1967年 – エコール・オルロジュリー・ド・ラ・ヴァレ・ド・ジュウ卒業 (現代の著名な独立時計師のひとり、フィリップ・デュフォーの半生を振り返る | 高級腕時計専門誌クロノス日本版[webChronos])。ジャガー・ルクルト社に就職 (Philippe Dufour - Wikipedia)。
- 1967–1975年 – ジャガー・ルクルトで勤務。その後ジェラルド・ジェンタ社、オーデマ・ピゲ社など複数のメーカーで経験を積む (A Beginner’s Guide To The World Of Philippe Dufour)。
- 1975–1980年 – 独立し始め、主に懐中時計や古時計の修理・修復に従事(ジュウ渓谷の古典的複雑時計に親しむ) (A Beginner’s Guide To The World Of Philippe Dufour) (Why Philippe Dufour Matters. And It’s Not A Secret - Quill & Pad)。
- 1978年 – ル・サンティエに自らの工房を設立。独立時計師として活動開始 (Brand History: Philippe Dufour – The Amateur horologist)。
- ~1982年 – グランド&プティ・ソヌリ・ミニッツリピーターの懐中時計ムーブメントを試作。オーデマ・ピゲ社と契約成立 (A Beginner’s Guide To The World Of Philippe Dufour)。
- 1982年 – オーデマ・ピゲ向けグランド・ソヌリ懐中時計の第1号を納品 (A Beginner’s Guide To The World Of Philippe Dufour)。
- 1983–1988年 – オーデマ・ピゲ向け懐中時計を順次製作・納品(全5個) (A Beginner’s Guide To The World Of Philippe Dufour)。1988年に最終号を引き渡し完了 (A Beginner’s Guide To The World Of Philippe Dufour)。
- 1989年 – フィリップ・デュフォー名義ブランドを創業。自作懐中時計「グランド&プティ・ソヌリ No.1」完成 (First Full Set Of Philippe Dufour Watches At Historical Phillips Geneva Watch Auction: XIV: Grande Et Petite Sonnerie (Wristwatch And Pocket Watch), Duality, And Simplicity - Quill & Pad)。初の独立時計師としての顧客に販売 (First Full Set Of Philippe Dufour Watches At Historical Phillips Geneva Watch Auction: XIV: Grande Et Petite Sonnerie (Wristwatch And Pocket Watch), Duality, And Simplicity - Quill & Pad)。
- 1992年4月 – バーゼルワールド1992でブランド初出展。グランド&プティ・ソヌリ懐中時計No.1および世界初の同機構搭載腕時計(No.1)を発表 (First Full Set Of Philippe Dufour Watches At Historical Phillips Geneva Watch Auction: XIV: Grande Et Petite Sonnerie (Wristwatch And Pocket Watch), Duality, And Simplicity - Quill & Pad)。AHCI(独立時計師アカデミー)に加盟 (First Full Set Of Philippe Dufour Watches At Historical Phillips Geneva Watch Auction: XIV: Grande Et Petite Sonnerie (Wristwatch And Pocket Watch), Duality, And Simplicity - Quill & Pad)。グランド・ソヌリ腕時計の受注を開始。
- 1992–1993年 – グランド・ソヌリ腕時計No.1(YG)を製作・納品。No.2(PG)も着手。並行してダニエル・ロート社向け瞬跳式永久カレンダー機構を開発 (A Beginner’s Guide To The World Of Philippe Dufour)(翌1993年ダニエル・ロート名義で発売)。
- 1995年 – グランド・ソヌリ腕時計No.3(推定WG)を製作。この個体はブルネイ国王が取得 (A Rare Philippe Dufour Watch Sold For $9.9 Million)。
- 1992–1998年 – グランド・ソヌリ腕時計シリーズを製作(No.1~No.4各色、および後年の特別仕様) (現代の著名な独立時計師のひとり、フィリップ・デュフォーの半生を振り返る | 高級腕時計専門誌クロノス日本版[webChronos]) (現代の著名な独立時計師のひとり、フィリップ・デュフォーの半生を振り返る | 高級腕時計専門誌クロノス日本版[webChronos])。最終的に全8本完遂 (First Full Set Of Philippe Dufour Watches At Historical Phillips Geneva Watch Auction: XIV: Grande Et Petite Sonnerie (Wristwatch And Pocket Watch), Duality, And Simplicity - Quill & Pad)。
- 1996年 – 第2作「デュアリティ」発表 (現代の著名な独立時計師のひとり、フィリップ・デュフォーの半生を振り返る | 高級腕時計専門誌クロノス日本版[webChronos])。試作No.00完成。雑誌等で世界初のダブル脱進機腕時計として紹介される。
- 1996–1998年 – デュアリティNo.1~No.8製作。合計9本で生産終了 (First Full Set Of Philippe Dufour Watches At Historical Phillips Geneva Watch Auction: XIV: Grande Et Petite Sonnerie (Wristwatch And Pocket Watch), Duality, And Simplicity - Quill & Pad)。
