連続運動式ルモントワール

連続運動式ルモントワール

振り子で時を刻み、輪列を滑らかに回す#

連続運動式ルモントワール(continuous-motion remontoire、仏 remontoir à mouvement continu)は、振り子で調速する時計の間欠的な動きと、望遠鏡や記録胴を回す連続的な動きを両立させる機構である。1851年ロンドン万国博覧会でパリのワグナーが出品した方式では、重力で脱進機を駆動する中間機構と、空気抵抗で輪列の速度を制御するファンを組み合わせた。1 2

通常の振り子時計では、脱進機が歯車を止め、一定の拍ごとに少し進ませる。文字盤を読むには都合がよくても、天体を視野に保つため望遠鏡を回す場合や、短い時間差を紙面上の距離へ変換する記録装置では、停止と急進が問題になる。ワグナー式は振り子を回転運動へ置き換えるのではなく、振り子を時間の基準として残し、動力側の輪列だけを連続的に回す解決だった。1 3

ここでいう連続性は、脱進機の歯が一切止まらないことでも、瞬間速度の変動が完全にゼロであることでもない。連続側の平均速度を、振り子が決める間欠側の進みに追従させるという意味である。主ゼンマイの自動巻きや、腕時計を回転させるワインダーとは異なる。

1851年の展示と製作者の同定#

審査報告が示す出品者#

1852年刊行の公式審査報告は、ワグナーの塔時計群にCouncil Medalを授与し、とりわけ赤道儀式望遠鏡を星へ向け続けるための連続運動時計を評価したと記す。授賞一覧にはフランス出品番号736、「Wagner, J. (Nephew)」、授賞対象に連続運動式ルモントワールと塔時計群が並ぶ。フランス側のセギエ報告も「J. Wagner, neveu」と記す。本方式の製作者を述べる際には、この出品者表記を基準にできる。1 2

同じ出品群には、30秒ごとに解除するかさ歯車式ルモントワールや、車輪を揺動枠へ載せる別構成も含まれていた。「ワグナー式ルモントワール」という呼び名だけで、すべてを連続運動式と判断することはできない。連続式を識別する要点は、間欠的な解除爪の代わりに、筒状の覆いと連続回転するファンが輪列速度を調整することにある。1 4

二つの報告の関係#

公式英語報告の主筆E. B. Denisonは、後のEdmund Beckett、Lord Grimthorpeと同一人物である。したがって、公式報告と1903年版のベケットの著書は、年代と説明の変化を比べられるが、別人による独立した二つの証言とは数えられない。フランス語報告のBaron Séguierも同じ審査団の副委員長であり、別著者の詳しい記述ながら、博覧会の共通した審査活動を背景に持つ。1 2 4

これらは少なくとも1851年に実機が展示された根拠となる。一方、製作者の最初の着想日、特許出願日、特定天文台での運用開始日までを一括して確定する資料ではない。

重力と差動歯車の役割#

ワグナー式のかさ歯車、つり下げ覆い、ファンと滑車を描いた1857年の原書図2

図1:デニソン『Clocks and Locks』第2版(1857)p.12、図2を含む原頁。Gは覆い、Fはファン、T・R・Sはかさ歯車。著者:Edmund Beckett Denison(1816–1905)、図版作図者・彫版者は記載なし。出典:National Library of Scotland所蔵原本。原図はPublic Domain(1857年公表、著者没後100年以上経過。作者不詳図版も公表後の保護期間経過)。デジタル複製については同館の権利方針とCC0 1.0による。変更:PDF原頁をPNG化、色調変更・トリミングなし。

二つの回転を中間車でつなぐ#

デニソンの1857年の説明では、動力側の車輪Tと脱進車側の車輪Sは同じ軸線上にありながら、互いに固定されていない。その間を三枚のかさ歯車T・R・Sで結び、中間車Rを載せるレバーVWが支点Vの周りで上下できる。レバー端Wには二本の線で軽い金属製の覆いをつり、反対側の釣合いおもりCで有効な荷重を調整する。3

