ロバン式重力ルモントワール:小重錘で精密時計を駆動する仕組み

ロバン式重力ルモントワール:小重錘で精密時計を駆動する仕組み

主ゼンマイの力を小さな重錘へ移す#

ロバン式重力ルモントワールは、ロベール・ロバン(Robert Robin)の精密振り子時計に結び付く、中間巻上げ機構である。主動力が小さな重錘を繰り返し持ち上げ、その重錘が下がる力で脱進機側を動かす。主ゼンマイの力をそのまま伝える代わりに、重量を介して給力条件を整える。博物館目録には主動力が大きな重錘の実例もあり、「ゼンマイを用いる時計」だけが対象ではない。1

「ロバン式」は一種類の部品配置を意味しない。無端索と滑車を使う構成のほか、可逆ウォームと停止輪を用いる例にもこの名称が付く。一方、ロバンの名に結び付く脱進機とは役割が異なる。ルモントワールはエネルギーを中継する装置であり、脱進機は輪列の進みを刻み、振り子へ衝撃を渡す装置である。1 2

無端索式の構造と一周期#

二つの動力系を滑車でつなぐ#

ルイ・モワネの技術書は、「R. Robinのルモントワール」を具体的に説明している。二つの香箱が補充用輪列を動かし、重い副動力重錘と軽い対重錘を伴う無端索が脱進機側へ力を渡す。索は上下の滑車を巡り、補充輪列側の滑車には滑りを抑える突起がある。重い副動力重錘Pと軽い対重錘pによる索の張力差が、出力車Uと同軸の滑車Sを回す。Pとpを吊る動滑車と、出力車に結合された滑車Sは別の部品である。2

動作は次のように整理できる。表はモワネの記述する一実装であり、すべてのロバン式の寸法や周期を規定するものではない。2

段階動作
給力補充輪列を停止させたまま、副動力重錘が下がって脱進機側を動かす
解除重錘の下降に追随するてこが停止部を外す
持上げ香箱側の輪列が滑車を回し、重錘を引き上げる
再停止持ち上がった重錘に伴って停止部が戻り、羽根軸が一回転して止まる

モワネの例では補充は毎分一回である。主動力は補充時に働き、小重錘はその間も脱進機側へ給力する。無端索による巻上げ維持の考え方を、自動解除と再停止によって反復運転へ組み込む点に、この構成の特色がある。2

索の滑りと表示輪列の負荷#

小重錘を置いただけで、時計全体の負荷が切り離されるわけではない。モワネは、説明した時計の副動力が針の輪列まで動かす点を批判した。索の滑りや突起への食い込みによって解除時刻が変わるため、針と秒表示の関係を保つ配置には理由があったが、その代わりに表示系の変動抵抗が副動力側へ残る。彼は索を小さな鎖に置き換え、表示系を主動力側へ移す案を示した。これは改良提案であり、その時計に鎖が実装されていた証拠ではない。2

実物で確認できる変種#

CNAMの8827:短い周期と停止輪#

パリの国立工芸院博物館の1949年目録は、8827をロバンに「帰属する」1785年の時計として扱う。製作者の署名による確定とは区別すべき表記である。この実装では主ゼンマイ、可逆ウォーム、十字形の停止輪、揺動てこが組み合わされる。重錘の下降でロックが外れると主動力が重錘を持ち上げ、停止輪は半回転して再び止まる。補充間隔は12~13秒と記載されている。1

これは毎分補充の無端索式と、同じ周期・同じ停止機構ではない。また、この時計の半秒振り子と「失われた拍」を持つ脱進機は、秒針を一秒ごとに進めるための別の工夫である。秒針が一秒ごとに跳ぶことと、重錘が一秒ごとに持ち上がることは同義ではない。1

同じ目録の1400は1780年のロバン製レギュレーターで、無端索、小重錘、約一分ごとの補充を説明する。ただし小重錘は針も動かす。したがって8827についての「重錘が脱進機だけに作用する」という説明を、1400へ移してはならない。1

ポール=デュピュイ美術館の1792年作#

トゥールーズのポール=デュピュイ美術館所蔵Inv 18280では、上部の二つの結合されたゼンマイによる巻上げ部と、文字盤背後の時計機構が分かれている。重さ15gの小重錘を毎分持ち上げる構成で、鋼製の連結棒が解除を伝える。裏地板には1792年の銘がある。3

同館の記録はグラハム脱進機、鋼鉄製連結棒、アンクル側とルモントワール車軸のローラー支持も明示する。このように重量、支持方式、脱進機まで特定できる実物資料は、原理図だけでは分からない製作上の選択を示す。15gはこの時計の仕様であって、ロバン式一般の標準値ではない。3

クロニエの1800年作#

2021年のSotheby’sの実物記載には、1800年銘のジャン=フランソワ・クロニエ製卓上レギュレーターがある。「ロバンの弟子」を意味する銘を持ち、二つの香箱による独立輪列が小重錘を繰り返し持ち上げる。脱進車のかなは、裏地板の外にある五本スポークの車から駆動され、その車に重錘用滑車が付く。伝承を銘だけでなく動力の配置でも確認できる例である。4

この記録は振り子を交換品とする。現状の構成を、すべて1800年のオリジナル部品とみなすことはできない。また、月巻きという主動力の持続時間は、小重錘の補充周期を意味しない。4

