グランドマスター・チャイム Ref.5175 — 音で時刻と日付を伝える腕時計

グランドマスター・チャイム Ref.5175 — 音で時刻と日付を伝える腕時計

グランドマスター・チャイム Ref.5175は、パテック フィリップが創業175周年の2014年に発表した、手巻きの両面式腕時計である。自動で時刻を打つグランドソヌリとプチソヌリ、要求したときに時刻を打つミニッツリピーター、予約した時刻を音で伝えるアラーム、日付を打つリピーターを、一つの時計に収めた。さらに万年カレンダーと第二時間帯表示を備え、メーカーが数える複雑機能は20。7本の記念限定作で、後に通常コレクションへ加わったRef.6300とは、型番と外装を区別する必要がある。1 2 7

この時計の特徴は、機能の数だけでは捉えられない。暦が持つ日付情報を音へ変え、リピーターを予約作動させ、複数の打報要求が衝突しないよう制御する。その仕組みを、時刻側と暦側の二つの文字盤、反転できるケース、操作状態を知らせる小窓とともに理解すると、なぜ複雑な構成が必要だったかが見えてくる。1 2

製作の経緯と7本の記念作#

スターン父子の構想#

ティエリー・スターンのインタビューによれば、企画を始めたのは父フィリップ・スターンだった。ティエリーは当初まだ社長ではなく、2009年に社長職を引き継いでいる。開発は約8年に及んだ。当初の一面式の構想は、フィリップが博物館のために購入した万年カレンダー懐中時計の、簡潔な表示を取り入れたいという要望から、開始後数か月で両面式へ変わったという。懐中時計ではなく、着用できる腕時計として実現することが企画の前提だった。3 4 11

ケース開発については、2014年の公式発表が4年とする一方、ティエリーはインタビューで反転機構を開発するのに2年かかったと述べる。ケース全体と個別の反転装置では工程範囲が異なり得るが、2年と4年の内訳を確定する開発記録は公表資料にない。両者を加算した開発期間にはしない。同じ回想では、終盤には約1,000人が計画を知っていたが情報が漏れなかったこと、妻とともにケースの意匠を考えたことも語られている。これらは経営者本人の回想である。1 3

製作数、工数、顧客#

公式発表では、7本のうち6本を長年の顧客コレクター向けとし、1本をジュネーブのパテック フィリップ・ミュージアムへ収める計画が示された。顧客の実名や各個体のその後の移動を網羅する公開台帳は、ここで用いた資料にはない。匿名の長年の顧客との会話が、日付を音で知らせる着想につながったことは公表されている。1

開発・製造・組立に投じた工数は10万時間超、そのうちムーブメント部品に6万時間とメーカーは説明する。ムーブメント1,366部品とケース214部品の合計は、1本あたり1,580部品、7本では11,060部品となる。これは公表された部品・工数の集計であって、個々の時計の組立だけに10万時間を要したという意味ではない。当時のSJXの発表記事は価格を250万スイスフランと記録する。税・為替条件が一様でない通貨換算額より、当時の通貨と価格を区別して扱うほうが明確である。1 5

動力と調速機、二つの文字盤#

基本仕様と香箱#

搭載機は手巻きのCaliber 300 GS AL 36-750 QIS FUS IRM。2014年のプレス資料の仕様欄では先頭の「300」を省くが、同年の専用説明書にはこの表記がある。後継機の型式を推測で遡らせた呼称ではない。1 2

項目Ref.5175の公表仕様
ムーブメント手巻き、直径37mm、厚さ10.7mm
構成1,366部品、32の受け、108石
調速機Gyromaxテンプ、Spiromaxひげぜんまい
振動数毎時25,200振動、3.5Hz
時刻側の持続時間最低72時間
打報側の持続時間グランドソヌリで30時間。リピーターの頻繁な使用で短くなる
動力源時刻側の二重香箱と、打報側の二重香箱、計4香箱
外装18Kローズゴールド、両面サファイアクリスタル
ケース寸法10時–4時方向の直径47.4mm、風防間の厚さ16.1mm
防水防水性能なし。説明書は液体を触れさせないよう指定
品質標章パテック フィリップ・シール

