アーマー天文台のアーンショウ No.1

アーマー天文台のアーンショウ No.1

星の位置を測るための時計#

アーンショウ No.1は、ロンドンの時計師トーマス・アーンショウがアーマー天文台のために製作し、1794年に設置した大型の天文レギュレーターである。日常の時刻を知らせるだけでなく、星が子午線を横切る瞬間を測定する基準だった。No.1は同天文台の二台のアーンショウ時計を区別する呼称で、製品系列の型番ではない。Gunnの個体研究では器械番号IA6.1、Mollanの全国目録では登録番号3691、施設内コードARM004で記載される。12

恒星の赤経は、空の経度に相当する座標である。子午儀で星の通過を観察し、恒星時を示す時計で時刻を読むと、その座標を求められる。ただし時計が正しい時刻を表示しているか、一定時間にどれだけ進み遅れするかを、既知の星から確かめて補正する必要がある。観測の途中で歩度が不規則に変わると、その補正が難しくなる。No.1の意義は、表示の正しさだけでなく、測定の間に予測できる歩度を保つことにあった。1

発注、試験、設置#

アーマーの創設者である大主教Richard Robinsonに代わって器械選定を助けたのは、グリニッジの王室天文官ネヴィル・マスケリンだった。1789年4月の書簡で時計師と脱進機の案が検討され、1790年2月にはアーンショウが時計製作を引き受けたことが報告される。Gunnはこの書簡群と、アーンショウ自身の回想を対応させている。懐中時計や航海用クロノメーターに経験を積んだ製作者に、据置の天文時計を依頼した計画だった。1

No.1は1792年2月にグリニッジへ試験のため送られ、約二年を経て1794年8月18日にアーンショウ自身がアーマーへ設置したとGunnは記す。現在の天文台紹介は製作年代を1790–1795年と広く表示し、Mollan目録は1791年としている。発注・製作・試験・設置は別の段階であり、これらの年を一つの「発売年」にまとめることはできない。123

公式史は時計の価格を100ポンド、アーンショウの渡航と設置をさらに100ポンドとする。一方、Blackの博士論文は二台の時計を合計204ポンド、運送・保険・税を60ポンド、本人の渡航を100ポンドと整理している。後者の合計をNo.1一台の価格と読んではならない。No.1は子午儀用の高仕様の時計であり、もう一台はドーム内のTroughton赤道儀と使う補助時計だった。45

現物の構成と密閉ケース#

分離された表示と石入りの機械#

Mollanの目録が記録する高さは1,937 mm、最大幅は495 mm。マホガニー製ケースは側面が湾曲し、銀色に仕上げた文字盤に、大きな分目盛と独立した秒・24時間の表示を設ける。時・分・秒を別々に読む配置は、装飾時計の一組の針とは異なる観測器械の性格を示す。2

動力は重錘の下降から輪列へ伝えられる。Robinsonの原論文は、重錘から歯車を通じて伝わる力の不規則さを検討し、この時計では目立った影響がないと述べている。重錘の質量は同じ記述からは確定できない。9

Gunnの記載では八日巻、五本の柱で保持する機械、四輪の輪列を持ち、軸受には受石とエンドストーンが使われる。多い歯数、豊富な石の使用、細かな仕上げは、製作者のクロノメーターの経験と結び付けられている。これらは現物研究の仕様であり、アーンショウの時計すべてに共通する仕様ではない。1

No.1を、アーンショウが有名になった航海用のスプリング・デテント脱進機の大型版と考えるのは適切でない。Gunnが確認した機械は、石を使ったGraham式デッドビート脱進機である。マスケリンが期待した独立脱進機との相違について、過去には交換説もあったが、Gunnは製作のかなり早い段階で計画を変えた可能性を示す。現存機構の同定と、その変更時期の推定を区別する必要がある。1

Graham式では、振子と連動するアンクルが動いている間も、がんぎ車の歯を円弧状の停止面で受け、車を後退させずに止める。振子が中央付近へ戻ると歯が衝撃面へ移り、アンクルを通じて振動へ力を補い、次の歯をもう一方の停止面で止める。この一般原理は時計師向けのGoodrichの技術書による説明であり、No.1の個々の角度を再測定したものではない。歯と停止面は接触するため、振子が機械から常に自由なわけではなく、汚れや油の変化による摩擦の影響も残る。8

空気の流れと汚れを抑える#

ケースを強く閉じることは、機械の精巧さと同じくらい重視された。現物目録には、ガラス入り扉を留める真鍮ねじ十二本と、文字盤のガラス枠を留める十二本が記録される。単に機械を覆う箱ではなく、観察と巻上げを行いながら内部への空気の流入を抑える構造だった。2

