イネイト脱進機(Innate Escapement)

イネイト脱進機(Innate Escapement)

エグゼクティブサマリー#

「イネイト脱進機(Innate escapement)」は、独立系ブランド CLEGUER Horology(創業者:時計技術者 Mathieu Cleguer)が、2026年に発表したデビュー作 Inspiration One Souscription(キャリバーI1)に搭載した独自脱進機である。1 3 公表情報を総合すると、設計思想は「ブレゲのナチュラル脱進機(échappement naturel/接線(タンジェンシャル)インパルス) 」がもつ高効率・低摩擦(理想的には低注油)という系譜を継承しつつ、古典的ナチュラル脱進機の最大の実用上の弱点として繰り返し指摘される「自己起動できない(non-self-starting) 」問題を、ファソルト(Charles Fasoldt)の発想(レバーを介した“間接”の接線インパルス) を取り込むことで解いている、という構図である。1 3 4

一次資料(公式サイト+公式プレスリリース)で確認できる範囲では、Innate脱進機は「ナチュラル脱進機の二重輪」と「ファソルト脱進機的な“間接の接線作用”」を組み合わせ、「中央レバーにロッキング(拘束)用とインパルス用のパレット(石)を載せる」構成と説明される。1 3 また専門誌系解説では、ローラー上のインパルス石を中央レバーへ移設し、二つの脱進車が交互に中央レバー上のパレット(拘束/インパルス)と作用して、最終的にローラージュエルへ“従来型に”伝達する、とより具体的に描写される(ただしこれは二次資料の記述であり、細部は今後の公開情報で更新が必要)。4

本報告は、Innate脱進機そのものの公開情報がまだ限定的である点を明示しつつ、(a) ナチュラル脱進機およびファソルト脱進機の一次資料(特許)と、(b) 現代の脱進機工学(動力学・摩擦学・音響計測)の学術資料を接続し、「Innate脱進機が“何を解こうとしているか/どの工学変数を動かしているか" を数理モデルと比較表で解剖する。

図1:CLEGUER Inspiration One(正面・裏面)—Innate脱進機を中核に据えたオープン構造
出典:CLEGUER公式画像(編集用途での提供を明示)。3

用語の確定と調査手法#

曖昧性の所在#

ユーザー提示の「イネイト脱進機」は、時計文脈では一般的な日本語術語ではなく、初期検索では時計以外(医療・代替療法等)の「イネイト(innate)」用例に強くヒットしうる語でもある。
一方で2026年4月前後の時計メディアおよび公式資料において、CLEGUERが自社脱進機を “Innate escapement” と命名していることが確認でき、これが「イネイト脱進機」の実体と判断できる。1 3 5

本報告では、対象を CLEGUER Horology の “Innate escapement" に確定し、「イネイト脱進機=固有名としてのInnate脱進機」として扱う。

検索戦略と代替表記#

実施した探索は、概ね次の順序である(“曖昧語→固有名→一次資料→系譜の一次資料→工学論文”の順に深掘り)。

  • 日本語クエリ:イネイト 脱進機イネイト エスケープメント慣性 脱進機(inertial誤読の可能性除去)
  • 英語クエリ:innate escapementCleguer innate escapementInspiration One innate escapement
  • 一次資料探索:公式サイト(製品ページ/“The Escapement”記述/公式PDFプレスリリース)
  • 系譜の一次資料:Fasoldt(特許)、ナチュラル脱進機(ブレゲ系・近年の特許文献での定義記述)
  • 工学・学術:Swiss leverの動力学・摩擦学・音響計測(学術論文・学位論文・専門書)

表記ゆれ(候補)としては、Innate escapement / “Innate” escapement / innate escapement、日本語では イネイト/イネート、また誤認の代表として イナーシャル(inertial)ナチュラル脱進機ファソルト脱進機 を併記する。1 3 4

一次資料の範囲と限界#

Innate脱進機について、2026年4月時点で一般公開の一次資料として確実に参照できるのは、(1) 公式製品ページ、(2) 公式プレスリリースPDF、(3) 公式配布の図版(脱進機スケッチ等) である。1 3 対して、歯形・角度・作動順序を特許級の精度で記述した公報(出願公開)や、査読論文としての機構解析は、少なくとも公開検索からは直ちに同定できない(=本報告は、公開一次資料+専門媒体の観察報告を「推定付き」で統合する必要がある)。