数値は専用説明書と2014年の仕様表による。3.5Hzはテンプの毎秒3.5往復に相当し、片振動を数える毎時25,200振動と矛盾しない。ただし、この周波数を選んだ理由を、暦の瞬時切替やトルクとの関係から断定できる設計資料は示されていない。1 2

竜頭を押し込んだR位置では、時計回りで時刻側、反時計回りで打報側を巻く。時刻側と打報側は動力の蓄えと残量表示を分けているため、打報に必要なエネルギーを時刻側の香箱だけに負担させずに済む。ただし、別香箱であることをもって、あらゆる作動条件で歩度への影響がゼロと証明されたわけではない。打報側の残量が不足すると、1時半付近の丸窓が赤になり、打報を止める。充分に巻くと白へ戻る。2

20機能の数え方#

メーカーの一覧は、五つの打報だけでなく、残量や操作状態を知らせる表示も一つずつ数える。したがって「20」は、同じ数だけ互いに独立した大機構を搭載するという意味ではない。公表一覧を役割別に整理すると、次のようになる。1

分類数えられる機能数
打報グランドソヌリ、プチソヌリ、ミニッツリピーター、時刻打報式アラーム、日付リピーター5
操作・状態打報モード表示、打報アイソレータ表示、竜頭位置表示3
動力残量時刻側と打報側それぞれのパワーリザーブ表示2
第二時間帯第二時間帯表示、その昼夜表示2
暦・関連表示瞬時切替万年カレンダー、曜日、月、日付、閏年周期、4桁年、24時間制の時分小文字盤、月相8

表示の分担#

竜頭が右に来る時刻側には、中央の時分針と第二時間帯の時針、12時の24時間式アラーム設定、6時の日付・月相がある。9時が時刻側、3時が打報側の残量表示である。7–8時付近にはS・G・Pの打報モード、4–5時付近にはR・A・Hの竜頭位置表示がある。鐘形のアラーム表示窓、打報の可否を示す丸窓、第二時間帯の昼夜窓は、それぞれ異なる状態を伝える。赤白の窓を一括して「ソヌリのオン・オフ」と読むと、操作条件を取り違える。1 2

暦側の中央には4桁の西暦、3時に月、6時に日付と閏年周期、9時に曜日、12時に24時間制の時分表示が置かれる。四つの小文字盤のうち、三つが暦、残る一つが時刻である。時刻と日付は両面で読めるので、暦面を上に着用しても時計としての基本情報を失わない。第二時間帯は時刻面の8時と10時のプッシャーで1時間ずつ前後させ、その昼夜も専用窓で判断する。1 2

五つの打報機能#

自動で打つソヌリと、要求して鳴らすリピーター#

グランドソヌリは正時に時数を低音で打ち、各15分には時数を繰り返したうえで四半時を三連打で知らせる。プチソヌリは正時には時数を打つが、15分・30分・45分には時数を繰り返さず、四半時だけを三連打で知らせる。ケース9時のスライダー中央がG、12時寄りがP、6時寄りがSのサイレンスで、選択した状態は文字盤でも確認できる。2

ミニッツリピーターは、自動時報とは別に、その時点の時・四半時・残りの分を要求に応じて鳴らす。竜頭に組み込まれたRMプッシャーを押して離すと作動する。本機は三つのゴングを使い、四半時を三連打で表す。このため、通常の二音による四半時打報に対して一つの四半時あたりの打数が増す。公式発表は、この部分の必要エネルギーが50%増すと説明するが、時計全体の消費が常に1.5倍という数値ではない。1 2

