フュジー機構とは何か#
フュジー機構(fusée、鎖引き装置とも)は、ゼンマイ式時計において主ゼンマイの力の不均一さを補償し、一定のトルクを歯車系に伝達するための円錐形プーリーと鎖から成る機構です12。主ゼンマイを完全に巻き上げた直後は強い駆動力が得られますが、ゼンマイが解けるにつれて徐々に駆動トルクが低下し、これにより時計の精度が狂う問題(非等時性)が生じます3。フュジー機構では、主ゼンマイの香箱(バレル)と円錐形のフュジー(均力車)を細い鎖(初期にはガット紐、後に金属鎖)で繋ぎ、ゼンマイの巻き締まり具合によって鎖がフュジー上の太い部分から細い部分へと掛かる半径を変化させます42。ゼンマイ全巻きの状態では鎖はフュジーの細い上端に巻き付き、強力なゼンマイの力が小さい半径で伝達されるためトルクが減殺されます。ゼンマイが解けて力が弱まるにつれて鎖はフュジーの太い下端へ移動し、弱まったゼンマイ力でも大きな半径で作用して十分な回転力を確保できます5。この仕組みにより、ゼンマイが巻き上げ直後でも終端近くでもほぼ一定のトルクが歯車系に供給され、時計の歩度安定に寄与します12。時計史研究家G.H.ベイリーはフュジー機構について「おそらく機械学上の問題でこれほど簡潔かつ完璧に解決されたものは他にない」と評しています6。
【図1】主ゼンマイ香箱(左)とフュジー(右)を内部に備えた古典時計のムーブメント7
図中右側の円錐形部品がフュジーであり、螺旋状の溝に細い鎖が巻き付けられている。左側の円筒が主ゼンマイの収まる香箱(バレル)で、鎖は香箱とフュジーを繋いでいる。ゼンマイがほどけるにつれ鎖はフュジーの太い方へ移動し、弱まるゼンマイの力をテコの原理で補償する45。
発明の経緯と歴史#
起源と発明者#
フュジー機構の正確な発明者は不明ですが、その着想は15世紀初頭には既に現れていました。多くの場合、プラハの時計技師ヤコブ・ツェッヒ(Jacob Zech)が1525年頃に考案したとされますが、それ以前に遡る証拠も存在します8。主ゼンマイを動力とする最初期の時計(15世紀)にはすでにフュジーに似た機構が取り入れられており、現存する最古のゼンマイ式時計「ブルゴーニュ公の時計」(1430年頃)にもフュジーが確認されています9。時計師以外の分野でも類似の概念が見られ、例えば1405年の軍事写本にはクロスボウの巻上機構としてフュジー様の円錐歯車が描かれています10。また、ルネサンス期の技術者フィリッポ・ブルネレスキやレオナルド・ダ・ヴィンチもフュジー機構を図面に残しており、ダ・ヴィンチの有名な手稿(1490年頃)にフュジーと鎖の描画が認められます1112。以上のことから、フュジー機構は15世紀半ばまでに複数の地域・分野で着想され、徐々に時計に取り入れられていったものと考えられます。ツェッヒの1525年製作とされる置時計は最も古い日付入りのフュジー時計ですが、それ以前から存在したフュジー機構がこの時期に広まり始めたと言えるでしょう8。
ルネサンスから17世紀:普及と改良#
15~16世紀にかけて携帯式時計(いわゆる懐中時計や携帯用置時計)が出現すると、重力による定力が得られるおもり式に代わりゼンマイばねによる動力が用いられました13。しかし初期の厚い鋼製ゼンマイは巻き上げ直後と末期でトルク差が大きく、当時主流だったヴァージ脱進機(糸巻き型脱進機)は駆動力の変化に敏感であったため、時計の精度は著しく不安定でした14。この問題に対応するため、16世紀初頭には2つの解決策が登場します。一つはドイツで考案されたスタックフリード(Stackfreed)と呼ばれる摩擦カムによる補償機構、もう一つがフュジー機構です15。スタックフリードは追加の摩擦を利用する粗削りな方法で、効果は限定的な上に部品摩耗が早かったため1世紀足らずで廃れました15。一方、フュジー機構は構造がやや複雑ながら摩擦損失が少なく持続的効果が得られたため優れた解決策とみなされ、以降のゼンマイ式時計に広く採用されることになります15。
17世紀までにフュジー機構は携帯時計の標準装備となり、時計師たちは経験的にフュジーの最適形状を模索しました。その結果、フュジーのテーパー形状は単なる直線円錐ではなく、ゼンマイのトルク低下曲線に見合った双曲線的プロファイル(双曲面体)になることが突き止められました16。初期のフュジーは非常に背が高く細長い形状でしたが、後により背の低い凝縮された形状へと改良されています16。この形状最適化により、巻き上げ初期から末期まで歯車列に伝わるトルク変動が最小化され、時計の等時性が大きく向上しました。実際、近年の解析によればフュジーの理想断面曲線は双曲線の一部となることが数学的に裏付けられています17。