かさ歯車とは、円錐状の面に歯を設けて異なる方向の軸間で運動を伝える歯車である。この構成では、中間車が自分の軸の周りに回るだけでなく、その軸自体の位置も動ける。結果として、片側が振り子の拍ごとに進み、もう片側がその間も回ることを許し、両側の進みの差がレバーの位置に現れる。現在の言葉では差動機構として理解できるが、自動車用差動装置の図をそのまま当てはめるべきではない。3

重力で下がろうとするレバー側の荷重は、脱進車側を駆動する。主動力側は反対側から中間機構を持ち上げ直す。一般的な重力式ルモントワールが「下がる、止まる、持ち上げる」を目立つ周期で繰り返すのに対し、連続式は持上げと下降の平均的な釣合いを保つ。セギエは、覆いがほぼ同じ高さに留まりながら、その重さで振り子の運動を維持する点を強調している。2 3

「留まる」は各拍の微小な動きまでなくす意味ではない。また重力荷重が一定でも、レバーの姿勢、歯面や軸の摩擦、脱進機での損失があるため、振り子への一回ごとの衝撃まで厳密な定力になるとは限らない。輪列中のルモントワールと、振り子へ直接給力する重力脱進機は区別が必要である。4

エネルギーと制御の経路#

部分主な働き間違えやすい点
主動力と連続側輪列望遠鏡・記録胴・ファンを駆動し、中間機構を持ち上げるファン自身がエネルギーを生み出すわけではない
レバー・かさ歯車・有効荷重脱進機へ重力による給力を行い、両側の進みの差を位置に変える連続側と脱進機側は剛体として直結されていない
振り子と脱進機時間の基準を与え、間欠側の進む速さを決める連続式でも振り子は往復し、脱進車は間欠的に進む
ファンと上下する覆い空気抵抗を変えて連続側の速さを調整する覆いを深くかぶせるほど減速する、という直感は逆になる

この表は1857年の図2と1903年版の図47・本文から役割を整理したものであり、個々の歯数や実機寸法を再現する製作図ではない。3 4

空気抵抗を使った負帰還#

覆うほどファンが速くなる理由#

ファンは独立した軸で水平に回り、動力側の大きな滑車から小さな滑車へ運動を伝えられる。その上に底のない筒状の覆いがかぶさる。1903年版はこれをtin drum、1857年版は軽いtin製のgongに似たものと説明している。形は鐘のようでも、ここでは打ち鳴らす鐘ではなく、風切り車を覆い、かつ荷重となる部品である。3 4

覆いが低くなり、ファンを深く包むと、内部の空気は羽根とともに回りやすくなる。外の新しい空気を次々に動かす仕事が減り、ファンは速く回れる。覆いが持ち上がると、ファンは外気に多くさらされ、空気を動かす抵抗が増して遅くなる。セギエはこの空気の入替わりによって動作を説明し、デニソンの1857年版も内部空気がファンと共に旋回することを明記している。2 3

速すぎる場合、遅すぎる場合#

連続側の状態レバーと覆いファンの状態補正の向き
振り子側の平均より速い持ち上がる外気にさらされる面が増え、抵抗が増す連続側を減速
振り子側の平均より遅い下がるより深く覆われ、内部空気が共回りしやすい連続側を加速
平均速度が対応する平均高さを保つ必要な抵抗で回る持上げと下降が釣り合う

これが負帰還である。速さのずれが部品の位置を変え、その位置がずれを打ち消す方向へ空気抵抗を変える。単に慣性の大きな回転体を付けて急進を和らげる方式より、時間の基準へ戻るための経路が明確である。1 2 3

ただし、一定の大きさまでの負荷変化を補正できることと、任意の負荷を駆動できることは別である。覆いの移動範囲やファンの抵抗調整には限りがある。主動力が不足すれば覆いを下げても必要な速さを回復できず、過大なら上げても抑え切れない。この制約は構造から読み取れる工学的帰結であり、現存実機で許容荷重を測定した数値ではない。