この限界を補うため、本報告は 「Innateが属する設計クラス(double-wheel+indirect tangential impulse)」 を、(a) ファソルト特許、(b) ナチュラル脱進機の定義を書くブレゲ系特許、(c) Swiss leverの動力学・摩擦学論文で挟み撃ちし、「何が新規で、何が既知で、どこが未公開か」を分離する。

詳細技術報告#

機構概説と構成要素#

公式が明示する目的関数#

公式説明の核心は明快である。Innate脱進機は、ナチュラル脱進機の“自己起動できない欠点”を解くために設計されたと明言され、二重輪(ナチュラル)と、ファソルト由来の“間接の接線作用”を統合し、中央レバーにロック/インパルス両パレットを搭載する、という骨格が述べられる。1

公式プレスリリースも同様に、(a) ナチュラル脱進機の非自己起動性、(b) ファソルト原理を援用した解決、(c) 「二重脱進車+レバーで接線インパルス」という要約を与えている。3

図2:Innate脱進機の公式スケッチ(赤=石/パレットと解釈される)
出典:CLEGUER公式図版。1

二次資料が補う作動像(ただし要検証)#

専門媒体(Monochrome)では、Innateを「二重脱進車を持つ二重インパルス方式」だとしつつ、インパルスが“ナチュラルのように直接バランスへ”ではなく、レバー経由で“間接かつ接線”に与えられる点を特徴づける。4 さらに、ローラー上の二つのインパルス石を中央レバーへ移し、各脱進車が交互に中央レバー上の「拘束パレット」と「インパルス受けパレット」に作用し、そのインパルスが「パレットフォーク→ローラージュエル」へ“伝統的に”伝達される、と描写する。4

この記述は、公式の「中央レバーがロックとインパルスのパレットを担う」説明と整合する一方、石の配置・レバー形状・ガード機構などの詳細は公式一次資料に未記載であるため、本報告では「現時点で最も具体的な外部観察だが、確定には追加一次資料が必要」と位置づける。

実装(Inspiration One)の仕様が示す設計指向#

Inspiration One(Souscription)の仕様として、直径38.5mm・厚さ12mm、手巻き、パワーリザーブ36時間、テンプ径12.9mm、18,000 vph(2.5 Hz)、地板・ブリッジはニッケルシルバー(独銀)等が公式に示される。1 また量産計画は「合計80本(ケース素材5種、12本単位のバッチ)+20ムーブをユニークピース用」という方針が明記される。1 3

発明の経緯と設計意図#

発明者(Inventor / Designer)#

Innate脱進機の開発主体は、公式に Mathieu Cleguer(時計技術者/watchmaking engineer) とされる。3 1 本人の経歴として、2006年のパリ・モーターショーで時計に出会い(当初は自動車志向)、2011年にヌーシャテルのHE-ARCで学び始めた、というストーリーが公式および複数媒体で一致する。6 1

開発の期間と試行錯誤#

公式プレスリリースは、デザイン協業者 Lee Yuan-Rapati(@onehourwatch)が2017年から関与していると記載し、少なくとも外観・ムーブメント構想は2017年時点で走り始めていたことが分かる。3 インタビュー系記事(Revolution)では、時計は「ほぼ10年にわたり並行して作り込まれた」こと、ムーブメント案は“20以上のバージョン”を経たこと、そして初期の自己起動案は高慣性・不安定性のため破棄したことが述べられており、「自己起動性の付与」が設計上の難所だったことを示唆する。6

目標性能:自己起動+低摩擦=“実用品としてのナチュラル系”#

ナチュラル脱進機は歴史的に、理想的には「直接・接線インパルス」「低摩擦(低注油)」を志向する一方、実用上は 非自己起動を含む課題が残り、工業的普及が難しかった、という問題意識が繰り返される。11 Innateは、この“ナチュラルの理想”を捨てずに、日常使用の信頼性(自己起動) を加えることを目的関数に置いている点で、古典問題に対する現代的回答として位置づけられる。1 3 5

