スウォンジー・トムピオン

スウォンジー・トムピオン

スウォンジー・トムピオン(Swansea Tompion)は、トーマス・トムピオンが1675〜1680年頃に製作したとされる、製作番号のない置時計である。正時に時を打つ装置に加え、紐を引くと時と四半時を音で確かめられる独立したリピーターを備える。特徴は、後世に普及したラックを使わず、段付きのカムと長さの異なるピンで打数を選ぶことである。現存する初期の引き鳴らし時計を通じて、音で時刻を知らせる機構が一つの標準形へ落ち着く前の試行を観察できる。1

作品の名前と製作年代#

「スウォンジー」は製作地を示す銘ではない。ジョン・ロビーの解説によれば、この時計はウェールズのスウォンジー近郊で銅精錬事業に携わったヴィヴィアン家の旧蔵品で、その通称で知られるようになった。製作者はロンドンで活動したトムピオンである。ただし、最初の注文主やヴィヴィアン家への入手経緯まで、同解説が一連の記録として示しているわけではない。2

年代は銘に刻まれた完成年ではなく、研究者の推定である。ロビーの2005年論文は、R・W・シモンズが1675年頃とするのに対し、ジェレミー・エヴァンスは1680年に近いとみることを注記している。そのため、1675年という一点を確定製作年にしたり、後述する1676年の発明記事との前後だけで製作者の優先権を決めたりすることはできない。1

また、同じヴィヴィアン家に由来する「ヴィヴィアン・トムピオン No.47」とは別個体である。No.47は1684年頃とされ、ケースに番号があり、普段は時打ちをしない小型の引き鳴らし時計として紹介されている。スウォンジー・トムピオンは無番号で、通常の時打ちと別系統のリピーターを併せ持つ。家名や展示先の一致だけでは、二つの作品を同一視できない。1 3

黒檀張りのケースと目覚まし#

ナショナル・トラストの収蔵記録は、本作を黒檀張りで、上部にバスケット状の構造を持つテーブルクロックとし、四半時のリピーターと目覚ましを挙げる。材料欄には黒檀・木・金属・真鍮が記される。黒檀を使った外装と金属の打刻機構を組み合わせた作品であり、時刻の表示、必要なときの引き鳴らし、目覚ましという複数の使い方を備えていた。4

ただし、同記録は文字盤・ケースの寸法や目覚ましの打数制御を詳述していない。外装が黒檀張りという記載を、ケース全体が無垢の黒檀であるという意味に広げたり、時リピーターの構造が目覚ましにもそのまま使われると推測したりすることはできない。4

二種類の「鳴る時計」を一つに収める#

時刻を自動的に知らせる時打ちと、必要なときに操作して時刻を聞くリピーターは、似た音を出しても役割が異なる。本作では、その違いが機構にも表れている。1

系統作動する機会打数を決める方法伝える内容
通常の時打ち正時カウントホイール時
引き鳴らし紐による操作スネイルと追従レバー、長さの違うピン時と四半時

カウントホイールは、外周の切欠きの配置によって打刻輪列を停止させる数取り車である。輪列が回るあいだハンマーが鐘を打ち、次の停止位置までの間隔が打数に対応する。本作ではこの従来の方式を正時の時打ちに残し、それとは別に、表示時刻に応じた打数を選ぶ引き鳴らしを組み込んだ。ロビーの現物写真では、通常の時打ち用の大きな鐘と、時・四半時のリピート用の別の鐘を確認できる。1

ここで四半時は15分の区切りを意味する。四半時を知らせることは、一分単位まで知らせるミニッツリピーターとは異なる。また、引き鳴らし部分が操作時だけ鳴るからといって、時計全体が操作するまで無音というわけでもない。通常の時打ちが独立して存在するためである。1

段の高さから打数を取り出す#

六段を二組にしたスネイル#

スネイルは、周囲に階段状の段差を設けたカムである。回転位置によってレバーの位置が変わるので、時刻という回転角の情報を、打数を選ぶための変位に変換できる。本作の時リピートには、六段が二組並ぶ「ダブル・シックス」のスネイルが用いられている。時の打数は最大六打で、同じ打数が六時間離れた二つの時に対応する。1

例えば一打なら1時または7時、六打なら6時または12時に対応する、という六時間周期の数え方になる。スミスの1675年の説明にも、7時を一打、8時を二打と数え、12時を六打とする対応が記されている。これはダブル・シックスの原理から説明した読み方であり、鐘の音だけで十二時間すべてが一意に区別できるという意味ではない。ロビーは、この構成がリピート輪列の動力負担を小さくすると同時に、レバーを横へ大きく移動させずに済むことを指摘する。1 6

スネイルの低い段が一打、高い段が六打に対応する点も特徴である。追従レバーはスネイルから離れて待機し、操作時にだけ落ちるのではなく、常時その輪郭に接している。ロビーは、後世の一般的な配置とは段の向きが逆であることを説明しており、後代のラック式時計の作動をそのまま当てはめると読み違える。1

