ボールベアリング(玉軸受)は、二つの軌道の間に小さな球を置いて回転部分を支える軸受である。腕時計では自動巻きの重り、ローターを支える部分に使われる。腕の動きで重りが回ると、その回転が巻上げ機構を通じて主ゼンマイに伝わる。軸受はこの重りを保持し、回転しやすくする部品であり、巻上げ方向を切り替える歯車や時計の歩度を決めるテンプとは別の役割を持つ。12
スイスのエテルナが1948年に紹介したエテルナ・マティックは、五つの小球でローターを支える自動巻き時計として知られる。軸受にかかる摩擦と摩耗を減らすという課題に対する具体的な答えであり、その後の時計にも同じ考え方が用いられた。ただし、すべての自動巻き時計が同じ方式を使うわけではなく、軸受の良さだけで時計全体の精度や耐用年数が決まるわけでもない。13
回転を支える仕組み#
一般的な設計の一つでは、玉軸受は内側と外側の軌道、小球、それらを適切な間隔に保つ保持器からなる。軌道が相対的に回ると球はその間で転がり、軸と穴が直接滑る構造とは接触の仕方が変わる。ローターの重さを受け止めつつ、小さな腕の動きでも重りが動きやすいようにすることが狙いである。実際には球と軌道の接触、保持器の動き、潤滑などがあるため、転がりを「摩擦がゼロ」と理解してはいけない。13
回転の道筋は、腕の動きから偏心した重りの回転、巻上げ歯車、主ゼンマイの順である。ローターを両方向に回せることと、両方向の回転でゼンマイを巻けることは同じではない。後者には方向をそろえる別の伝達機構が必要になる。初期のエテルナ・マティックについては、専門誌が球を使ったローター支持と、別の両方向巻上げ用の爪車機構を区別して説明している。2
軸受は重いローターの荷重だけでなく、着用中の衝撃や姿勢の変化にもさらされる。従来の軸と穴による支持では、その接触面の摩耗や衝撃による損傷が課題だった。玉軸受も汚れ、潤滑状態、球と軌道の損傷や組立精度から自由ではない。支持方式の変更が、他の部品の保守を不要にするわけではない。23
玉ではなく円筒形のころを使う支持方式もある。時計師ヘンリー・フリードが解説したPhenix Rollamatic Cal. 200は、軸を取り囲む細い円筒ピンでローターを支える例である。球ところはどちらも転がりを利用するが、転動体の形と接触の仕方が異なる。9
エテルナ・マティックと小球の製作#
エテルナ自身の沿革は1948年の開発として、ローターの軸を回りやすくした玉軸受を挙げる。スイス歴史事典も同年に玉軸受ローターを備えるエテルナ・マティックが発売されたと記している。8専門誌WatchTimeは、技術者ハインリヒ・シュタムがローター支持の問題に取り組んだと説明している。初期の小球は五つで、同誌は直径約0.65ミリメートルと記し、細かな保持器で間隔を保つ構造を紹介している。五つの球は後にエテルナのシンボルにもなった。13
この大きさでは球の寸法、球面、軌道と保持器の仕上げが組立と回転に影響する。球を小さくすれば時計に収めやすい一方、その接触や隙間を適切に保つ製造が必要になる。エテルナの例を一般のすべての玉軸受に当てはめることはできず、球数や材料は設計によって異なる。3
時計資料には特許への言及がある。WatchTimeは1949年9月28日付の特許文書から五球の構造を紹介するが、該当する公報の原本と番号は確認できていない。そのため、具体的な請求範囲や権利の始期・終了時期はここでは断定しない。エテルナの別の1945年出願・1949年公開の公報CH259165Aは振動錘の衝撃緩和を扱うが、それを五球軸受そのものの特許と同一視することはできない。34
初期モデルから別の用途へ#
初期の小型系列について、時計資料サイトGrail Watchは1948年のCal. 1199、これに続くCal. 1198を挙げる。一方、時計修理家の解説は1948年の例としてCal. 1194を挙げている。両資料だけでは最初に市場に出た型番を確定できないが、女性用の小型機械に採用されたことと、1940年代末に大型機械へ展開したことは重要である。修理家の解説は1949年からのCal. 1247系について、ローターや耐震装置の仕様に複数の変種があったことも示す。1955年のニュージーランド向け広告には男性用1249と女性用1194が掲載されており、この時点での販売例を確認できるが、それだけで各型の初出年は決まらない。5610
玉軸受の応用はローターだけに限られない。2012年の時計専門誌は、エテルナのSpherodriveで香箱を直径0.3ミリメートルのセラミック球で支持する構造を紹介した。香箱は主ゼンマイを収めるエネルギーの貯蔵部であり、着用者の動きを受けるローターとは別の部品である。この記事は摩擦低減や動力伝達の改善をうたうが、それらはこの設計についての説明であり、すべての時計で同じ性能差が得られるとの比較試験ではない。7
材料にも違いがある。WatchTimeは初期の鋼球に加え、カルティエのCal. 1904-PS MCをセラミックのローター軸受の例として挙げる。材料が変わっても潤滑の要否やサービス方法は個々の機械の仕様で判断する必要がある。玉軸受は摩擦を減らす一つの方法であって、精度、静粛性、耐衝撃性を一律に保証するものではない。3
年表#
- 1945年:エテルナが自動巻き時計の振動錘の衝撃緩和に関する公報CH259165Aを出願。玉軸受そのものとは別の対象である。4
- 1948年:エテルナが玉軸受でローターを支持するエテルナ・マティックを紹介したと、同社と後年の専門資料が記す。12
- 1949年から1953年:修理家の資料によれば、より大きなCal. 1247系が複数の仕様で製作された。6
- 2012年:専門誌がSpherodriveの香箱支持とセラミック球を紹介。7
- 2013年:WatchTimeが鋼球の歴史と、カルティエのセラミック球を用いたローター軸受の例を紹介。3
参考文献#
1. Eterna, The Brand, 1948年の節、2026年10月28日閲覧。
2. Zeitschreiber, Eterna-Matic, 8ページ、2026年10月28日閲覧。
3. WatchTime, Werkstoffe und Materialien mechanischer Uhren: Kugellager, 2013年9月5日、2026年10月28日閲覧。
4. Uhrenfabrik Eterna AG, CH259165A: Shock absorbers for the oscillating mass in watches with automatic winding, 1945年出願、1949年公開、2026年10月28日閲覧。
5. Grail Watch, Eterna-Matic Family, 2023年12月10日更新、2026年10月28日閲覧。
6. Mitka’s Vintage Watch Service, Eterna calibre 1247–1249, 2026年10月28日閲覧。
7. Uhren von A bis Z, Eterna, das Erwachen aus dem Dornröschenschlaf, 2012–2013年版、30ページ、2026年10月28日閲覧。
8. German Vogt, Eterna, Historisches Lexikon der Schweiz, 2004年11月5日、2026年10月28日閲覧。
9. Henry B. Fried, Self-Winding Watches: The Use of Roller Bearings, Part I, Horological Times, 1989年11月、26–28ページ、2026年10月28日閲覧。
10. Eterna-Matic 広告, New Zealand Listener, 1955年8月26日、2ページ、広告1。Papers Past、2026年10月28日閲覧。