動力学モデル#

ここでは、Innate脱進機そのものの寸法データが公開されていないことを踏まえ、脱進機一般の数理枠組みSwiss leverで確立された解析Innateが動かす“変数”の推定の順に示す。

バランス・ヒゲゼンマイ系の基礎方程式#

テンプ(バランス)とヒゲゼンマイは、一次近似ではねじり振動子であり、角変位を (\theta(t)) とすると

[ I,\ddot{\theta} + b,\dot{\theta} + k,\theta = \tau_{\mathrm{esc}}(t,\theta)+\tau_{\mathrm{dist}}(t) ]

で表される((I):慣性モーメント、(b):粘性減衰相当、(k):ヒゲゼンマイのねじり剛性、(\tau_{\mathrm{esc}}):脱進機からのトルク、(\tau_{\mathrm{dist}}):姿勢差・衝撃・磁気等の外乱)。
自然角振動数 (\omega_0=\sqrt{k/I})、周波数 (f_0=\omega_0/2\pi)。

Inspiration Oneは (18{,}000,\mathrm{vph}=2.5,\mathrm{Hz}) と公表されるため、設計上の基準振動数はロービート寄りである。1

“インパルス”を持つ振動子:衝撃・接触を含むモデル#

実際の脱進機は、連続トルクというより 短時間の接触(衝撃+摩擦) として作用する。Swiss leverの詳細モデルでは、作動原理の説明とともに動力学モデル(衝撃・接触を含む)が導出されることが、機構学の専門書章で述べられている。15

また実験摩擦学の観点からは、Swiss leverの主要接触は「衝撃+すべり」を含み、1日あたり約50万回規模で起きるとされ、作動は release(解放)→ impulse(加勢)→ fall(落下) の3相として整理される。16 この“相分解”は、Innateのような新脱進機を評価する際も、(a) どこで解放するか、(b) インパルスをどの接触で与えるか、(c) 落下・停止をどう設計するか、の3点で比較できる。

エネルギー収支:効率・等時性・トルク安定化の接続#

振動子エネルギー (E) は(線形近似で)

[ E=\frac12 I\dot{\theta}^2+\frac12 k\theta^2 ]

で、定常状態では「1周期で失うエネルギー」=「脱進機が与えるエネルギー」に近い。
Swiss leverでは、摩擦・衝撃損失が大きくパワーリザーブに影響することが明示的に議論され、パワーリザーブが脱進機ダイナミクスに強く影響するとも指摘されている。16

Inspiration Oneが採用する マルタ十字ストップワークは、公式プレスリリースで「トルク変動を制限し、36時間に制限することでクロノメトリーを改善する」と説明されている。3 この設計はエネルギー収支の観点では、主ゼンマイのトルク曲線 (T_s(\phi)) の“端(高すぎる/低すぎる)”を使わず、(|dT_s/d\phi|) が小さい領域のみを使うことで、(\tau_{\mathrm{esc}}) のばらつき→振幅変動→レート変動(等時性誤差+脱進誤差連成)を抑える設計として理解できる(これは一般原理の説明であり、Innate固有の数値同定は今後の一次資料が必要)。3

Innate脱進機が“動かす”操作変数(設計上の焦点)#

公開情報から推定できる Innate の主要な設計操作変数は、少なくとも次の4群である。

  1. 自己起動性:ナチュラル脱進機の非自己起動性を解くことが設計出発点として明示される。1 3
  2. すべり摩擦の削減:理想的には“friction free”を掲げ、専門媒体もSwiss leverとの比較で「すべり摩擦の不在(absence of sliding friction)」を理論的利点として述べる。1 4
  3. 二重脱進車(double wheel) :ナチュラル由来の二重輪を使うことが一次資料に明記される。1
  4. インパルス経路の変更(direct→indirect) :ナチュラルの“直接インパルス”ではなく、レバーを介した“間接・接線”インパルスへ移行していると読める(公式:Fasoldtのindirect tangential action、媒体:インパルス石の移設とレバー経由伝達)。1 4