長さの違うピンを選ぶ横送り#

時のリピートでは、スネイルを読むレバーの運動が、連結腕と複数の軸を通じ、ハンマーの尾部を横へ送る運動に変えられる。回転する車には長さの違うピンが並んでおり、尾部がどの位置に来るかによって、そこへ届くピンの数が変わる。尾部に届くピンがハンマーを持ち上げ、その後に鐘を打たせる。つまり、全ピンに同じように接触してから輪列を止めるのではなく、接触できるピンを位置で選ぶことが打数の制御に関わっている。1

ロビーの作動図では、文字盤側の地板と平行な追従レバーの回転が、鉛直に対して45度の軸を持つ揺動腕などを介し、地板に対して直角方向の運動へ伝えられる。両端に遊びを設けた連結部が、異なる向きの運動をつなぐ。横に動く尾部の軸と実際のハンマーの軸は針金で連結され、鐘を打つハンマーそのものを横移動させる必要はない。1

四半時も、追従レバー・連結部・軸を組み合わせる類似の方法で数えるが、移動方向は時の系統とは逆になる。少数の四半時を選ぶだけなら横移動の範囲を小さくできる。時のほうを十二段ではなく六段二組にする意味は、こうした限られた空間内の可動範囲と併せて理解できる。1

ラックを引き上げる方式との違い#

後世のラック・スネイル式では、スネイルが歯付きのラックの移動量を決め、回転する爪が一歯ずつラックを集める。その一歯ごとの運動と打刻を対応させることで必要回数を数える。スウォンジー・トムピオンには、こうして一歯ずつ集められるラックがない。スネイルを使うことと、ラック式であることは同義ではない。1 2

ロビーは、1680年頃とされるトムピオンの「キャッスルメイン」「チューリップ」「サセックス」系列を、初期のラック式時打ちを備える別の作品群として検討している。そこでは、集めるためのラックと、その途中で戻らないよう保持するための固定ラックが分かれる。本作をその完成形と考えるより、同じ時代に異なる数え方が試された例として比較するほうが、部品の役割が明確になる。1

現物に残る設計上の試行#

ロビーの観察では、本作のリピート用ゼンマイ香箱は地板の間に置かれている。後のトムピオンのリピーターに使われる板ばねとは異なる構成である。また、柱やリピート機構の軸の一部には、部品が動く空間を確保するためにやすりで削った箇所がある。受けの縁の仕上げなども、後年の作品ほど整っていないという。1

ロビーはこれらを、完成した定型をそのまま製作したのではなく、組みながら機構を成立させた実験的な仕事の痕跡と解釈している。逆回しなどによる損傷を避ける安全装置もあり、作動の原理だけを描いた図より現物は複雑である。ただし、削り跡があることから、具体的な故障回数や当時の顧客の不満まで読み取ることはできない。信頼性の低さという評価と、実測された故障記録は区別する必要がある。1 2

この作品について確認できる技術報告の中心は、打刻機構とその部品配置である。ケース・文字盤の寸法、調速系の詳細仕様、連続運転時間、日差を一そろいの数値として示す資料は、ここで扱う報告からは得られない。別個体の小型トムピオンの寸法や外装を転用することはできず、通常の時打ちが残ることも、現在の精度や全パーツの製作当初からの保存を保証しない。1 3

発明者をめぐる史料の読み方#

エドワード・バーローと1676年を結び付ける重要な記述は、ウィリアム・デラムの『The Artificial Clock-maker』(1696年)にある。同書の第9章は、紐などの操作によって時刻を鳴らす時計の発明を述べているが、ラックを一歯ずつ集める具体的な構造を説明してはいない。したがって、バーローのリピーターへの関与を、そのまま今日いうラック・スネイル式の発明証明に置き換えることはできない。1 5

デラムの1696年刊『The Artificial Clock-maker』106頁。紐を引いて時刻を知らせる時計とバーローについての記述

図1:William Derham『The Artificial Clock-maker』(1696年)p.106。紐を引く反復打鐘を説明する頁であり、スウォンジー個体の設計図ではない。作者:William Derham(1735年没)。出典:Wikimedia Commonsの個別ファイル。Public Domain(同ファイルの著者没後100年超・米国を含むPublic Domain表示、Public Domain Mark 1.0)。変更:ページ抽出・余白トリミング・JPEG化。

一方、ジョン・スミスの『Horological Dialogues』(1675年)には、時の打数を六打以下にする時計の記述がある。ただし、そこでは四半時を同時に鳴る鐘の数で示す説明になっており、その時計が本作だと確認されたわけではない。文献上の類似は技術的背景の手がかりであって、失われた時計の製作者や、現存作品の発注者を確定する台帳ではない。1 6

