トゥールビヨン

トゥールビヨン

トゥールビヨン(tourbillon)は、テンプ、ひげゼンマイ、脱進機を回転する枠に載せ、時計本体に対する調速機の向きを周期的に変える機構である。アブラアム=ルイ・ブレゲ(1747–1823)が1801年6月26日にフランスで特許を得た。重力を消す装置ではなく、姿勢によって生じる進み遅れを回転によって平均化しようとする。発明時の懐中時計から、薄型、自動巻き、片持ち支持、多軸式の腕時計まで、同じ着想から多様な構造が生まれた。12

発明の背景と成立#

携帯時計に残った姿勢差#

時計のテンプは、ひげゼンマイの復元力を受けて往復運動する。理想的には振り角が変わっても周期が変わらない等時性が望まれるが、実物のテンプとひげには重心の偏りがあり、軸と軸受には摩擦がある。ブレゲの原特許説明は、重心を幾何学的な中心へ完全に一致させる難しさと、軸周上の接触・摩耗・潤滑が姿勢によって変わる問題を挙げている。1

据置時計を一つの向きに置くなら、その姿勢へ合わせる調整ができる。しかし携帯時計では、姿勢が変わるたびに調整をやり直せない。特に懐中時計は衣服の中で垂直に保たれる時間が長い。調速機を時計の内部で回せば、時計本体の向きが一定でも、調速機は進みやすい向きと遅れやすい向きを順に通過する。ブレゲの解決は、部品の不完全さを調整で減らすことに加え、その影響を時間的に平均化することだった。13

ブレゲは1775年にパリで工房を開き、1793–1795年には革命下のフランスを離れてスイスに滞在した。自動巻き懐中時計や新しい脱進機も扱ったが、トゥールビヨンは特定の脱進機の名称ではない。回転枠に異なる脱進機を載せられることは、後述する初期作品の違いにも表れている。245

原特許の記録と名称#

フランス産業財産庁INPIが公開する資料綴1BA1792には、説明書、図面、本人の書簡、受理・付与に関する行政文書が残る。受理記録は共和暦9年ニヴォーズ4日、すなわち1800年12月25日。付与は同年メシドール7日、1801年6月26日で、期間は10年だった。後世のメーカー史には提出を12月24日または26日と記すものもあり、書簡・書類の作成日と行政上の受理日を分けて読む必要がある。126

申請書簡でブレゲが述べた目標は、重心の位置による異常を補償し、軸周へ摩擦を分散させ、潤滑の状態を保つことだった。設備投資に要した費用を回収することも、権利を求める理由に挙げている。一方、行政文書には、事前審査を行わず、発明の優先・利益・成功を政府が保証しない旨が記される。特許取得は、独立した精度試験への合格とは区別される。1

フランス語のtourbillonには渦や旋風の意味があるが、原説明の比喩は天体の運動である。ブレゲは、固定車の周囲を回る枠と、その中で自転する車の関係を、太陽の周囲を公転しながら自転する地球に例えた。名称を激しい回転の印象だけで理解すると、規則正しく位置を巡らせるという着想を見失う。1

動力と運動はどう伝わるか#

原図に見る固定車と回転枠#

原特許の図は固定部分と可動部分を分けて示す。輪AAAが枠と一体のピニオンFFを駆動し、枠BBBBは軸EEEの周囲を回る。枠上に置かれたガンギ車の軸DにはピニオンPPが付き、時計本体に対して動かない歯車CCと噛み合う。枠が固定車の周囲を移動することで、ガンギ車の回転が生じる。1

ここでは、枠だけを別のモーターで回しているわけではない。脱進機が輪列を止めている間は枠も止まり、テンプの運動によって脱進機が解放されると、動力が伝わって枠が進む。枠の一周時間はテンプと脱進機に制御されている。「一定速度で回転する」という説明は時間平均での周期を指し、微細には脱進機のロックと解放に応じた刻みを含む。1

原説明は一分で一周する例と、その軸に秒針を付ける用途を示す。ただし一分は必須条件ではない。初期作品には四分や六分で一周する例もあり、枠の周期、載せる脱進機、秒表示を個別に設計できる。トゥールビヨンを「一分で回るレバー脱進機」とだけ定義すると、その歴史的な範囲を狭めてしまう。145