1859年のRobinsonの説明を転記したBlackの論文によると、ケースには十分なニスを塗り、接合部には蝋引き布を挟んでねじ止めし、巻上げ軸は詰め物を用いる密封部を通した。Robinsonは1827年の清掃で、長く開けられなかった機械の軸や脱進機に傷みが見られなかったと評価する。これは使用者の観察であり、無整備での永久使用を保証するものではない。5

ここでいう密閉は真空容器や一定圧力の装置を意味しない。Robinson自身、外気圧の変化は除けないと述べた。防塵と風の抑制によって潤滑や振子の条件を安定させても、内部の空気が時計へ及ぼす作用はなお残った。5

温度補償から気圧補償へ#

振子は製作当初のままではない#

公式の説明による当初の振子は、鋼と真鍮を組み合わせた九本棒のグリディロン振子だった。温度に対する二金属の伸びの違いを利用して、振子の有効な長さの変化を抑える方式である。八日間の持続時間と恒星時への調整も公式に確認できる。3

その後、ダブリンのChristopher Sharpが水銀補償振子へ交換した。水銀振子では、金属棒が暖まって伸びると容器が下がる一方、容器内の水銀は膨張して液面とその重心が上がる。二つを釣り合わせ、振動を支配する有効な振子長の変化を抑える。必要な水銀量には容器や支持部の質量も関わり、単に水銀を入れれば自動的に完全補償となるわけではない。これは水銀補償の一般原理で、Sharpの個体の充填高さや容器材質を確定する記述ではない。8交換時期は、公式サイトでは1820年代、Gunnでは1830年。MollanはBennettの研究に基づき、1830年9月にSharpへ交換を任せたと記す。1827年の清掃と振子交換を同じ出来事と決めず、年代に資料差があることを残すのが妥当である。123

Robinsonの原論文は、交換前のグリディロン振子がわずかに過補償だったこと、水銀振子を選んだ背景にBailyの研究があったことを説明する。1830年10月には交換後の天文観測による検査を始めた。Gunnによると、この時期には振子へ力を伝える腕(crutch)のピンの摩擦を抑えるばね装置も加えられた。温度補償の変更と、機械から振子へ力を伝える接点の改善が並行したのである。19

保存状態にも注意が要る。Gunnは水銀振子を記載する一方、Mollanの1995年目録にはグリディロン振子を再装着したとの記述があり、それが当初品かどうかには疑問符が付く。同目録のSharp振子ARM005は、気圧補償部を含む状態が完全には残らないとする。したがって、製作時、十九世紀の改造時、目録作成時、現在を同一の構成として図示することはできない。12

なぜ気圧を測ったのか#

Robinsonの1831年の会報報告は、時計の歩度を温度と気圧に分けて調べた過程を伝える。会報にNo.1という番号はないが、1833年刊の詳しい原論文は、対象をアーマーのアーンショウ製子午儀用時計とし、鋼・真鍮の格子振子からSharpの水銀振子への交換を記す。この組合せは、GunnのNo.1の記述とMollanの振子部品目録に対応する。129

気温は金属だけでなく空気の状態を変え、振子には浮力と、運動に伴って動かされる空気の作用が生じる。良好な温度補償と精密な機械があっても、空気の影響は残るという問題である。6

報告では温度計をケース内に置き、外からガラス越しに読み、気圧計も朝夕に観測した。得られた条件式を最小二乗法で処理して、基準状態での歩度、温度に対する変化、気圧に対する変化を分離した。1830年10–12月の観測から、気圧計の水銀柱が一インチ低下すると、24時間当たりの進みが0.241秒増すという係数を得た。1833年の原論文では、補償の式を24時間の遅れとして定義し、この係数と対応させている。さらに1831年6–9月の追加観測では0.267秒となった。これらは当時の機械と観測系列から求めた歩度の気圧係数であり、現在のNo.1の保証精度でも、単一の通過観測の誤差でもない。69

Robinsonはさらに、振子の両側へサイフォン式気圧計を取り付ける補償を説明した。気圧が上がると管内の水銀の分布が変わり、その移動を利用して振子の歩度を速め、空気による遅れと打ち消すよう調整する。これは圧力を一定に保つ方法とは異なり、圧力変化に応じて振子自身を補償する方法だった。6

小さい効果を求めるため、報告の末尾は、観測の誤差を求める量より十分小さくする必要を指摘する。数日間の歩度をまとめるか、一晩に複数の星を観察するという対策も示す。時計の性能は、機構だけでなく、その誤差を確かめる観測手続と一体だった。6