さらに、フュジー機構の部品素材にも改良が加えられました。初期のフュジーでは鎖の代わりに猫腸などの腱(ガット)紐が用いられましたが、耐久性に難がありました。17世紀中頃になると金属製の極細チェーンが導入され、鎖の切損リスクや伸びを低減しています(例えばジュネーブの時計師Gruetが1664年にフュジー用鎖を採用したと伝わります)18。1540年頃にも既に鎖の使用例が記録されていますが、本格的に鎖引きチェーンが普及したのは1650年代以降でした18。鎖に適したフュジー溝は断面が矩形で、ガット紐用の丸断面溝とは区別されます18。チェーン製造は極小のリンクを多数繋ぐ精緻な作業で、部品点数も増えるため時計の価格やメンテナンス性には影響しましたが、それでも得られる精度向上の価値が高いことから長らく標準機構として受け入れられました1920。
17世紀半ばには他の革新的技術も登場します。ホイゲンスによる振り子時計(1657年)およびひげゼンマイ(1675年)の発明によって、時計の調速機構そのものが調和振動子(振り子やテンプ+ひげゼンマイ)となり、多少の駆動力変動に対しても歩度が安定しやすくなりました21。特に振り子式の定置型時計では駆動力の影響が小さくなったため、1670年発明のアンカー脱進機を備えた振り子時計ではフュジーを省略する例も見られます22。一方、携帯式の懐中時計では姿勢差の影響で振り子は使えず、依然としてヴァージ脱進機が主流だったため、18世紀前半まではフュジー機構が不可欠な存在でした23。
1720年代には、イギリスのジョン・ハリソンがフュジー機構に画期的な改良を加えました。1726年頃、ハリソンはフュジーの内部に「維持装置(メンテイニングパワー)」と呼ばれる補助ゼンマイを組み込み、ゼンマイの巻上げ中にも時計が停止しない“ゴーイング・フュジー”を実現したのです24。巻上げ作業中は通常フュジーが逆回転するため時計が一時止まってしまいますが、ハリソンのH-2以降のクロノメーターでは遊星歯車を用いた維持機構によって巻上げ中も駆動力が途切れませんでした2526。この改良は航海用クロノメーターの安定稼働に不可欠であり、以後の高精度時計に広く採用されています24。ハリソンの工夫に見られるように、18世紀前半にはより高度な定力化・高精度化が追求され、フュジー機構は時計技術の「聖杯」の一つとして大いに研究開発の対象となっていました。実際、フランスの数学者ピエール・ヴァリニョンは1700年前後にフュジーの最適形状を微分方程式で導出する研究を発表しており、当時の科学者・技術者が航海用携帯時計の精度向上(経度測定問題の克服)の観点からフュジー形状問題に熱心に取り組んでいたことが窺われます27。
18~19世紀:技術革新とフュジー機構の廃れ#
18世紀後半になると、時計の精度向上と小型化の要請からフュジー機構を省略する設計が試みられるようになります。1760年、フランスの時計師ジャン=アントワーヌ・レピーヌは「ゴーイング・バレル(直動香箱)」方式を考案し、長くて柔軟性の高い主ゼンマイを用いることでゼンマイの巻き始めと終わりを使用せず中間部分だけで駆動させ、トルク変動を自然に抑えることに成功しました2829。レピーヌ式薄型時計ではフュジーが不要となり、大幅な薄型化と部品点数削減が実現します。18世紀後半にはフランスを中心にこのゴーイング・バレルとシリンダー脱進機の組合せが広まり、懐中時計から次第にフュジーが姿を消していきました3031。一方、当時もなおイギリスなどでは堅牢性を重視して古典的なフュジー+ヴァージ脱進機の構成が廉価品に残存し、一部の19世紀英国製懐中時計(いわゆる「蕪時計」)では1900年頃までフュジー機構が使われ続けました3233。しかしながら、19世紀中期までにスイスやアメリカの量産時計産業はすべてフュジーなしの直動香箱方式へ移行しており、素材工学の進歩によるヒゲゼンマイの温度補償・等時性改善なども相まって、フュジーは次第に時代遅れの機構となっていきました3234。