何を平均化し、何が残るのか#

単軸式では、枠が回る間にテンプやひげの重心の向きが変わる。主に問題となるのは垂直姿勢における方位差である。回転だけで、水平と垂直の差、温度、磁気、衝撃、主ゼンマイの出力変化まで取り除けるわけではない。平均化の仕組みを持つことと、時計全体の日差が小さいことは同じ指標ではない。13

回転枠は重量と慣性を持つ。調速機を動かすだけでなく、その支持枠も回さなければならず、枠の釣合い、軸受、輪列の効率が重要になる。枠を速くすれば、その分だけ無条件に精度が上がるという関係でもない。高速化した具体例では、軽量化と専用の歯形を同時に開発している。37

精度の評価には、どの姿勢で、どの長さの期間を測り、どの個体と比較したかが必要になる。オメガの競技用機構やグリュベル・フォルセイの競技成績は高成績の具体例になるが、搭載・非搭載時計を同じ条件で比較し、他の設計要素をそろえた実験ではない。競技の成功から回転機構だけの改善量を取り出すことも、腕時計では一律に無効と結論することもできない。89

初期の作品、顧客、実用化#

試作と販売の違い#

メーカー史はNo.282とNo.169を試作として扱い、最初の商業販売を1805年、アンヴァリッドでの一般公開を1806年9–10月とする。No.282は1796年に着手され、工房に留まり、1832年に息子アントワーヌ=ルイの代で販売されたと記録される。No.169はジョン・アーノルドの時計をもとにした作品で、1809年にその息子へ贈られた。製作開始、完成、販売、贈呈は別々の出来事であり、販売年だけから発明の最初を決められない。24

四つの作品に見る設計の幅#

作品回転枠・脱進機表示・構造と顧客
No.1188四分回転、自然脱進機フュゼと香箱、巻上げ残量、常時秒と停止可能な秒表示。Antiquorumが引用する証明書では1808年8月1日、スペイン王族Don Antonioへ3,600フランで販売。1841年の文字盤交換を当初の仕様と混同しない。1011
No.1176四分回転、自然脱進機秒の停止操作を持ち、三つの独立したコックで機構を支持する。Christie’sの現物記述と証明書報告は1809年2月12日、サンクトペテルブルクのMoreauを通じてポトツキ伯へ4,600フランで販売したとする。12
No.1297四分回転、Robin脱進機温度計、停止秒、巻上げ残量。1808年に英国王ジョージ3世が取得。文字盤と地板にはロンドンの代理人Recordonの名があり、Breguetの署名は枠の下に隠される。1314
No.2567一分回転、側方レバー脱進機直径61mmの金製ハンターケース、銀文字盤、6時位置の秒、バイメタルテンプ、ブレゲひげ。ブレゲ・ミュージアムの資料では1812年3月21日、船舶所有者ル・ビゴへ1,800フランで販売。1516

No.1188の分解記録では、回転枠の裏側に釣合い用ねじも見られる。脱進機を動く枠へ載せれば済むのではなく、枠全体を釣り合わせ、香箱から枠へ力を送り、別の秒表示や停止操作とも両立させる仕事が必要だったことを実物から読める。10

No.1176の自然脱進機とNo.1297のRobin脱進機、No.2567のレバー脱進機は、トゥールビヨンの設計が一方式に固定されていなかったことを示す。No.1176はメーカー資料でも1802–1809年の製作とされるが、何番目の作品かという数え方は多言語版で一致しない。またNo.1297の1808年の送付日は、英国政府の紹介と公的審査報告で6月29日と21日に分かれる。年の一致と、日付・製作順の不一致を分けて扱う必要がある。12131417

王侯の収集と科学的な用途#

顧客は装飾品としてだけ時計を求めたわけではない。No.1297には温度計や停止秒があり、No.2567の買主は船舶所有者だった。個別作品の表示・操作・買主を対応させることで、精密計測と収集の両面が見える。ただし買主の職業だけで、ある時計が航海に実用されたと断定することはできない。131415

メーカー史によれば、1808–1814年にスペイン王族は三点を取得し、1814年には英国の摂政皇太子、後のジョージ4世も大型作品を購入した。後者は鍍金した青銅の円錐に取り付けられた時計で、ケースを持ち歩く懐中時計とは形態が異なる。王の名が同じ英国の顧客でも、ジョージ3世のNo.1297と混同してはならない。2