- 2000年3月 – バーゼルワールド2000で第3作「シンプリシティ」発表 (現代の著名な独立時計師のひとり、フィリップ・デュフォーの半生を振り返る | 高級腕時計専門誌クロノス日本版[webChronos])。当初34mmモデル。日本人コレクターから多数注文が入る (現代の著名な独立時計師のひとり、フィリップ・デュフォーの半生を振り返る | 高級腕時計専門誌クロノス日本版[webChronos])。
- 2000–2004年 – シンプリシティの製作・納品が本格化。顧客リストが拡大し約120件に。2004年までにNo.50台後半に到達 (First Full Set Of Philippe Dufour Watches At Historical Phillips Geneva Watch Auction: XIV: Grande Et Petite Sonnerie (Wristwatch And Pocket Watch), Duality, And Simplicity - Quill & Pad) (First Full Set Of Philippe Dufour Watches At Historical Phillips Geneva Watch Auction: XIV: Grande Et Petite Sonnerie (Wristwatch And Pocket Watch), Duality, And Simplicity - Quill & Pad)。37mmモデルの設計開発も進行(2003年頃完成)。
- 2005–2010年 – シンプリシティのバックオーダー消化に専念。年産10~20本ペースで製作継続。日本を含め各国の顧客に納品。一方でデュフォーはAHCIの活動や時計界イベントにも積極参加。
- 2011年 – シンプリシティの生産終了を示唆(公式受注停止)。総製作数約200本に達する見込みと報道される (現代の著名な独立時計師のひとり、フィリップ・デュフォーの半生を振り返る | 高級腕時計専門誌クロノス日本版[webChronos])。スイスのエスパス・オルロジェ博物館にシンプリシティを寄贈 (Philippe Dufour - Wikipedia)。
- 2013年11月 – ジュネーブ時計グランプリ(GPHG)で審査員特別賞を受賞 (現代の著名な独立時計師のひとり、フィリップ・デュフォーの半生を振り返る | 高級腕時計専門誌クロノス日本版[webChronos])。その功績により以後GPHGの審査員に就任 (現代の著名な独立時計師のひとり、フィリップ・デュフォーの半生を振り返る | 高級腕時計専門誌クロノス日本版[webChronos])。
- 2014年 – 娘ダニエラが時計製作を志し、父の工房で研鑽を開始(推定)。同年、AHCI創立30周年行事などに参加。
- 2015年 – タイムエオン基金のナエッサンス・ドゥ・モントル プロジェクトで、ミシェル・ブーランジェ製作の時計が完成間近となる。
- 2016年5月 – ナエッサンス・ドゥ・モントル第1号機プロトタイプがフィリップスオークション出品。落札額146万ドルを記録 (A Beginner’s Guide To The World Of Philippe Dufour)。
- 2016年11月 – シンプリシティが初めてオークションに登場(フィリップス)。約25万CHFで落札 (A Beginner’s Guide To The World Of Philippe Dufour)。
- 2017年10月 – デュアリティNo.00(Pt)がNYで競売にかかり約91.5万ドル(約1億円)で落札 (A Beginner’s Guide To The World Of Philippe Dufour)。同月、FPジュルヌの伝説的腕時計「ジョージ・ダニエルズ作スペシャル」が競売で高額落札され、独立系時計への注目が高まる。
- 2017年11月 – デュアリティNo.8(RG)がジュネーブの競売で約366万CHF(約4億円)を記録 (A Beginner’s Guide To The World Of Philippe Dufour) (A Beginner’s Guide To The World Of Philippe Dufour)。
- 2018年 – デュフォー、シンプリシティ最後の生産分を完了(No.200前後)。以後特別注文分のみ断続的に製作。娘ダニエラがシンプリシティの組立に本格参加。
- 2019年 – デュフォー、バーゼルワールドやSIHH等のイベントにゲスト参加。業界の長老的存在として各所でインタビューに応じる。この頃からクロード・スフェールと協議し事業継承計画を立案。
- 2020年4月 – 新作「シンプリシティ 20周年記念モデル」全21本(+自用1本)の製作を発表 (A Beginner’s Guide To The World Of Philippe Dufour)。抽選販売の受付を開始。
- 2020年11月 – フィリップス主催オークション「Retrospective 2000-2020」でシンプリシティ20周年記念 No.00(RGケース)が出品され、約136万CHFの史上最高値で落札 (A Beginner’s Guide To The World Of Philippe Dufour)。
- 2021年8月 – A Collected Man社のプライベートセールにて、グランド・ソヌリ腕時計No.3(WGケース、1995年ブルネイ国王注文品)が約990万ドル(当時約10.7億円)で売買成立 (A Rare Philippe Dufour Watch Sold For $9.9 Million)。独立系時計として史上最高額となり話題に。
- 2021年10–11月 – フィリップス「ジュネーブ拍売 XIV」に史上初めてデュフォーの4モデル全て(懐中時計No.1、腕時計No.1、デュアリティNo.8、シンプリシティNo.57)が同時出品 (First Full Set Of Philippe Dufour Watches At Historical Phillips Geneva Watch Auction: XIV: Grande Et Petite Sonnerie (Wristwatch And Pocket Watch), Duality, And Simplicity - Quill & Pad)。11月7日の競売で腕時計No.1が約474.9万CHF、懐中時計No.1が約232.9万CHFでそれぞれ落札され、独立時計師作品の記録を更新 (A Beginner’s Guide To The World Of Philippe Dufour) (A Beginner’s Guide To The World Of Philippe Dufour)。