19世紀以降の技術革新もフュジー機構の不要化を後押ししました。主ゼンマイ材料としては従来の高炭素鋼に替えてコバルト合金製の“白合金”(Nivaflexなど)が1930~50年代に登場し、錆びにくく粘り強いゼンマイが実現します34。これら新素材のゼンマイは従来より安定した弾性を持ち、「切れないゼンマイ」として定期交換の頻度を減らしつつトルク特性の平坦化にも寄与しました34。さらに20世紀にはゼンマイの利用範囲を中間部に限定するジュネーブ・ストップワーク(角穴止め)も標準化され、香箱に直接組み込まれた歯止め機構によってゼンマイの両端部分を使わず均一な出力のみを取り出す工夫も行われました35。このストップワークはフュジーと同様の効果を発揮しつつ部品点数やスペースを大幅に削減できるため、複雑なフュジー機構に取って代わる存在となりました36。以上の改良によって一般的な腕時計ではフュジーなしでも十分な精度が確保できるようになり、20世紀初頭までにフュジー機構は高精度を要する一部の懐中クロノメーターや海軍の航海用時計を除き、ほとんど姿を消したのです37。
しかし唯一の例外として、**航海用クロノメーター(マリンクロノメーター)**では20世紀中頃までフュジー機構が使われ続けました3337。船舶で使用する高精度時計は地磁気や温度変化、姿勢差の影響を極力抑える必要があり、ゼンマイ駆動力の安定も不可欠でした。大型で厚みが許容される船舶クロノメーターではフュジー機構のデメリット(嵩張りや調整の手間)は問題とならず、むしろその高精度が最優先されたためです3837。有名なジョン・ハリソンのH4以降、19~20世紀の歴史的クロノメーター(例えばイギリスの登山家マロリーが携えたものや、第二次大戦期の各国海軍の甲板天文時計)には例外なくフュジーと鎖が組み込まれていました。これらは1970年代にクォーツ式時計が実用化されるまで航海の安全を支え、フュジー機構は約500年にわたり精密時計の要として機能したことになります3940。
技術的特徴と発明の効果#
トルク一定化の原理と構造#
フュジー機構は一種の連続可変変速機構とも言えます41。自動車の変速機がエンジン出力と車輪回転を適切な比率に調整するように、フュジーはゼンマイばねの出力トルクと時計の歯車系を繋ぐ歯車比を刻々と変化させます41。具体的には、円錐形のフュジーに刻まれた螺旋溝に鎖を巻き取り、そのもう一方の端を主ゼンマイの香箱に巻き付けます。ゼンマイ全巻きの際には鎖はフュジー頂部の半径の小さい部分に掛かり、強いゼンマイトルクが小さな半径で作用するため出力軸(フュジー軸)には小さな回転力しか伝わりません42。時計が動作してゼンマイが解けるにつれて鎖は徐々にフュジー下方の太い部分へ移動し、ゼンマイの弱まった力が今度は大きな半径で作用するため出力軸へのトルクは逆に増幅されます43。フュジーのテーパー角度と鎖巻き取りの形状は、ゼンマイのトルク低下特性に合わせて設計されており、その結果出力トルクτが常に一定(τ=一定)となるような曲線形状が実現されています16。理想的にはフュジー曲線は双曲線を描きますが、実用上は円錐に近い形状で十分な効果が得られます1617。このようにしてフュジー機構はゼンマイの不等出力を機械的に補償し、時計の調速機構(テンプや振り子)が安定した条件下で振動できるようにします。結果として時計の**等時性(isochronism)**が大幅に改善し、ゼンマイ動力時計の実用化を支えたのです114。実際、フュジー導入以前の初期携帯時計は一日に数十分もの誤差を生じましたが、フュジー機構を備えた17~18世紀の高級時計は日差数秒~十数秒台にまで精度が向上した記録があります。この発明による効果は計り知れず、携帯可能な高精度時計(クロノメーター)の誕生へ繋がりました。
フュジー機構は香箱と組み合わさって機能するため、その巻上操作も独特です。フュジー式時計では、ゼンマイを巻き上げるときに歯車列と香箱を直接巻き上げるのではなく、フュジー軸を鍵や竜頭で回して鎖を香箱からフュジー側へ巻き取ります2544。その際、通常はフュジーが逆方向に回転するため時計の動きが一時止まってしまいます。この問題を解決するのが前述の**維持装置(ゴーイング・フュジー)**で、フュジー内部の遊星歯車と小さな補助ゼンマイによって巻上げ中も一時的にテンプへ駆動を続けることができます2526。18世紀以降の精密時計ではこの維持装置付きフュジーが標準となり、巻上げ中の歩度狂いも克服されました。