製作数も集計範囲を区別する必要がある。エマニュエル・ブレゲの工房史は、1796–1829年の40点を時計35点とその他の作品5点に分ける。これはブレゲ本人の死後を含む製作の集計で、本人の生前に35点を販売したというメーカー年史の記述と、数だけを直接比較することはできない。24

初期と現代を比較する視点#

初期の作品は、回転機構を載せるだけでなく、文字盤の読みやすさ、秒の観測、巻上げ残量、温度の確認を一つの器械へまとめていた。No.1297の温度計は、その時計がどの温度で進み遅れを示したかを考えるための表示であり、温度を示すこと自体が温度誤差を打ち消すわけではない。表示する機能と、誤差を補償する機能を分けて見ることが大切である。1314

現代の片持ち式や多軸式では、枠と調速機の動きを見せることも製品の構成に入る。しかし、初期の時計をすべて実益だけの器械、現代の時計をすべて装飾だけの器械と分けることはできない。No.1188には文字盤交換の履歴があり、機械と外観は長い使用の中で変化した。プレシェルは芸術性を明示し、オメガやグリュベル・フォルセイの記録は試験成績を伝える。機構に期待する役割は、製作者と作品ごとに異なる。108933

また、トゥールビヨン、フライング、二軸、複数基、自動巻きは、別の設計項目を指す。トゥールビヨンは調速機を回す方法、フライングは枠の支持、二軸は回転の幾何学、複数基は調速機の個数、自動巻きは主ゼンマイへエネルギーを補給する方法である。一つの時計がこれらを併せ持つことはできるが、一方の名称から他方の有無を推定することはできない。1819262832

カルーセルと片持ち支持#

Bonniksenの別経路#

カルーセル(carrousel、karussel)も調速機を回すが、固定車を利用するトゥールビヨンとは給力経路が異なる。Bahne Bonniksenの米国特許US549287は、英国特許第21421号の日付を1892年11月24日と記す。米国では1894年1月18日出願、1895年11月5日特許付与である。同じ発明の国別手続を、異なる発明年として数えるべきではない。18

原図では三番車AからB・Cを経る経路が脱進機へ力を送り、同軸のピニオンHからGを経る別経路が杯状の回転台Dを回す。本文に示す52.5分の周期は、7.5分と歯車比7を用いた実施例であり、他の比と速度も許している。したがって「52.5分ならカルーセル、一分ならトゥールビヨン」という判別はできない。18

現代のブランパンは2008年に一分回転のフライング・カルーセルを発表した。さらに2013年のTourbillon Carrouselでは、トゥールビヨンとカルーセルを別々の香箱で駆動し、差動装置で二つの出力を一つの時刻表示へ結ぶ。いずれも一分回転であり、相違の中心は速度ではなく駆動方式にある。外周の巻上げリングで離れた二香箱を巻くという実装も、複数の調速機を一つの時計へ収める課題への答えである。1920

フライングは支持方式を表す#

フライング・トゥールビヨンは、上側を横切る橋を省き、片側から回転枠を支える方式である。上からの見通しがよくなる一方、支持部の寸法と剛性、軸受配置が重要になる。片側支持は「軸受が必ず一個」という意味ではなく、近接する二つの軸受で支える設計もある。21

グラスヒュッテのメーカー史は、1920年に時計学校のアルフレッド・ヘルウィグと生徒がこの方式を製作したとする。ただし1920年の原機の現所在と、後年の記念モデルや復元は分ける必要がある。2020–2021年のWempeカタログは原機を所在不明と記している。2122

英国にも、上側の支持を省いた実物例がある。Curtis D. Thomsonが整備したJoseph White & Sonsの時計は、下側の石入り管と中空鋼柱で枠を支え、固定車を持つ。著者は外周150歯と25歯の歯車による六分回転を報告する。別のFrodsham No.08895は十二分回転で、1902年のKew試験記録に結び付く。これらは実物の設計差を示し、「片持ちはすべて一分」「英国の先行案は実用されなかった」と一括することはできない。2324