時刻を打って知らせるアラーム#

本機のアラームは、単調なブザー音を続ける方式ではなく、リピーターの時・四半時・分の音型を使う。メーカーが2014年の世界初としたのは、この種の時刻打報式アラームを機械式腕時計に組み込んだ点であり、機械式アラーム一般の発明を主張しているのではない。1

専用説明書では、設定は15分刻み、少なくとも30分先から最大22時間先までとされる。竜頭のA位置で設定し、押し戻して2時のプッシャーで作動を予約する。設定目盛りに対して実際の打報は2分前に始まる。たとえば8時45分に設定すると、鳴らすのは8時43分で、時の8打、四半時の三連打2組、残り13分の13打となる。設定時刻をそのまま15分の境界で鳴らすという理解では、実際の音と合わない。2

予約が有効な間は鐘形の窓が赤になり、他の打報モードは停止する。アラーム終了後に白へ戻ると、他の打報を再び使える。取り消すときも、A位置へ引いて約5秒待ち、窓が白になってから操作するよう説明される。音の新しさと同時に、複数の音の要求を一度に受け付けない制御が本機の重要な設計要素である。2

日付リピーターと暦からの情報伝達#

DATEプッシャーで要求すると、暦機構が示す日付を、十の位と一の位に分けて鳴らす。十の位は高音–低音の二連打、一の位は高音の単打である。23日なら二連打を2回、続いて高音を3回、31日なら二連打3回と高音1回となる。これは「第23日」という日付を音の回数へ符号化する仕組みであり、曜日や月を本機が打つという意味ではない。1 5

この日付情報は、両面の日付針を動かす万年カレンダーから得る。日付が切り替わる前後に中間状態を読まないことが重要なため、公式発表は暦の瞬時切替を日付打報と関連づけて説明している。他の打報中、またはアラームを予約した状態では、日付リピーターも作動しない。1 2

万年カレンダー、安全装置、微小な差動装置#

瞬時切替と年表示の例外#

日付、曜日、月などの日常の暦表示は、必要な切替時に一斉に進む。ただし、全表示が必ず瞬時に切り替わるわけではない。2014年のプレス説明は4桁年表示を例外とし、専用説明書はさらに、西暦と機械的に連結された閏年周期の表示も、年替わり前の数時間をかけてゆっくり切り替わると明記する。通常の暦送りと、年表示の連結動作は分けて理解する必要がある。1 2

西暦と閏年周期は、MILLESIMEの「+」「−」補正子で一緒に前後できる。日付、曜日、月、月相はそれぞれQUANTIEME、JOUR、MOIS、LUNEと刻まれた補正子を使う。前後補正が便利であることと、2100年などグレゴリオ暦の世紀例外を自動で処理することは別の性能である。本機について、4桁年があるだけで世紀例外にも自動対応すると説明できる資料は得られていない。2

作動の衝突を避ける隔離機構#

アイソレータは、機構間の動力のつながりを切ったり、ある機能の作動中に別の操作を受け付けなくしたりする装置である。サイレンス選択時にはグランドソヌリを時刻機構から切り離し、その駆動に伴う抵抗を省く。打報残量不足による停止と、アラーム予約による他の打報の停止は、理由の異なる制限であり、それぞれ表示窓で知らせる。1 2

安全装置があるから何を操作してもよいわけではない。説明書は、リピーターの作動中と最後の打音から5秒間は時刻合わせをせず、鐘形の窓が赤い間はアラームや時刻を補正しないよう求める。さらに、液体が触れないよう注意すること、暦の補正には付属の金と黒檀の補正具を使うことも指定する。高度な隔離機構と、守るべき取り扱い条件は両立している。2

特許とは別に公表された差動装置#

打報の二重香箱と、その先の二つの機構の間には差動装置がある。一方がグランドソヌリ、ミニッツリピーター、アラームの系統、他方が日付リピーターの系統である。メーカーは直径7.2mm、19部品とし、その構成品の一つが、直径0.3mmの球7個を含む11部品の玉軸受だと説明する。0.3mmは軸受全体の直径ではなく、球一つの直径である。1