すべり摩擦・潤滑・材料#

Swiss leverの摩擦学が“比較の物差し”になる理由#

Swiss leverは現代機械式時計の圧倒的多数で使われ、専門章では「商業的機械式時計の少なくとも98%」と述べられる。15 摩擦学論文では「約95%」という推定も示され、最重要点として、アンカー(パレット)と脱進車歯の接触が「衝撃+すべり」を含むこと、潤滑不足が接触面に第三体(摩耗粉等)の生成・堆積を生みうることが論じられる。16

Innateが「すべり摩擦の抑制(あるいは排除)」「低注油問題の回避」を売りにするなら、Swiss leverの“問題の所在”を摩擦学的に定義しておくことが、比較の出発点になる。

ナチュラル脱進機の“理想”と現実(一次資料ベース)#

ブレゲ系のナチュラル脱進機を定義する特許文献(Montres Breguet S.A.)では、ナチュラル脱進機が「接線インパルス脱進機」とも呼ばれ、(a) フリー脱進機である、(b) 各交互運動で直接かつ接線的にテンプへインパルスを与える、(c) 接線伝達ゆえ摩擦が限定される、と整理される。11 同時に、歯車バックラッシュや製造品質に起因する位置決め不良、作動安全性の低さ、異音(bruits parasites)などの問題も言及される。11

つまりナチュラル脱進機は、単に“低摩擦の夢”ではなく、摩擦を減らすほど位置の不安定性・安全性問題が顔を出すというトレードオフの上にある。

Innateが狙う摩擦低減はどこに効くか(推定)#

公開情報に従えば、Innateは

  • 二重輪(ナチュラルの構造)
  • ただしインパルスはレバー経由(Fasoldt的)
    という折衷である。1 3

この折衷が意味する可能性は次の通り。

  • 自己起動性:レバー(あるいはフォーク)を介することで、停止状態からの“最初の解放・加勢”が設計しやすくなる(Swiss leverが工業的に強い理由の一つ)。15
  • すべり接触の局在化/低減:インパルス伝達面を、従来の「歯先—パレット面のすべり」から、より“押し(接線)”に近い接触へ寄せることで、潤滑依存性と摩耗粉生成(第三体)を抑えることが設計目標になりうる。16 11

ただし「完全に摩擦ゼロ」は物理的には成立しない(衝撃損失・軸受損失・空気抵抗などが残る)。したがって公式の “Friction free” は、学術的には「主要インパルス面のすべり摩擦を(設計上)極小化する」程度に読み替えるのが安全である。1

ナノトライボロジー/量子・原子スケールの接続(必要な範囲で)#

脱進機の摩擦・摩耗は、最終的には接触界面の原子・分子過程に根を持つ。原子スケールでの摩擦・摩耗・潤滑を扱うナノトライボロジーの総説(Nature, 1995)は、薄膜・表面での分子機構理解が実験・計算機シミュレーションの発展で進みつつあるとまとめる。19 またDLC(diamond-like carbon)のような低摩擦・耐摩耗コーティングは、分子動力学(MD)シミュレーションと実験を併用して摩擦機構(結合の生成・破断)を解析する研究が示されている。20

Innateは現状、鋼製脱進車とルビー石を用いる“伝統材料寄り”の実装だと報告されているが、将来もし量産・長寿命化・無注油化を押し進めるなら、表面工学(コーティング、酸化膜、ナノスケール粗さ) は避けて通れない評価軸になる(一般論)。7 20

音響工学と計測#

“脱進音”は工学信号である#

機械式時計の「チッチッ」音は、脱進機内部の衝撃に由来するという整理は、音響信号解析の論文でも明確に述べられる。18 同論文は、1回の tick を unlocking / impulse / drop の3相に分け、最大衝撃はdrop相であり、各部品の固有振動(モード)周波数が瞬間的な音の周波数に対応しうる、と述べる。18

この枠組みをInnateへ持ち込むと、

  • 二重輪+中央レバーで衝撃点が増える/位置が変わる
  • dropの条件(歯の落ち込み)や衝撃の分布が変わる
    可能性があるため、Innate固有の“音紋(signature)" が形成されうる。