Northに帰属される英国特許は原公報の本文を確認できていないため、ここで述べた構造は整備者・現物調査者の報告に基づく。特許の出願・付与日や世界初の範囲までは確定しない。2324

腕時計への実装と競技#

試験機構と市販品#

LIPの現在の公式史は、T18に関わるEdouard Belinのトゥールビヨンを1947年に位置付ける。試作品、競技用ムーブメント、販売用腕時計を一つの「世界初」にまとめることはできない。25

オメガは1947年、直径30mmのCal.30Iトゥールビヨン機構を12個製作した。公式記録は1947–1952年にジュネーブ、ヌーシャテル、Kewで試験したと述べ、1950年のジュネーブで腕時計部門の従前最高成績を記す。2017年にPhillipsで1,428,500スイスフランで売却された試作腕時計は、この12機構のうちの一個ではなく、別の試作品と説明される。8

これはトゥールビヨンを組み込んだ競技用機構が高成績を得た具体例である。ただし天文台での試験と、毎日腕に着けたときの歩度は測定環境が異なる。また一つの優れた個体の結果から、すべてのトゥールビヨンの性能を推定することもできない。8

自動巻きと薄型化#

オーデマ・ピゲのModel 25643、Cal.2870は1986年の自動巻きトゥールビヨン腕時計である。同社史は世界初の自動巻き式と位置付け、ハンマー状の巻上げ重りを説明する。回転枠の直径は7.2mm、ケースの厚さは5.3mmであり、二つの寸法を混同してはならない。26

近代ブレゲのRef.3350、Cal.558については、現在の公式英語・ドイツ語資料が初腕時計を1989年、フランス語が1988年とする。1980年代後半に腕時計へ展開した事実と、一年の資料差を分ける必要がある。現行のClassique 7357はこの系列を継ぐCal.187Bを用いる。27

多軸化、高速化、材料#

入れ子の回転と独立した複数基#

枠を二重にし、一つの枠の中で別の枠を回せば、テンプの向きは単一平面を巡るだけではなくなる。これは独立した調速機を二基並べる方式とは違う。グリュベル・フォルセイのDouble Tourbillon 30°は、内側が一分、外側が四分で回り、内側の回転軸を30度傾けた入れ子構造である。2004年に発表された。28

ジャガー・ルクルトのGyrotourbillon Iは2004年、IIは2008年、IIIは2013年である。IIIは球面ひげゼンマイを用い、内側一分・外側二分半の回転を持つ。Sphérotourbillonの発表は2012年であり、名称が似たモデルの年やひげの形を混ぜてはならない。2024年には三軸のHeliotourbillonが発表された。2930

トーマス・プレシェルの本人史は、2003年の二軸懐中時計と、2004年の単軸・二軸・三軸腕時計からなるTrilogyを区別する。原特許WO2004077171A2は2003年2月27日優先、2004年2月26日国際出願、同年9月10日公開で、三軸が必ずしも一点で交わらず、互いに直交する必要もない設計を説明する。公開日は作品の完成日と同じではない。3132

現行のTriple Axis Tourbillon Regulatorでは第三軸は一時間で回る。プレシェルは精度改善だけでなく、機械芸術としての価値を強調している。多軸化の数だけで全製品の優劣を並べるより、どの向きを巡るのか、どの周期か、何を目的として作ったかを見る必要がある。33

内側の調速機と、その周囲を取り囲む別方向の回転枠を持つ二軸トゥールビヨン

二軸トゥールビヨンの機構。写真原題:Double axis tourb。原出典は1980年に置時計へ組み込まれた機構と説明する。写真作者:Charles Restalic。出典:Wikimedia Commonsの個別ファイルページ。ライセンス:CC BY-SA 3.0 Unported。変更:なし。現代の特定ブランドの腕時計や、その最初の作品を示す写真ではない。

速く回すための設計#

グリュベル・フォルセイのTourbillon 24 Secondesは、25度傾けた枠を24秒で一周させる。技術表では枠が88部品、0.39gで、軽合金の柱、チタンの橋、金の釣合い錘を持つ。メーカーは高速・傾斜回転のため、固定車とピニオンの歯形も開発したと説明する。速い回転は単なる歯車比の変更ではなく、軽量化と給力の設計を伴う。734