この装置が伝えるトルクについて、資料は1,700gmm超という値を掲げる。これは打報系の力の伝達についてのメーカー公表値であり、時計の精度や音量の測定値ではない。メーカー自身が差動装置を「特許を取っていない革新」と区別している点も重要で、六つの特許項目へ七つ目として数えてはいけない。1

六つの特許項目と原公報#

2014年のメーカー発表は、次の六つを特許項目として挙げる。ここではその公表内容を整理するもので、各国の登録状態や法的な権利範囲が同一であると判断した一覧ではない。1

項目メーカーが説明する機能
時刻打報式アラームリピーターを使い、予約した時刻を時・四半時・分で知らせる
サイレンスでのソヌリ隔離停止中のグランドソヌリを時刻機構から分離する
打報モード選択G・P・Sを一つのスライダーで選ぶ
日付リピーター暦の日付情報を打報機構へ伝える。発明者をティエリー・スターンとする
反転ケースラグ内の回転・固定装置により12時–6時軸で反転し、二つの位置に固定する
4桁年表示西暦と閏年周期を連結し、双方を前後に補正する

日付打報に関しては、ティエリー・スターンを発明者、Patek Philippe SAを出願人とするフランス公開公報FR2919398A1を確認できる。表紙はスイスの2007年7月25日を優先日、フランスへの出願を2008年7月24日、公開を2009年1月30日と記す。明細書と請求項は日付の十・一の位だけでなく、月・曜日を鳴らす形態も含む。十・一の位の読み取りに段差のあるカムを使い、触針の移動量で打数を決める実施例が説明されている。6

ただし、公報に月や曜日の打報が書かれていることは、それらがRef.5175へ搭載された証明にはならない。製品の公表機能は日付リピーターである。他の五項目は対応する原公報が未確認であり、ここでの機能の説明はメーカー発表に基づく。未発見を特許の不存在とみなしたり、出願時点と製品発表時点を同一視したりはできない。1 6

ケース、素材、装飾と音#

反転機構と月桂樹の手彫り#

ラグはベルトを留めるだけでなく、ケースを反転して固定する装置を持つ。これにより、二つの面を同等の着用面にできる。2001年のスカイムーン・トゥールビヨンRef.5002にも両面表示はあったが、Ref.5175でメーカーが強調したのは、反転機構を備え、どちらも上向きに着用できる点だった。1 11

18Kローズゴールドのケース、ベゼル、ラグには、月桂樹を表す浮き彫りを手で施す。表面に線を刻むだけでなく、模様に高低を与える装飾で、メーカーは1ケースに数百時間を要するとする。月桂冠は勝利の象徴として記念作に用いられた。側面やプッシャーには操作を示す文字と記号も彫られ、装飾が操作の案内を兼ねる。1

ティエリーは、ケースの意匠を揃えるために一人の彫刻師へ任せた結果、先に完成したムーブメントがケースを待つ状態になったと回想する。ここには、機械部品を製作する工程と、個々のケースを彫る工程の速度差という具体的な製作上の問題があった。彫刻師の実名や、7本それぞれの完成日までは、このインタビューからは分からない。3

文字盤と針の材料#

両文字盤の基板は18Kゴールドで、銀白色のオパーリン仕上げ。時刻面の中央には放射状に波打つギヨシェがあり、植字の金製ローマ数字を配する。主時分針は黒くニッケル処理した18Kホワイトゴールド、第二時間帯の針は輪状の先端を持つローズゴールドで、色と形でも役割を区別できる。暦面の中央は金枠の西暦窓で、小文字盤には黒い目盛りと、黒くニッケル処理した鋼製の針を使う。見た目が似た針でも、すべて同じ金合金ではない。1 4