なぜ有効で、何が残るのか#

エネルギーと補充の条件#

以下は個別作品の測定値ではなく、重力式を理解するための理想化した力学モデルである。質量 m(kg)の重錘が高さ h(m)だけ下がると、重力加速度を g(m/s²)として E = mgh(J)の位置エネルギーを放出する。補充間隔を t(s)とすれば、損失を無視した平均出力は mgh/t(W)となる。重錘の質量と下降量を一定に繰り返せれば、主ゼンマイのゆっくりした力の変化から、各区間のエネルギー供給を分けて考えられる。

ただし、補充用輪列には、重錘の持上げに加え、索・滑車・歯車の摩擦と停止部の操作を負担する余力が必要である。主ゼンマイが弱くなって必要な高さまで持ち上げられなければ、このサイクルは成立しない。「小さな重錘で運転する」ことは、主動力も小さくできるという意味ではない。

また、重力が一定でも出力トルクは索の張力差、有効半径、軸受抵抗によって変わる。動滑車を含む無端索式では、重錘の全重量をそのまま脱進機軸の接線力として計算できない。補充時の慣性や停止時の衝撃も、静的な mgh だけでは評価できない。

調整・製作・保守#

この方式の精密さは、重錘の質量だけでは決まらない。解除てこの自由な動き、索の通り道、滑車の軸、停止面の位置を一つの系として調整する必要がある。モワネは索とてこの接触を避ける配置や、重錘の吊り環が自由に動く構造まで説明している。2

保守上も、索を任意の太さや硬さのものへ替えればよいとは限らない。滑車の突起との接触や曲げ抵抗が変われば、解除位置や持上げ動作が変わり得る。これは史料に記された滑りの問題から導かれる機械的な含意であり、個別の修復で特定材を推奨するものではない。

比較の際には、補充周期、重錘の可動範囲、脱進機の種類、表示輪列がどちらの動力から駆動されるかを分けて記録すべきである。異なる実装の周期だけを比較して、短い方が高精度と結論することはできない。

成立と展開の年表#

年代確認できる事項と資料の性格
1770年代ロバンが精密時計向けの重力式中間巻上げを発展させた時期。1772年の王立科学アカデミーへの提出説があるが、現存刊本の刊年とは別に扱う。5
1778年本人の『ルモントワールの性質についての考察を含む覚書』の刊本。Google Booksの所蔵書誌で確認できる。6
1780年CNAM目録で1400がこの年に置かれる。無端索式の具体例であり、発明年や最初の作品を確定するものではない。1
1785年CNAM目録が8827に付す年代。ロバンへの帰属という留保付き。1
1792年ポール=デュピュイ美術館の15g・毎分補充の時計に銘が残る。3
1800年クロニエの卓上時計に年銘と「ロバンの弟子」の銘。機構上の継承を確認できる。4
19世紀前半~中葉モワネがロバン式の動作と欠点、鎖への改良案を専門書で説明する。2
1949年CNAM目録が複数実装を所蔵番号別に記述する。1
2026年の確認範囲博物館の所蔵記録と公開技術書によって、歴史的機構として構造を追える。現代の腕時計用ばね式ルモントワールを、この無端索式の直接継承とする根拠はここでは示せない。

確認範囲と技術史上の位置#

ロバン式の意義は、長く働く主動力と、脱進機へ小さな力を配る副動力を、反復補充によって結んだ点にある。ただし名称だけでは、針の負荷まで切り離しているか、どの機構で停止するかは分からない。所蔵番号ごとに構造を確認すると、「一定の力」という目的と、各時計で達成できる隔離の範囲が見えてくる。

本人の1778年刊本は書誌を確認した範囲であり、その本文に基づく発明優先権は確定していない。1772年説、特許の有無、最初の製作例、日差の定量的改善、索の材質・公差・潤滑仕様も確定できない。博物館の重量と周期の記録から、測定されていない歩度成績を推定すべきではない。

参考文献#

  1. Conservatoire national des arts et métiers, Catalogue du musée. Section JB, Horlogerie, Paris, 1949, p.151(1400)、pp.176–177(8827)。Cnum原本文OCR。閲覧日:2026年10月22日。

2. Louis Moinet, Nouveau traité général astronomique et civil d’horlogerie théorique et pratique, 第2部第1章、pp.7–11、§719–730。ETH-Bibliothek Zürich, Rar 17375。配信書誌はParis, 1841(分冊刊行の資料であり、全体の完成年と区別)。e-rara章PDF、永続識別子。閲覧日:2026年10月22日。

3. Musées Occitanie / Musée Paul-Dupuy, « Régulateur de parquet », Inv 18280、1792年。所蔵・構造・銘文の記録。公開日記載なし。閲覧日:2026年10月22日。

4. Sotheby’s, Furniture, Clocks & Works of Art, 2021年5月18日、lot 60, « A Consulate mahogany month-going table regulator with remontoire… Jean-Francois Cronier, Paris, dated 1800 »。Descriptionと交換部品の記載。閲覧日:2026年10月22日。

5. La Pendulerie, « Deciphering 18th-Century Precision Regulators », 「Remontoir d’égalité」節、fig.10–12。販売者による専門解説。1772年説の紹介に限定し、アカデミー原議事録の確認とは区別。閲覧日:2026年10月22日。

6. Robert Robin, Mémoire contenant des réflexions sur les propriétés du remontoir, son exécution pour les pendules à ressort…, 1778。Google Books所蔵書誌。原所蔵:British Library。書誌のみ確認、本文未読。閲覧日:2026年10月22日。