また、フュジー機構には過巻き防止も組み込まれることが一般的です。フュジー上端まで鎖が巻き上がった時にそれ以上巻けないようストップワーク(止め金)が働き、鎖の切断やゼンマイ破損を防止します45。逆に香箱側もゼンマイが完全に解けきる前に鎖が掛からなくなる構造で、ゼンマイの最終巻き切りを避けています(これも一種のストップワークです)。さらに、希少な例ですがフュジーを両方向に巻き上げ可能にした「ドランクン(酔っ払い)・フュジー」という特殊機構も考案されました46。18世紀の名工ジョン・アーノルドが一部クロノメーターに試用しましたが一般化せず、通常は巻方向は一定です46。
形状設計と精密加工技術#
フュジーの形状は上述の通りゼンマイの力の変化に合わせて最適化されています。解析的には双曲線回転体となりますが、時計技師たちは経験則で適切なテーパー角を割り出していました16。Pierre Varignonら18世紀の数学者は微分積分学を駆使してフュジー曲線を理論導出しようと試み、その研究は当時の最先端科学の一端を成したほどです27。今日ではコンピュータ解析によりフュジー曲線を精密に計算でき、Palmaccio (2018) の研究は実測データからフュジー曲線が見事に双曲線弧を描くことを示しています17。この数学的美もフュジー機構の魅力と言えるでしょう。
製造面では、フュジーと鎖の精密加工は当時の最高水準の技能を要しました。フュジー円錐には均一ピッチで溝を刻む必要があり、歯車としての歯も底部に持つため、工作精度が時計全体の精度に直結します。また鎖はわずか数センチの長さに数百個もの極小リンクを繋いで作られました。例えばA.ランゲ&ゾーネ社の現代的なフュジー鎖は636個もの部品から構成されます(チェーン駒とピン)47。こうした鎖は18~19世紀には熟練工が手作業で組み立てており、その強度・均一性確保は難題でした。しかし高精度な鎖ほどフリクション損失が減り時計の歩度が安定するため、各メーカーが競って質の高い鎖を製造した経緯があります。鎖の材質は当初鉄や真鍮でしたが、後に焼入れ鋼や特殊鋼が用いられ、現代ではさらに耐食性の高い合金やコーティング技術も利用されます。摩擦と摩耗の低減はフュジー機構の寿命と性能に重要であり、現代では鎖のピボットに人工宝石を組み込むことで潤滑・摩耗対策を施した例もあります48。ローマン・ゴーティエ社の「ロジカルワン(Logical One)」では鎖の各リンクにルビー製ベアリングを組み込み、さらに香箱内部にもサファイア製ライナーを敷くことで鎖の曲がり摩擦を抑えています48。このように材料工学・表面処理技術の進歩によって、フュジー機構は従来以上に滑らかな動作と長期耐久性を実現しています。フュジーの製造自体も現在ではCNC工作機械やMEMS技術で微細加工することが可能になっており、極小の腕時計用ムーブメントや実験的なマイクロ機械にフュジー機構を適用する研究も将来的には考えられるでしょう。
発明の成果と限界#
フュジー機構の発明によってもたらされた最大の効果は、可搬型時計の精度向上と信頼性確保でした。重力に頼らないばね動力で高精度を維持することは15世紀以来の課題でしたが、フュジー機構はその難題を優雅に解決しました6。これにより16世紀以降、懐中時計や携帯式天文時計が実用的な時間精度を持つようになり、時間計測の場が室内から野外や航海上にまで拡大します。とりわけ航海緯度の測定や天測航法には精密な携帯クロノメーターが不可欠であり、フュジー機構の存在なくして18~19世紀の“大航海時代後期の経度求解”は実現困難だったと言えます27。フュジー機構搭載クロノメーターの登場により、船乗りは天候に関係なく正確な時刻から経度を算出できるようになり、これは技術史上の画期でした。
一方でフュジー機構にはデメリットや限界もありました。まず構造上どうしてもムーブメント全体が厚く嵩張ってしまい、薄型化が求められるファッション性とは相容れませんでした49。18~19世紀にフュジー付き懐中時計が「野暮ったい」と敬遠される一因でもあり、後継技術への置換を早めた面があります。また整備性の問題として、主ゼンマイを交換するたびにフュジーと鎖の適合を調整し直す必要がありました50。ゼンマイの特性が個体差や経年で変化するため、フュジー曲線とのマッチングを再調整しなければ等力条件が崩れてしまうのです51。加えて破損時のリスクもあり、鎖がもし切れると解放されたゼンマイの力で鎖の端が内部で暴れ、他の部品を損傷させる事故が起こり得ました52。実際その危険を避けるため、フュジー式時計では鎖への過大な力がかからないよう注意深い使用が求められました。