濃茶のアリゲーターストラップと、手彫りしたローズゴールドの折り畳み式バックルを組み合わせる。付属の箱はマカッサル・エボニーとさらに17種の木材を使い、寄木と金の象嵌で飾られ、書類と記念金メダルを収める。時計本体のケース彫刻に加え、保管時の一式まで記念作として構成したものである。1

音響と品質の説明で分けるべきこと#

ローズゴールドの選択について、ティエリーは銅の含有を挙げ、音のためにこの素材を選んだと語る。これは製作者側の選択理由として意味がある。一方、合金組成だけから、どのケース形状・ゴングでも音量や余韻が必ず優れると結論できる比較実験の結果を、このインタビューは示していない。外観の装飾と実際の打音の関係を評価するには、ケースとゴングを含めた個別の検討が必要である。3

調速機には、公式仕様に記されたシリコン系ひげぜんまいSpiromaxを採用する。ただし、地板、各歯車、すべての石枠について材料や加工公差を示す製造図面は公表仕様にはない。外装、文字盤、針、調速機について公表された材料情報は、それ以外の部品の材質や仕上げを示すものではない。1 11

また、パテック フィリップ・シールは2009年に導入された同社独自の品質標章で、ムーブメントだけでなく完成時計を対象とする。ジュネーブ・シールと同じ認定制度ではない。Ref.5175がこの標章を持つことと、第三者による全7本の長期歩度試験が公開されていることも別であり、後年変更されたシールの精度基準を2014年の個体測定値に読み替えることはできない。1 16

評価と後継機への展開#

発表時の位置づけ#

2014年のHodinkeeは、同社のそれまでで最も複雑な腕時計と紹介しつつ、「世界で最も複雑な腕時計」とする報道には明確に異議を唱えた。SJXも、20という数は各機能を構成要素へ分けた算定であると説明し、同時代の別メーカーの大複雑腕時計と比較している。メーカーごとに表示と機能の数え方があるため、部品数や機能数だけで普遍的な順位を作ることは難しい。4 5

彫刻についてHodinkeeは王者を思わせる存在感と評価し、SJXは大きくバロック的な外観と表現した。同じ47.4mmのケースと全面彫刻が、記念性と強い外観上の個性を生む。機械的な達成と、誰にでも日常的に着用しやすいかという判断は分けて考えられる。時計史上の意義は、賛辞の強さより、音・暦・操作・外装を一体として成立させた具体的な設計にある。4 5

Ref.6300と競売の個体#

2016年、グランドマスター・チャイムはRef.6300として通常コレクションに加わった。白金色の外装はホワイトゴールドで、手彫りの月桂樹に代わって手作業のギヨシェを用いる。20機能を持つ同系統の機械を継続したことは重要だが、「通常コレクション」は大量生産や一般向け在庫販売を意味しない。7

2019年11月9日のOnly Watchでは、特製のステンレススチール製Ref.6300A-010のクリスティーズによる公表落札額は3,100万スイスフランだった。時刻面はローズゴールド色、暦面は黒、アラーム小文字盤には「The Only One」の文字がある。競売会社が公表するこの個体の寸法は47.7mm、厚さ16.07mmであり、Ref.5175の寸法をそのまま転記する対象ではない。これは慈善競売での実現価格で、Ref.5175の発売価格や全個体の市場価格ではない。8 9

2020年7月には、販売サイト上のRef.5175の希望価格を5,000万米ドルとする報道もあった。報道は上海の所有者に言及するが、ここで確認できるのは売却希望額を報じた記事であり、売買成立の記録ではない。希望額と競売の落札結果を同列に置いて、5175の価値が何倍になったと計算することはできない。10

音の技術が継承された先#

2019年のRef.5520Pアラーム・トラベルタイムは、自動巻きで防水ケースを持つ別設計である。そのアラームは単一のゴングを最大約40秒反復して打ち、時・四半時・分を符号化して知らせる5175の方式とは異なる。メーカーは両機をゴングを使うアラームの歴史の中に位置づけるが、5520Pの四件の特許出願を、5175の六件の特許と同じ機構の登録追加と扱うことはできない。12