解析方法:時間周波数解析+FEM#

上記論文は、再配置スペクトログラム(Reassigned Spectrogram)などの時間周波数解析と、部品のFEMモード解析を組み合わせて故障診断に使えることを提案する。18 これはドキュメンタリー制作上も重要で、Innate脱進機を「見た目の新奇性」だけではなく、音(衝撃)という物理量で比較する映像設計が可能になる。

精密加工・製造エコシステム#

Innate脱進機の“設計”と“製造”は不可分である。公式プレスリリースは、主要な協力先として、加工部品(地板・ブリッジ・バネ類)担当、回転部品(ピニオン・軸・輪列)担当、脱進機用のパレット石・精密ルビー担当、ヒゲゼンマイ・ダブルローラー担当などを列挙している。3 この列挙は、Innateが“机上のアイデア”ではなく、実際に超精密加工・材料供給網の上で成立していることを一次資料として示す。

さらにRevolutionの詳細記事は、ストップワーク付きラチェット/クリック系・香箱系を含む“製造可能性(manufacturability)”を強く意識した設計であることを述べ、香箱の支持・軸受など摩擦の“効く場所”に工学的配慮があるとする。6

歴史的系譜とタイムライン#

年代別タイムライン(系譜:ナチュラル/ファソルト→現代二重輪)#

Innate脱進機は単独発明としても新しいが、より正確には「二重輪・接線インパルス」という長い系譜の最新枝である。ここでは、Innateの“祖先機構”の一次資料を中心に並べる。

  • 19世紀初頭:ブレゲが“ナチュラル脱進機(接線インパルス脱進機)”の原理を構想。近年のブレゲ系特許は、ナチュラル脱進機の利点(フリー脱進機、各交互運動で直接・接線インパルス、摩擦限定)を整理し、同時にバックラッシュ等の課題も記述する。11
  • 1802年:ブレゲ公式は、1802年に自然脱進機を含む精度向上装置(トゥールビヨンと自然脱進機等)を備えた時計群が製作されたと述べる。12 具体例として、Christie’sの解説はブレゲNo.1135のオーダーが1802年3月であることを示している。13
  • 1859年:Charles Fasoldt が米国特許(No.22,791)を取得(レバー脱進機改善)。9
  • 1865年:Fasoldt がクロノメーター脱進機の改良で米国特許(No.46,652)を取得。本文中で「二重脱進車(double escape wheel)」「レバー端への歯によるインパルス」「注油不要(no oil is required)」等の思想が読み取れる。10
  • 20〜21世紀:二重輪・低摩擦を目指す現代的試みが、材料(シリコン等)と微細加工(DRIE/LIGA)を得て多方向に展開。シリコン技術の文脈では、脱進機における摩擦低減・慣性低減・無注油化の狙いが論じられてきた。21
  • 2025年:Rolexが新脱進機 Dynapulse を公式に紹介。Land-Dwellerのcal.7135に搭載し、約10年のR&D、シリコン部品、高周波(5Hz)などを特徴として掲げる。22 専門解説ではDynapulseを「double-wheel, indirect-tangential impulse」型とし、ナチュラル脱進機ではない(直接インパルスでない)と説明している。23
  • 2026年:CLEGUERがデビュー作 Inspiration One Souscription を発表し、Innate脱進機を初搭載。公式プレスリリースは2026年4月1日付で、12本のSouscriptionが割当済み、納品は2026年後半予定とする。3

2026年月次タイムライン(Innate脱進機の“公開史”)#

年月出来事根拠
2026-04-01CLEGUER公式プレスリリース(Innate escapement搭載 “Inspiration One Souscription” デビュー)3
2026-04-01主要時計メディアが一斉に紹介(機構概要:二重輪+レバー接線インパルス、自己起動の解決)5 6 7
2026-04-02追加レビュー/仕様詳細(テンプ・ヒゲ形状、ストップワーク、価格帯など)4
2026年後半(予定)Souscription 12本の納品予定3