19世紀後半以降の改良発明(ゴーイングバレルや新素材)によってフュジー機構は一旦は脇役となりましたが、その功績は現在でも高く評価されています。特に「簡素な機械構造で非線形問題を解決した」点は、機械技術史において特筆に値します6。フュジー機構は複雑なカムやセンサーを使わず純粋な幾何学だけで定トルクを実現しており、エネルギー変換機構として理想的な優美さを備えています。これは現在の工学教育でもしばしば取り上げられ、「力学上の難題を見事に解決した例」として称賛されています6。一方で、現代の要求水準から見るとフュジー機構にも限界があります。電子式や音叉式の台頭により求められる精度は桁違いに上がり、もはや歯車式時計では太刀打ちできない領域(例えば原子時計の世界)に到達しました。フュジー機構はあくまで機械式時計内での工夫に過ぎず、その枠組みを超えた量子力学的手法(原子振動を利用した時計など)には及ばないのも事実です。しかし、そうした量子標準時計と比べてしまえば月と鼈であっても、人類が長らく直面した「ゼンマイの不等力問題」を完璧に近い形で克服したフュジー機構の発明は歴史的偉業であり、現代の最新機械式時計にも確実にそのDNAが受け継がれているのです。
現代への影響と応用#
航海クロノメーターへの貢献#
フュジー機構がもたらした影響の一つに、航海用クロノメーターの実現があります。18世紀、経度の測定法確立のためイギリスでは懸賞が掛けられました(いわゆる経度法)27。ジョン・ハリソンをはじめ多くの時計師が挑んだ課題は、「揺れる船上でも長期間高精度を維持できる携帯時計」でした。この要求を満たすには温度変化や船体運動、湿度など多くの要因に対処する必要がありましたが、駆動力の安定化は最重要課題の一つでした。実際、ハリソンはH1~H3の大型海上時計で独自の等力機構(グラス製ひげゼンマイの使用や格子板温度補償など)を試行錯誤しましたが、最終的に懐中時計大のH4(1759年完成)では伝統的なフュジー&チェーン機構を採用し高精度を達成しました。以後19~20世紀の航海クロノメーターは概ねフュジー機構付きとなり、その卓越した精度によって航海術と世界貿易を支えるインフラとなりました。船舶クロノメーターは主にイギリスやフランス、ドイツで発展し、1900年前後には月差数秒という驚異的精度を競うまでに至りました。その裏には、重厚なテンプ(温度補償付き)や高度な脱進機(クロノメーター脱進機)とともに、フュジー機構が常に安定したエネルギーを供給していた事実があります37。1970年代にこれら航海用機械式クロノメーターはクォーツ時計に取って代わられ歴史的役割を終えましたが、フュジー機構は数世紀にわたって人類の長距離航海と精密計時を支えた陰の立役者だったのです40。
現代高級時計における再評価#
一旦は過去の遺物となったフュジー機構ですが、21世紀現在、機械式高級時計の世界で復権を果たしています。1994年、東西統一後に復興したドイツのA.ランゲ&ゾーネ社が発表した「トゥールビヨン・プール・ル・メリット」は、史上初めてフュジー&チェーン伝動を腕時計サイズのムーブメントに組み込んだモデルでした53。懐中時計や船舶時計の時代以来途絶えていたフュジー機構を現代の腕時計で蘇らせたこの試みは大きな注目を集め、以後各ブランドが相次いでフュジー搭載モデルを発表する契機となりました5354。ブレゲ社は伝統シリーズのトゥールビヨン7047(2010年)でフュジー鎖引きを組み込み、ゼニス社も創業150周年記念のアカデミー Georges Favre-Jacot(2015年)で高速テンプに安定動力を供給する目的でフュジー機構を採用しました。これらは技術的必然というよりむしろ「歴史的機構へのオマージュ」としての側面が強く、実際ブレゲのモデルでは伝統継承のシンボル、ゼニスのモデルでは技術力アピールのための搭載と評されています5556。つまり現代ではフュジー機構そのものの実用性よりも、伝統的複雑機構を組み込む高度な職人技術が評価されているのです5758。