直接の機構的な展開としては、2020年のRef.6301Pが挙げられる。公式資料は、その手巻きGS 36-750 PS IRMをグランドマスター・チャイムのCaliber 300から開発したと明記する。暦や二面表示の集合体から、グランドソヌリ、プチソヌリ、リピーターを中心とする703部品の時計へ展開した例である。13

時刻打報式アラームの継承先は、2023年11月のRef.1938Pでも明示されている。これは創業周年ではなく、フィリップ・スターンの85歳を祝う30本の限定作。専用の自動巻きR AL 27 PSへ、同じ二つのゴングを使うリピーターと時刻打報式アラームを組み込み、そのために機構を作り直したと説明される。5175と同じCaliber 300を小さなケースに移したものではない。14

2026年10月の公式コレクションには、ホワイトゴールドとローズゴールドを組み合わせたRef.6300GRや宝石装飾のバリエーションがある。Ref.5175は7本の2014年記念作として同定を保ち、その技術が、継続する両面時計と、打報に焦点を絞った別設計の時計へ広がったと捉えられる。15

年表#

前史にはメーカーの沿革・所蔵解説を用い、製品と直接関係する節目を示す。メーカー内の初採用と、時計一般の世界初は区別する。11 13 17

年月出来事と位置づけ
1839年アントワーヌ・ノルベール・ド・パテックとフランソワ・チャペックがPatek, Czapek & Cieを設立。同年の台帳にリピーター懐中時計が記録される。11 13
1845年メーカーの博物館案内は、ミニッツリピーターの製作開始をこの年とする。2020年の別の公式沿革は1860年と記すため、最初期の年代に資料差がある。13 17
1868年コスコヴィッチ伯爵夫人向けの腕時計を製作。公式沿革がスイス初とする事例で、時計一般の世界初とは区別する。11
1889年懐中時計の万年カレンダー機構について特許を得る。11
1910年レグラ公向けの懐中時計に、五つのゴングによるウェストミンスター打報、グランド・プチソヌリ、リピーターを組み合わせる。13
1916年同社初の打報腕時計として、女性用の5分リピーターを製作。11 13
1925年万年カレンダー腕時計No.97,975を製作。メーカーの所蔵解説では、機械自体は1898年に遡る。11 17
1933年ヘンリー・グレーブス・ジュニアへ、24機能の大複雑懐中時計を引き渡す。13
1941年万年カレンダー腕時計の継続生産へ。クロノグラフを組み合わせたRef.1518も同年に登場する。11 18
1989年150周年のCalibre 89に33機能を集成。自社製R 27を備える打報腕時計Ref.3979と3974も発表。13
2001年両面表示のスカイムーン・トゥールビヨンRef.5002を発表。後の反転して両面を着用する5175との違いに注意。11 13
2000年代半ば頃スターン父子が175周年腕時計の計画を開始。約8年の開発という本人の回想による。3 4
2007年7月25日日付などの打報機構のフランス公開公報FR2919398A1が記すスイス優先日。製品の発表日ではない。6
2009年ティエリー・スターンが社長に就任。同年1月30日には上記フランス公報が公開される。6 11
2014年10月創業175周年のRef.5175を発表。20機能、7本の記念限定作。1 5
2016年Ref.6300を通常コレクションへ導入。ホワイトゴールドとギヨシェによる外装へ展開。7
2019年別設計のアラーム・トラベルタイムRef.5520Pを発表。12
2019年11月9日Only WatchでRef.6300A-010が3,100万スイスフランを記録。5175とは別の特製個体。8 9
2020年7月Ref.5175について5,000万米ドルの売却希望額が報道される。実現取引額としては確認できない。10
2020年11月Caliber 300を出発点とする、報時中心のRef.6301Pを発表。13
2023年11月フィリップ・スターン85歳記念のRef.1938Pが、専用の自動巻き機械で時刻打報式アラームを継承。14
2026年10月公式コレクションでRef.6300GRと宝石装飾モデルを確認。7本のRef.5175と区分される後継展開が続く。15