- 2021年11月 – 同競売で特製の木製ダブルウォッチケース(懐中時計No.1と腕時計No.1を収容)が3.78万CHFで落札 (A Beginner’s Guide To The World Of Philippe Dufour)。デュフォーの娘ダニエラが将来工房を引き継ぐ意向が明らかになる (First Full Set Of Philippe Dufour Watches At Historical Phillips Geneva Watch Auction: XIV: Grande Et Petite Sonnerie (Wristwatch And Pocket Watch), Duality, And Simplicity - Quill & Pad)。
- 2022年 – シンプリシティ20周年モデルの製作進行。7月、No.1~No.7各色の引渡しが始まる。11月、シンプリシティ37mmプラチナが香港競売で約690.5万HKD(約0.85億CHF)にて落札 (A Beginner’s Guide To The World Of Philippe Dufour)。ホワイトゴールド特別仕様がジュネーブで102.2万CHFを記録 (A Beginner’s Guide To The World Of Philippe Dufour)。
- 2023年 – デュフォー、75歳になる。工房で残る記念モデルの仕上げに従事しつつ、娘への技術継承を進めていると報じられる。独立時計師のレジェンドとして各国メディアからの取材が続く。
資料・文献#
- GaryG, “Why Philippe Dufour Matters. And It’s Not A Secret,” Quill & Pad, June 16, 2014 (Why Philippe Dufour Matters. And It’s Not A Secret - Quill & Pad) (Why Philippe Dufour Matters. And It’s Not A Secret - Quill & Pad).
- Logan Baker, “A Beginner’s Guide To The World Of Philippe Dufour,” PHILLIPS, Oct 25, 2023 (A Beginner’s Guide To The World Of Philippe Dufour) (A Beginner’s Guide To The World Of Philippe Dufour).
- Joshua Munchow, “First Full Set Of Philippe Dufour Watches At Phillips Geneva Watch Auction XIV,” Quill & Pad, Oct 31, 2021 (First Full Set Of Philippe Dufour Watches At Historical Phillips Geneva Watch Auction: XIV: Grande Et Petite Sonnerie (Wristwatch And Pocket Watch), Duality, And Simplicity - Quill & Pad) (First Full Set Of Philippe Dufour Watches At Historical Phillips Geneva Watch Auction: XIV: Grande Et Petite Sonnerie (Wristwatch And Pocket Watch), Duality, And Simplicity - Quill & Pad).
- “現代の著名な独立時計師のひとり、フィリップ・デュフォーの半生を振り返る,” クロノス日本版Web, March 3, 2023 (現代の著名な独立時計師のひとり、フィリップ・デュフォーの半生を振り返る | 高級腕時計専門誌クロノス日本版[webChronos]) (現代の著名な独立時計師のひとり、フィリップ・デュフォーの半生を振り返る | 高級腕時計専門誌クロノス日本版[webChronos]).
- “Philippe Dufour – Reloaded: The Reborn Duality,” PHILLIPS Auction Lot Essay, Nov 2024 (Brand History: Philippe Dufour – The Amateur horologist) (Brand History: Philippe Dufour – The Amateur horologist).
- Rachel Cormack, “A Rare Philippe Dufour Watch Sold For $9.9 Million,” Robb Report, Aug 17, 2021 (A Rare Philippe Dufour Watch Sold For $9.9 Million) (A Rare Philippe Dufour Watch Sold For $9.9 Million).
- Elizabeth Doerr, “Behind The Lens: The Philippe Dufour Simplicity,” Quill & Pad, Nov 2, 2017 (Brand History: Philippe Dufour – The Amateur horologist) (Brand History: Philippe Dufour – The Amateur horologist).
- Wikipedia日本語版「フィリップ・デュフォー」(最終更新2023年) (現代の著名な独立時計師のひとり、フィリップ・デュフォーの半生を振り返る | 高級腕時計専門誌クロノス日本版[webChronos]) (現代の著名な独立時計師のひとり、フィリップ・デュフォーの半生を振り返る | 高級腕時計専門誌クロノス日本版[webChronos]).
- その他:フィリップ・デュフォー公式サイト (Mes créations - Philippe Dufour)、Forbes誌記事 (Philippe Dufour - Wikipedia)、Hodinkee日本版記事 (世界で最も尊敬される時計師フィリップ・デュフォーがロイヤル …)など.