観測装置に必要だった連続性#

望遠鏡の追尾#

公式報告は、星へ望遠鏡を向け続ける赤道儀駆動を本方式の用途として挙げる。一方、セギエは、この種の機構を望遠鏡へ適用すれば観測が容易になるという将来形で説明する。この二つから、用途の明確な提案と展示機の作動は確認できるが、特定の大型望遠鏡にすでに搭載されていたとは断定できない。1 2

観測で問題になるのは、長時間の平均歩度だけではない。星像を細い線に合わせる場合には、短い周期の揺れや急進も支障になる。そこで往復振り子の時間基準と、回転体が必要とする滑らかな速度とを分けて設計する意味がある。ベケットは関連方式を論じる際、大型望遠鏡に分光装置を取り付けた場合の駆動も課題として挙げている。4

1秒より細かく時刻を記録する#

公式審査報告には、ワグナーが連続回転する縦長の円筒を用い、アトウッドの装置のように重力を測る実演をした説明がある。円筒は1秒に1回転し、その脇の溝に沿ってインクを付けた刷毛を伴う重錘が自由に落下し、表面へ曲線を描いた。時間に対応する回転方向の距離と、落下による高さの変化を同じ面に記録する実験である。1

この「1秒1回転」は展示された記録装置の回転速度であって、あらゆるワグナー式に共通する周期でも、測定誤差が1秒という意味でもない。1903年版が秒未満の観測時刻の記録に言及しても、それだけでミリ秒精度の計測が実証されたことにはならない。紙面の目盛、筆記装置の遅れ、回転速度の短周期変動などは別に検証する必要がある。1 4

セギエの別の実演記録では、ワグナーが一時的に振り子を止め、連続側と脱進機側で駆動する二組の針にずれを生じさせた後、再び振り子を動かすと針が一致したという。これは機構が両側の進みを関係付けていたことを示す同時代の観察だが、停止時間・回復時間・誤差曲線を伴う試験報告ではない。2

材料・加工・調整と限界#

原書が明記する部材には、かさ歯車、支点を持つレバー、釣合いおもり、二本のつり線、軽いtin製の覆い、滑車、ファンがある。しかし、この名称から錫単体の板なのか、どの規格の薄板なのかまで確定することはできない。歯車の合金、軸径、公差、潤滑剤の銘柄も、ここで用いた原資料は製作仕様として与えていない。3 4

機構を評価・復元する際には、少なくとも次の関係を一緒に確認する必要がある。以下は原理に基づく点検項目であり、特定の収蔵品に施された修復記録ではない。

  • かさ歯車と支点が軽く動き、レバーの上下を歯のかみ合いや軸摩擦が妨げないこと。
  • 釣合いおもりの設定が、脱進機を維持する荷重と、覆いの可動範囲の両方に適合すること。
  • ファンと覆いが接触せず、つり線の傾きや振動が空隙を不安定にしないこと。
  • 滑車の伝達が滑らかで、対象負荷を加えても上下両方向に補正の余地があること。
  • 平均歩度と出力の瞬間的な回転むらを別々に測り、負荷変更後の回復も確認すること。

空気抵抗に依存する以上、覆いの形・隙間・ファンの形や設置環境を無視して性能を一般化できない。摩擦を減らせば自動的に最良になるとも限らず、必要な制動と、位置変化に対する応答を保つ調整が要る。本稿で確認した同時代資料には定量的な歩度・効率・耐久試験が示されていないため、現代の定力機構より高精度、無潤滑、保守不要といった評価を付ける根拠はない。

関連方式と、その後の評価#

ベケットはワグナー式に続けて、de la RueとCookeが同時に到達したとする別案を説明する。そこでは、一方を往復振り子、他方を円錐振り子またはファンで調速する二つの輪列をかさ歯車で結び、中間車の軸を一定荷重の代わりにばねで支える。振り子側が止まる間も、ばねの変位を許して望遠鏡側を進ませ、速さのずれに応じて力を変える。空気を覆いで調整するワグナー式と、弾性結合を利用する案の相違は明確である。4