評価、証言、保存#

1807年12月22日、アーンショウは初代所長James Archibald Hamiltonへ時計の歩度に関する証言を依頼した。McFarlandが公開した本人の書簡画像には、グリニッジでの歩度、使用者からの情報、それを公刊物に使う意図が読み取れる。二台目の時計についても証言を求めている。この手紙は作者の主張を示す一次資料だが、それ自体が第三者の比較試験の結果ではない。7

現在の公式紹介には、Robinsonによる一週半秒という評価が載る。しかし、世界中の時計を統一条件で比べた現代的なランキングとして読むことはできない。歩度、観測精度、温度と気圧を補正した残差も異なる量である。No.1は、優秀な時計だから環境の影響を無視できたというより、小さな環境の影響を調べられる測定基盤になった点で重要である。36

2026年10月の調査時点で、AOPはNo.1を六点の歴史的レギュレーターの一つとして紹介している。同ページで2024年時点の稼働品とされるのはNo.2であり、No.1の現在の歩度を示す試験値は掲げられていない。No.1は、個体と書簡、観測記録、改造記録を結び付けて読むことで、十八世紀末の製作技術と十九世紀の精密測定の双方を示す資料である。37

年表#

年月・時期出来事
1789年4月マスケリンが器械と時計を検討。Gunnが4月22日書簡を参照。1
1790年2月製作引受けについてマスケリンが報告。1
1792年2月グリニッジで試験開始。1
1794年8月18日アーンショウがアーマーへ設置。1
1807年12月22日Hamiltonへ時計の歩度の証言を依頼。7
1827年Robinsonが後に記述する清掃。5
1820年代–1830年Sharpの水銀振子へ交換。資料間で時期に差。123
1830年10月–1831年9月水銀振子への交換後、温度・気圧と歩度の観測を実施。9
1831年6月10日歩度と気圧についての論文を学会で読上げ。1833年に詳報を刊行。69
1859年Robinsonの星表に時計のケースと改造の説明。ここではBlackの転記を参照。5
1995年Mollan目録が寸法、表示、グリディロン再装着と振子部品を記録。2
1996年Gunnが個体研究を刊行。1
2026年10月AOPの現行収蔵紹介を確認。3

参考文献#

閲覧日はすべて2026年10月24日。

  1. A. G. Gunn, “Astronomical Clocks at Armagh Observatory”, Irish Astronomical Journal, 23(2), 1996, pp.198–204。No.1の記述pp.199–200、原資料の注p.204と掲載写真を確認。論文PDF。

  2. Charles Mollan, Irish National Inventory of Historic Scientific Instruments, Samton, 1995、印刷頁13の3691 ARM004、頁18の3692 ARM005・4005 ARM079。後年の公開PDF版。全国目録。

  3. Armagh Observatory and Planetarium, “Regulators”, 年表示なし。No.1・No.2と収蔵時計群の説明。所蔵機関の解説。

  4. Armagh Observatory and Planetarium, “The Earnshaw Clocks”, 年表示なし。購入価格・渡航設置費、時計の使用者の説明。公式史。

  5. Aaron Black, Placing Astronomy: Landscape, Space and Science at Armagh Observatory, 1790–1916, Queen’s University Belfast博士論文、提出2024年9月、学位授与2025年。p.161注342、pp.207–210。1859年Robinsonの原本全体を直接読んだものではない。論文。

  6. Thomas Romney Robinson, “On the dependence of a clock’s rate on the height of the barometer”, Monthly Notices of the Royal Astronomical Society, 2, 1831, pp.40–42。会報掲載の報告を紙面画像で実読。pp.40–41、p.42の続き。

  7. John McFarland, “Scientific Instruments and Their Related Correspondence”, LISA II, 1995、§3.2。Figure 4はThomas EarnshawからHamiltonへの1807年12月22日書簡、Armagh Observatory Archives M51.9。画像掲載範囲を確認し、三頁全体の読了とは区別した。本文、書簡画像。

  8. Ward L. Goodrich, The Modern Clock: A Study of Time Keeping Mechanism; Its Construction, Regulation and Repair, Hazlitt & Walker, 1905。Chapter IV pp.56–59の水銀補償、Chapter VIII pp.109–114のGraham脱進機の一般原理を実読。No.1の個体調査ではない。原著の電子転記。

  9. Thomas Romney Robinson, “On the Dependence of a Clock’s Rate on the Height of the Barometer”, Memoirs of the Royal Astronomical Society, 5, 1833, pp.125–134。1831年6月10日読上げ。本文・図・追加観測表の全頁を画像で実読。詳報原論文。