とはいえ、現代の一部の独立系時計師たちはフュジー機構に新たな価値を見出そうともしています。その代表がローマン・ゴティエの「ロジカル・ワン (Logical One)」です59。Logical Oneでは従来の円錐フュジーを平面カム状に再設計し、チェーンには各リンクごとにルビーの軸受けを埋め込み、さらに香箱側にも摩擦低減のサファイア・ライナーを備えるという徹底した改良が施されています48。この独自のルビーリンク・チェーンは特許技術であり、巻き取り時の摩擦とチェーンの撓みによる損失を大幅に低減しています48。また、巻き上げ操作も竜頭ではなくプッシャーによるプッシュ式巻上げとする斬新なアイデアで、ムーブメント全体の効率化と操作性向上を図っています60。ゴティエのアプローチは単なる復古ではなく機構の再発明とも言えるもので、フュジー機構が現在でも改善と進化の余地を持つことを示しました。もっとも、こうした努力にもかかわらず「なぜ21世紀に鎖引きなのか?」という問いは残ります61。実際、多くの評論家は「最新素材によって既に等時性の問題は解決済みであり、フュジーは技術的必然ではない」と指摘しています62。それでもなおフュジー機構が搭載された腕時計が生み出され続けるのは、伝統と技巧を重んじるオートオルロジュリー(高級時計)の文化が背景にあるからでしょう6364。複雑で高度な過去の機構をあえて現代によみがえらせることに時計愛好家たちはロマンを感じ、製造側もブランドの技術力・歴史観を示す象徴としてフュジーを用いているのです6566。
将来展望と他分野への影響#
フュジー機構は歴史的には一度役割を終えましたが、その思想は様々な形で現代にも生きています。たとえば時計分野ではフュジーに代わる定力装置として**レムントワール・ダグリゲ(一定力歯車緩急装置)**が開発され、高級時計の複雑機構に組み込まれています。これは歯車列の途中に小さな等力ばねを設けて数秒ごとにトルクをリセットする機構で、フュジーと異なり一時的にエネルギーを蓄えて放出する方法ですが、目的は同じくテンプへの一定力供給です。さらに近年では電子制御によるモーター駆動時計や、重力による恒常力を利用した重力時計(恒重力装置)など、定力供給の概念は広く応用されています。これら現代技術の端緒には、フュジー機構で培われた「駆動力の安定化」という発想が確実に存在すると言えるでしょう。
他の工学分野に目を向けても、フュジー機構のように出力を一定に保つためのメカニズムは随所に見られます。例えば巻尺や懐中電灯のゼンマイバネ装置には、一定の引張力で戻るコンスタントフォース・スプリングが用いられています。また精密な計量装置や試験機では、荷重を一定にかけ続けるためのスネーク(sneck)機構という類似コンセプトの装置もあります。今日の機械工学では電子制御でこれらを実現することも多いですが、パッシブな機械構造のみで入力変動を打ち消すフュジー機構の設計思想は、制御工学やロボット工学における順応機構の参考ともなっています。
最後に、計時精度の極致という点ではフュジー機構は既に主役の座を譲っています。20世紀後半に登場した原子時計はセシウム原子の遷移を利用した量子現象による振動数標準であり、その日差は10^(-14)秒(数千万年で1秒の誤差)という驚異的な精度です。これに比べれば機械式時計のフュジー機構など可愛いものかもしれません。しかし、原子時計が示す“完璧な定周期振動”というゴールに人類が辿り着くまでの何世紀もの間、機械式時計というフィールドで創意工夫を凝らし精度向上に挑み続けた歴史こそ価値ある物語です。フュジー機構はその物語の中核を担った発明品として、技術史と時計愛好家の双方に深い敬意をもって語り継がれています。複雑さゆえに一度は忘れ去られた機構が、現代に再び光を当てられ洗練された姿で蘇る様は、まさに技術と文化の融合と言えるでしょう。フュジー機構が残した「機械による等時性への挑戦」は、今後も精密工学や時間計測の分野でインスピレーションを与え続けるに違いありません。
年表(フュジー機構の歴史)#
- 1405年: ドイツの軍事技術写本にて、クロスボウの巻上げ機構としてフュジーに似た円錐滑車の図が描かれる10。時計分野外での定力機構の初例。
- 1430年頃: 現存最古のゼンマイ式時計「ブルゴーニュ公の時計」(ドイツ国立美術館所蔵)が製作される。内部にフュジー機構を備え、フランドル公フィリップ善良公のために作られたと推定11。
- 15世紀後半: イタリアの建築家ブルネレスキやレオナルド・ダ・ヴィンチが機械設計図中にフュジー機構の概念図を残す11。特にダ・ヴィンチのスケッチ(1490年頃)には香箱・フュジー・鎖から成る機構が明確に描かれている12。
- 1525年: プラハの時計師ヤコブ・ツェッヒがフュジー機構付き時計を製作(※現存する最古の銘板付きフュジー時計とされる)8。同年付の銘があることから、長らく「フュジー発明年」として語られる。