同書はR. F. Bondの、同軸の二車を渦巻きばねでつなぐさらに単純な案も挙げる。ただしCookeの否定的評価と、観測者Dawesの好意的な証言を並べ、より大型で負荷の大きい用途には別の工夫が求められたことを伝える。これらをすべてワグナー式の採用例として数えることはできない。4

普及への評価も一様ではない。1857年のデニソンはワグナー式を高く評価しつつ、英国ではあまり知られていないと書いた。『ブリタニカ百科事典』第9版「Clocks」は、ワグナーの複雑な案は実用されるに至らなかったようだとして詳説を省いた。他方、1903年版の著書は1851年の実演を肯定的に回想し、なぜもっと複雑な案が使われるのかと疑問を示す。3 4 5

後世の記述を一つに丸めて「広く普及した」「完全に失敗した」とするのは適切でない。展示の成功、設計への評価、天文台の継続運用、製造台数は別の事柄である。確認できる意義は、振り子の時間基準、重力による給力、連続出力、空気抵抗の自己調整を一つの機械に結び付けた点にある。

年表#

年・時期確認できる出来事資料上の範囲
1851年ロンドン万国博覧会で連続運動式を展示。塔時計群とともにCouncil Medalの対象となる出品者はJ. Wagner (Nephew)。望遠鏡用途の提案、回転円筒等の実演
1852年英語の公式審査報告を刊行p.335の原理・実演、p.338の受賞者一覧
1855年フランス委員会報告の該当巻を刊行セギエ「Horlogerie」pp.9–11の空気抵抗と復帰実演、p.60の授賞記録
1857年デニソン『Clocks and Locks』第2版pp.12–14、図2による部品構成と制御の説明
1878年『ブリタニカ百科事典』第9版「Clocks」ワグナー案の普及について消極的に評価。実機台数の調査ではない
1903年ベケットの時計・時計塔・鐘の著書第8版主に1883年第7版の再刊。pp.162–165で方式と関連案を説明

年表は1〜5による。2026年11月の調査では、本方式に確実に対応する特許原公報、現存展示機の収蔵番号、現代製品への直接採用を確定できていない。この未確認を、資料や実物の不存在と読み替えることはできない。

参考文献#

閲覧日はいずれも2026年11月7日。古い刊行物の本文と、現代の配布・翻刻を区別した。

  1. E. B. Denisonほか、Reports by the Juries on the Subjects in the Thirty Classes into Which the Exhibition Was Divided — Class Xb, Report on Horological Instruments、London, 1852、pp.335,338。ETH-Bibliothek Zürich所蔵、e-rara公開。審査団による原報告。
  2. Baron Séguier、Horlogerie、1851年博覧会フランス側報告、pp.9–11,60。Getty Research Institute所蔵冊子のInternet Archive/Commons公開。該当報告を収めた巻の刊年1855はCNAMの書誌記録による。原冊子には標題・刊年の独立した扉がない。
  3. Edmund Beckett Denison、Clocks and Locks, from the Encyclopaedia Britannica、第2版、Adam and Charles Black, Edinburgh, 1857、pp.12–14、図2。National Library of Scotland公開原本。
  4. Edmund Beckett, Lord Grimthorpe、A Rudimentary Treatise on Clocks, Watches & Bells for Public Purposes、第8版1903年、主に1883年第7版の再刊、pp.162–165、図47。2019年SNGLRTY前書き付き電子配布版。
  5. Encyclopædia Britannica, Ninth Edition — Clocks、第6巻、Charles Scribner’s Sons, New York, 1878、p.15左欄末尾。Wikisource翻刻とCommons所収原頁画像を照合。転記で落ちた「into use」は原頁で確認した。