参考文献#

  1. Patek Philippe, Grandmaster Chime Ref.5175 — The sound of history, 2014年10月、英語公式発表PDF、フランス語版。英語版pp.1–8、仏語版の機能・仕様を照合。

2. Patek Philippe, Reference 5175 — Patek Philippe Grandmaster Chime, Caliber 300 GS AL 36-750 QIS FUS IRM, Anniversary Edition, 2014年、専用使用説明書PDF(販売店12-24公開のメーカー原文)、全7頁。

3. The Edge Singapore/The Edge Malaysia, A grand occasion、ティエリー・スターンへのインタビュー。開発、反転機構、ケース彫刻、素材選択についての本人の回想。

4. Evald Muraj, Hodinkee, Introducing: The Patek Philippe Grandmaster Chime Ref.5175R, Their Most Complicated Wristwatch Yet、2014年10月21日。

5. JX Su, SJX Watches, Introducing The Patek Philippe Grandmaster Chime Ref.5175, A Reversible, Grande Sonnerie, Perpetual Calendar Wristwatch、2014年10月14日。機能算定、当時価格、外観と同時代作品の比較。

6. Thierry Stern/Patek Philippe SA, FR2919398A1, Mécanisme de répétition ou de sonnerie et pièce d’horlogerie munie d’un tel mécanisme、2009年1月30日公開。原公報PDF、表紙、明細書、請求項1–4など。

7. Patek Philippe, Patek Philippe at Baselworld 2016、2016年、p.1、pp.7–9のRef.6300仕様。

8. Christie’s, Patek Philippe Grandmaster Chime — Ref.6300A-010、Only Watch 2019、ロット28。個体の素材、寸法、文字盤、特製仕様。

9. Christie’s, The six most expensive wristwatches sold at Christie’s、2025年10月10日。Ref.6300A-010の2019年11月9日の公表落札結果。

10. Nick Hall, Man of Many, $72 Million Patek Philippe Grandmaster Chime、2020年7月11日。販売広告についての報道であり、売買成立記録ではない。

11. Patek Philippe Magazine, The History of Patek Philippe、Vol.III No.10、1頁の図解年表。企業史、暦・腕時計・調速機の前史。

12. Patek Philippe, Ref.5520P-001 Alarm Travel Time、2019年、pp.1–3、6。単一ゴングのアラーム、専用自動巻き機械、特許出願四件。

13. Patek Philippe, Grande Sonnerie Ref.6301P、2020年11月、pp.1–4、末尾の打報時計年表。報時時計の前史、Caliber 300からの開発。

14. Patek Philippe, Minute Repeater Alarm Reference 1938P-001、2023年11月、pp.1–3。85歳祝賀、30本、R AL 27 PSと時刻打報式アラーム。

15. Patek Philippe, Grandmaster Chime Ref.6300GR-001、Ref.6300/400G-001、公式コレクション。現行の外装と仕様。

16. Patek Philippe, The Patek Philippe Seal、独自標章の対象と検査の説明。掲載時点の基準を2014年の測定値とは扱わない。

17. David Rooney, Patek Philippe Magazine, The Patek Philippe Museum — Tour Assistant、Vol.IV No.12、pp.38–42、特にp.42。No.97,975と初期ミニッツリピーターの所蔵解説。URLの言語ディレクトリにかかわらず本文は英語。

18. Phillips, The Patek Philippe Ref.1518 Trilogy、2016年11月8日。自社取扱個体とRef.1518の1941年の登場に関する解説。

資料の閲覧・現行モデルの確認:2026年10月27日。