- 1540年頃: フュジーの駆動紐を金属チェーンに置き換える提案が登場(史料上の初出)。ただし当初は技術的難度から一般化せず18。
- 1560年代: 主にドイツ製懐中時計にスタックフリード機構が採用される。フュジーと並ぶ定力機構だったが摩擦損失の大きさから約50年で廃れる15。以降、定力機構といえばフュジーが標準に。
- 1657年: ホイゲンスが振り子時計を発明。定置式時計の精度が飛躍的に向上し、駆動力変動の影響が軽減される(振り子そのものは等時性が高いため)21。振り子時計では重量駆動が主流だったこともあり、一部を除きフュジーの採用例は少なくなる。
- 1664年: ジュネーブの技師ニコラ・グリュエ(Gruet)がフュジー用の細密チェーンを考案し、従来のガット紐に代わって金属鎖を導入18。以降、18世紀までにフュジー鎖引き機構が各国で普及。
- 1670年: 振り子時計向けにアンカー脱進機がイギリスで発明される。十分な等時性を獲得した振り子式振動子により、駆動力一定化の必要性が相対的に低下22。
- 1675年: ホイゲンス(およびフック)が懐中時計向けのひげゼンマイ(テンプ用補正ばね)を発明。テンプが調和振動子となり歩度の安定性が向上するが、当初主流のヴァージ脱進機は依然として駆動トルク変化に敏感だったため、フュジー機構は依然必須と認識される。
- 1726年: ジョン・ハリソン、H2クロノメーターにおいてフュジーに維持装置(Maintaining Power)を追加24。巻上げ時にも時計が止まらないゴーイング・フュジーを実現し、高精度航海時計への布石となる。
- 1760年: ジャン=アントワーヌ・レピーヌ、フュジーを省いた新構造「ゴーイング・バレル」を発明29。長く薄いゼンマイを用いて直接香箱から駆動する方式で、フュジーなしでも一定期間高トルクを維持可能に。薄型エレガントな時計設計を可能にし、以後フランスを中心に急速に普及。
- 1780年代: フランスの時計師たちが懐中時計の極薄化競争を展開。シリンダー脱進機+ゴーイングバレル方式が主流となり、フュジー機構搭載の時計は急減31。一方イギリスでは保守的にフュジー付き大型懐中時計(フルプレート“turnip”)が廉価品として大量生産され続ける。
- 1850年頃: スイス・アメリカの時計産業がすべてゴーイングバレル方式に移行67。高品質なひげゼンマイ合金(ニクロイ等)や温度補償テンプの普及により、駆動力変動を脱進機側で吸収可能になったことも追い打ちとなり、フュジー機構は主流から外れる。
- 1900年: イギリスで最後まで製造されていたフュジー式懐中時計もほぼ生産終了33。フュジー機構は技術的役割を終え、以降は船舶クロノメーターなど特殊用途に限定。
- 1930~50年代: 新素材による改良が進む。コバルト基合金製の「切れないゼンマイ」や、NiSpanC・ニヴァロックス製の温度補償ひげゼンマイが開発される3468。ゼンマイ動力時計の等時性が飛躍的に向上し、定力機構なしでも十分な精度が得られるようになる。
- 1970年代: 船舶用クロノメーターが実用的クォーツ時計に置き換わり始める。最後のフュジー機構常用例であった海軍天文時計も姿を消し、フュジーは歴史的遺産となる40。
- 1994年: A.ランゲ&ゾーネ社、「ツァイトヴェルク・トゥールビヨン・プール・ル・メリット」(Tourbillon Pour le Mérite)を発表53。フュジー&チェーン機構を搭載した世界初の量産腕時計であり、長らく忘れられていた機構を現代最高級時計に復活させた点で画期的。
- 2000年代: 複数の高級時計ブランドがフュジー機構搭載モデルをリリース。ブレゲ社「トラディション7047」(2010年)ではフュジー鎖とトゥールビヨンを組合せ、伝統様式を再現69。ゼニス社「アカデミー GFJ」(2015年)では高振動ムーブメントにフュジーで一定トルクを供給する構造を採用。フュジー機構は技術遺産かつ技巧誇示の象徴として現代によみがえる。
- 2013年: 独立時計師ローマン・ゴティエ、「ロジカル・ワン」を発表。フュジー機構を独自再設計し、カム状フュジー+ルビー軸受けチェーン+プッシャー巻上げという革新的構成で特許を取得4860。機械式時計における定力機構の新たな可能性を示し、高級時計界で高い評価を得る(同年のジュネーブ時計グランプリ複雑機構賞を受賞)。