タイムライン図(系譜+開発)#

timeline
    title Innate脱進機(Cleguer)—系譜と公開史(要約)
    1802 : ブレゲが自然脱進機を備える時計群(公式言及)/ No.1135オーダー(史料)
    1859 : Fasoldt 米国特許 No.22,791(脱進機改善)
    1865 : Fasoldt 米国特許 No.46,652(二重脱進車・レバー経由インパルス)
    2017 : Lee Yuan-Rapati が設計協業として関与開始(公式PR)
    2025 : Rolex Dynapulse(比較対象:二重輪・間接接線インパルス系)
    2026-04 : Cleguer “Inspiration One Souscription” 発表(Innate初搭載)
    2026-H2 : Souscription納品予定(公式PR)

比較表#

脱進機比較(設計クラスとしての位置づけ)#

脱進機インパルス経路自己起動主接触の摩擦像(概念)代表的用途典拠
Swiss lever(スイスレバー)レバー経由(間接)あり(工業的標準)衝撃+すべり(潤滑が重要)現代機械式の大多数15 16
ナチュラル脱進機(ブレゲ)直接・接線インパルス伝統的に課題(非自己起動が大問題として言及)摩擦限定を志向/ただし安全性・バックラッシュ課題少数の高級・試作的実装11
Fasoldt系(1865)レバー端への歯によるインパルス(記述上)(設計意図上)実用性志向注油不要の設計意図が本文に現れる歴史的機構(特許)10
Dynapulse(Rolex, 2025)間接・接線(インパルスロッカー介在)工業実装(製品搭載)“すべり摩擦の排除”を強く志向(微量油も言及)Land-Dweller cal.713522 23
Innate(Cleguer, 2026)間接・接線(中央レバー、二重輪)解こうとしていると明言“Friction free”を標榜(主要すべり低減を意図)Inspiration One Souscription(初出)1 3 4

学術的要点:Innateは「ナチュラル(直接) vs Swiss lever(自己起動)」の古典対立に対し、“二重輪+間接接線" という折衷クラスで回答している可能性が高い。これは2025年のDynapulse解説でも同型(double-wheel, indirect-tangential)という用語で整理されており、Innateは“工業”ではなく“伝統材料+独立系の精密手作り”側から同種の目標関数へ近づいた例と見なせる。23 4

特許・一次資料対照表(Innateを理解するための“祖先資料”)#

資料種別番号/題名何が一次的に分かるか典拠
1859米国特許Fasoldt, No.22,791Fasoldtの初期脱進機改善の図面・概念9
1865米国特許Fasoldt, No.46,652二重脱進車、レバー経由インパルス、注油不要の記述10
2021優先/2022公開欧州特許Montres Breguet S.A., EP4053643B1ナチュラル脱進機(接線インパルス)の定義・利点・課題11
2026公式PDFCLEGUER Press ReleaseInnateの目的(自己起動問題解決)・基本構成・サプライ網3
2026公式WebInspiration One(仕様+脱進機説明)“二重輪+Fasoldt的間接接線”+中央レバー構想/仕様1

初出モデル/作品比較(Inspiration Oneの“作品性”)#

項目Inspiration One Souscription(初出)後続予定(貴金属等)典拠
初出時期2026-04-01 公開(公式PR)2026年後半以降バッチ展開3 5
ケースチタン 38.5mm×12mm(Souscription)他素材へ(12本単位)1 4
脱進機Innate(独自)1
振動数18,000 vph(2.5Hz)1
動力手巻き、PR 36h(ストップワークで制限)同思想継続が示唆3 4
表現(作品特徴)オフセンターダイヤル(グラン・フー・エナメル)、脱進機と大型テンプを前面に見せる“階層構造”色・素材展開1 5

参考文献・資料#

文献一覧(リンク付き、一次資料優先)#

推奨ビジュアル案(映像制作向け、キャプション例)#

  • ビジュアルA(実機) :「Inspiration One正面—“見せるべき三点”(香箱・文字盤・テンプ)とInnate脱進機窓」
    参照画像:公式図版(図1)3

  • ビジュアルB(機構理解) :「Innate脱進機スケッチ—二重脱進車と中央レバーの関係(赤:石)」
    参照画像:公式図版(図2)1

  • ビジュアルC(系譜) :「ナチュラル脱進機(ブレゲ)→ファソルト特許→Innateの設計クラス(double-wheel+indirect tangential)」
    根拠:EP4053643B1(ナチュラル定義)11、Fasoldt特許10、Cleguer公式1