二つの時代を伝える時計#
ジョン・アーノルド No.14は、18世紀後半のロンドンで製作された航海用クロノメーターである。時計師組合のコレクションに属し、科学博物館グループの収蔵記録では1775年頃の作品とされる。ただし、現存する仕組みをそのまま製作当初の設計とみなすことはできない。博物館は、当初は軸で回るデテントを備え、後にばね式へ改造された可能性が高いと説明している。1
この個体はClockmakers’ Museumの番号600、科学博物館グループの資料番号L2015-3482で識別できる。番号だけで他の作品や航海記録と同一視し、航海歴や仕様を移すことはできない。1
外観と現存する仕組み#
白いエナメル文字盤には独立した秒表示があり、文字盤とムーブメントに製作者名と番号が記される。ムーブメントの署名は「John Arnold London Invt. et Fect. No. 14」である。資料が記録する素材は真鍮、鋼、エナメルで、博物館の寸法欄は全体を75 × 115 × 100 mmとする。これはケースの径やムーブメントの径を意味すると決められない。1
時計師組合の目録は八角形の箱を記録し、現在の博物館記録はフュゼ、ばね式デテント脱進機、Z形の補償テンプを挙げる。1 3 フュゼはぜんまいの力が巻き上げ状態によって変わる影響を抑えるため、円錐形の滑車を使って輪列に力を伝える仕組みである。デテント脱進機では、デテントがガンギ車を止め、往復するテンプが適切な時点でそれを解放する。Z形の補償テンプは、温度変化が振動に与える影響を抑えるための調速機構である。
これらは現在または後年に記録された特徴であり、すべてが1775年頃からそのまま存在した証拠ではない。博物館記録は、軸式デテントからばね式デテントへの交換を推定として記す。1
組合の目録と収蔵#
時計師組合の目録はNo.14を、一日巻きの航海用クロノメーターとして挙げる。八角形のケース、エナメル文字盤、エピサイクロイド形のガンギ車、調整できるひげ持ちを記し、Charles Frodsham & Co.が1875年に寄贈したとする。3 この一日巻きという記述は組合目録の記録であり、初製作時の仕様を直接示すとは限らない。
現在の収蔵記録は同じ寄贈者と年を示し、時計師組合からの貸与品として科学博物館のClockmakers’ Museum Galleryに掲載する。展示状況は変更されうる。1 発注者、実際の航海での使用、歩度の測定結果、改造の正確な日付は、ここで確認した資料からは確定できない。
航海時計としての意味#
航海では、基準となる地点の時刻を船上に持ち運び、現地の太陽時と比較することで経度を求められる。時刻の差は地球の自転に対応し、1時間は経度15度に相当する。海上では揺れや温度変化が時計の歩度に影響するため、持ち運べる調速機とその補償が重要だった。4
No.14は、初期の精密な時計が後年に改造された可能性から、実用時計の更新を考える手掛かりとなる。一方、現在見えるばね式デテントや補償テンプを、当初の発明や航海成績の証明として扱うことはできない。現物、19世紀の目録、後年の技術的な解釈を区別して読むことが、この時計を理解する鍵である。1 3
年表#
- 1775年頃:博物館の推定する製作時期。1
- 1790年頃:ばね式デテントへの改造時期として博物館が推定する。1
- 1875年:Charles Frodsham & Co.から時計師組合へ寄贈。組合目録にも寄贈年が記録される。3
- 2026年11月確認:時計師組合の貸与品として科学博物館グループの収蔵データベースに掲載。1
参考文献#
1. Science Museum Group, “Chronometer movement by John Arnold”, L2015-3482, 収蔵記録(2026年11月4日閲覧)。
3. Worshipful Company of Clockmakers, A Catalogue of Books, Manuscripts, Specimens of Clocks, Watches and Watchwork, 刊年未確認, p. 69, no. 40, 原本画像(2026年11月4日閲覧)。
4. Royal Museums Greenwich, “What is longitude?”(2026年11月4日閲覧)。