- 2020年代: フュジー機構搭載時計は依然少数ながら、一部のブランドが限定生産を継続。伝統機構の復権と最新技術の融合という観点で注目され、愛好家向けドキュメンタリーや専門書でフュジーの歴史が詳述されるようになる。機械式時計の文化遺産として、フュジー機構は未来の時計史にも語り継がれていくことでしょう。
参考文献#
- Victorian Collections (Flagstaff Hill Maritime Museum)「Machine - Fusee Clock Mechanism, early 20th Century」 – フュジー機構の歴史的解説(起源、不等力問題、スタックフリードとの比較、改良と廃れ)7024
- Antique Clocks Guy – 「The Fusee Clock Movement Described」 – フュジー機構の基本説明(構造と動作原理、巻上げ方法と維持装置の概念)7125
- Wikipedia英語版「Fusee (horology)」 – フュジー機構に関する包括的項目(発明史、動作説明、廃れた経緯)。時計史家ベイリーの評価引用や主要文献への参照あり672
- Ronald Gowing (1997)「Pierre Varignon and the measurement of time」『Revue d’histoire des sciences』50巻3号 – 18世紀フランスにおけるフュジー形状の数学解析についての歴史研究。経度問題と微積分学の発展の関連が述べられる27
- Richard Palmaccio (2018)「The Fusee Mechanism」 – フュジー機構の数学モデル分析論文。フュジー曲線が双曲線の一部となることを実証し、古典機構の理論的裏付けを行っている17
- BROOCH時計修理工房「鎖引き装置(Fusse)」用語解説 – 日本語によるフュジー機構の概要説明。定力機構としての役割、構造上の長短所、および20世紀以降の状況について記述1937
- Quill & Pad (D. Weinberg, 2018)「The Fusée And Chain: From Function To Fashion In 4 Wristwatches」 – 現代の高級時計におけるフュジー機構復活に関する記事。ランゲ1994年モデルからブレゲ、ゼニス、ゴティエに至る事例を詳細に分析5348
- A. Lange & Söhne公式サイト「チェーンフュジーによる動力伝達」 – ランゲ製品の技術解説ページ。フュジー&チェーン機構の現代的実装や維持装置の仕組みについて触れている7374(※参照のみ、リンク省略)
- Gerhard Dohrn-van Rossum (1997)『History of the Hour: Clocks and Modern Temporal Orders』シカゴ大学出版 – 中世から近世にかけての時計技術史。フュジー機構の成立背景が社会史的に論じられている(p.121ほか)75
- G.H. Baillie (1929)『Watches: Their History, Decoration and Mechanism』Methuen – 時計技術史の古典的著作。フュジー機構を「最も完璧な解決策」と賞賛するくだりが有名(p.85)6。
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Reference 7 ↩︎
Machine - Fusee Clock Mechanism, early 20th Century ↩︎ ↩︎ ↩︎ ↩︎ ↩︎
Machine - Fusee Clock Mechanism, early 20th Century ↩︎ ↩︎ ↩︎ ↩︎
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Pierre Varignon and the measurement of time/Pierre Varignon et la mesure du temps - Persée ↩︎ ↩︎ ↩︎ ↩︎ ↩︎
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Tourbillon ‘Pour le Mérite’, Reference 701.005 | Circa 1996 | Sotheby’s ↩︎
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