ロバート・フックの日記にもトムピオンと音による時刻告知について話した記録があるが、部品構成を一義的に示す設計書ではない。バーロー、フック、トムピオンの役割を一人ずつ確定するより、文献が述べる機能と、現物が示す機構を分けて扱う必要がある。スウォンジー・トムピオンの意義は、誰か一人の「世界初」を証明すること以上に、段付きカムから打数を得る初期の具体的方法を残している点にある。1 2

来歴・展示と現在の確認範囲#

ロビーは2005年、本作をベリー・セント・エドマンズのマナー・ハウス博物館への貸与品として記述した。2011年2月の解説では、ストックポート近郊のライム・パークに展示中としている。この二つは異なる時点の記録であり、どちらかをそのまま現在の常設展示の案内にすることはできない。1 2

現在の帰属を確認できるのは、ナショナル・トラストの収蔵番号NT 499791である。記録は本作を明示的にスウォンジー・トムピオンと呼び、マイケル・ヒュー・ヴィヴィアンが2007年6月に亡くなった際、ライム・パークで展示する目的で遺贈したとする。それ以前には他の五点とともに貸与されていたが、そのうち一点LYM.H.047は2017年6月15日に貸主へ返却されたという。本作の遺贈と、別の貸与品の返却は区別される。4

2026年11月の同記録でコレクションはライム(チェシャー)と確認できる。一方、展示室や公開日程、修復の施工日と交換部品を列挙した報告までは確認できない。収蔵記録は特定日の展示を保証せず、No.47の販売資料の展示年表を本作の履歴へ転用することもできない。3 4

年表#

年代本作と関連史料
1675年スミスの『Horological Dialogues』刊行。六打以下で時を示す時計を記述するが、本作との同一性は未確定。1
1675〜1680年頃本作の推定製作時期。シモンズは1675年頃、エヴァンスは1680年寄りとする。1
1676年頃デラムが後にバーローのリピーター発明に結び付けた時期。本作の完成年を直接示す記録ではない。1
1680年頃トムピオンのキャッスルメイン/チューリップ/サセックス系列に初期のラック式時打ち。スウォンジーとは異なる機構。1
1696年デラム『The Artificial Clock-maker』刊行。操作して時刻を聞く時計の発明を説明。1
時期未確定ヴィヴィアン家が旧蔵。取得年・譲渡年の連続した記録は未確認。2
1951年シモンズ『Thomas Tompion: His Life and Work』に掲載。ロビーが本作の先行文献として参照。1
2005年3月ロビーが機構の現物写真と作動図を公表。マナー・ハウス博物館への貸与を記載。1
2007年6月マイケル・ヒュー・ヴィヴィアンの死去に伴い、ライム・パークでの展示目的で遺贈。4
2011年2月ロビーの解説がライム・パークでの展示を記載。2
2026年11月公式記録でライムのコレクション、NT 499791と確認。特定日の展示と詳細な修復履歴は未確定。4

参考文献#

  1. John A. Robey, “Who Invented Rack-and-Snail Striking? The Early Development of Repeating and Rack Striking”, Antiquarian Horology, 2005年3月、pp.584–601。配布PDFは独立した1〜18頁表記。本作の現物観察・図1〜3はPDF2〜3頁、発明史は5〜8頁。シモンズ等は本論文を介した参照。閲覧日:2026年11月7日。

2. John Robey, “The Truth about Barlow”, Clocks, 2011年2月、pp.29–33。本作の旧蔵・展示、図4〜6、ラックを用いない機構の説明はpp.31–33。同著者の参考文献1に基づく解説であり、独立した第二の現物調査とは数えない。閲覧日:2026年11月7日。

3. Carter Marsh & Co., “The Vivian Tompion No.47, circa 1684”。No.47のケース番号、機構、来歴を掲載する取扱業者の作品記録。スウォンジー・トムピオンの現物記録としてではなく、別個体との識別に用いた。閲覧日:2026年11月7日。

4. National Trust Collections, “Table clock, NT 499791”。本作をSwansea Tompionと明記する公式個別収蔵記録。材料・形式・目覚まし・遺贈と貸与品の返却を参照。年代欄は1675、解説は1675年頃とする。閲覧日:2026年11月7日。

5. William Derham, “The Artificial Clock-maker”, London: James Knapton, 1696, pp.106–108(デジタル版PDF120〜122頁)、第9章。バーローとリピーター、トムピオンによる懐中時計製作の同時代に近い記述。本作を名指す資料ではない。閲覧日:2026年11月7日。

6. J. S. [John Smith], “Horological Dialogues”, London: Jonathan Edwin, 1675, pp.49–52(デジタル版PDF65〜68頁)。自動で時を繰り返す時計と、六打以下で時・鐘の数で四半時を伝える別方式の説明を区別。閲覧日:2026年11月7日。