同社は2011年の競技でDouble Tourbillon 30°が1,000点中915点を得たと記録する。この点数は24秒モデルの数値ではなく、日差に読み替えることもできない。開発者の設計意図、競技で評価された完成時計、回転方式そのものの効果を区別することが重要である。9

素材、給力、製造と保守#

ブレゲのTradition 7047では、チタンの枠とシリコンのひげゼンマイを用いる。メーカーは枠を2010年以来チタン製としている。枠の質量を減らす仕事と、ひげの重心・弾性・形状を設計する仕事は関連するが、同じものではない。チタンを使うことから時計全体の耐磁性能を推定したり、シリコン部品だけから無潤滑・無保守と判断したりはできない。27

薄型化には、部品の材質以外に給力位置の変更もある。ブレゲの薄型式は、枠の下に置く駆動ピニオンの代わりに枠の外周へ力を送り、固定車も外側の歯付きリングにする。上下の積み重ねを減らしながら、固定部に対して回る枠と脱進機の関係を保つ設計である。3

製造工程の難しさは、部品点数だけでは表せない。No.1188の分解観察は釣合い調整の実物を示し、Joseph Whiteの整備記録は支持部と輪列を再稼働させる過程を示す。これらは個別の加工・調整・保守を理解する資料になるが、業界全体の歩留まりや寿命の統計ではない。公差の数値や推奨整備間隔も、仕様が得られない製品へ一律に与えることはできない。1023

2025年のClassique Tourbillon Sidéral 7255は、ブレゲの腕時計として初のフライング式であり、支持の見えにくい「ミステリアス」な表示とも組み合わせる。これは同社内の初採用であって、フライング式全体の発明年ではない。2026年には特許225周年に合わせ、7357やMarine 5887の新しい展開も行われた。原理を継ぐことと、現在の製品の支持・給力・意匠を改めることが並行している。27

アジアでの採用と独立時計師#

矯大羽(Kiu Tai Yu)は、中国出身の独立時計師としてトゥールビヨン腕時計を製作し、1992年にAHCIへ加入した。1992年は加入年として確認できる一方、初作年とは区別が必要である。娘への取材を含むPhillipsの紹介は、1990年のバーゼル訪問の翌年に初作を完成させたとするが、同じ記事の冒頭は1990年完成とも記す。この相違を残しても、1990年代初頭に独立製作の重要な担い手となったことは説明できる。3536

中国のSea-Gullは自社史でトゥールビヨンの市場投入を2005年、ダブル・トゥールビヨンを2007年と記す。日本のケンテックスは自社の生産成功を2006年とし、Classic Grand 3の一分フライング式を紹介する。同社のE436M-01にはTY800手巻き機構を記載するが、型番だけから製造元や製造国を断定することはできない。製品展開の事実と、販売価格・生産数量・国産の範囲は別に検証すべき項目である。373839

浅岡肇についてAHCIは、2005年に時計製作を始め、2009年に日本初の自社製トゥールビヨン搭載腕時計を製作し、2011年に自己ブランドとして販売を始めたと記す。製作と販売の年を分けることにより、独立時計師の試作が継続的な製品へ移る過程が分かる。また同資料はProject Tの支持にボールベアリングを挙げ、伝統的な宝石軸受以外の実装例も示す。40

年表#

時期成立・作品・改良
1775年ブレゲがパリに工房を開く。4
1796年メーカー史によるNo.282の製作開始。販売は1832年で、着手・完成・売却を区別する。4
1800年12月25日INPI原記録にある特許出願の受理日。1
1801年6月26日十年のトゥールビヨン特許付与。1
1805年メーカー史の最初の商業販売。2
1806年9–10月アンヴァリッドで一般公開。2
1808年No.1188をDon Antonio、No.1297をジョージ3世が取得。1113
1809年No.1176をポトツキ伯へ販売。No.169をアーノルドの息子へ贈呈。122
1812年3月21日No.2567をル・ビゴへ販売。15
1814年英国摂政皇太子が大型トゥールビヨン時計を購入。2
1832年No.282が息子の代に販売される。4
1892年11月24日Bonniksenの米国特許に記載された英国特許第21421号の日付。18
1895年11月5日Bonniksenの米国特許US549287付与。18
1902年Frodsham No.08895のKew試験。後年の現物調査は十二分回転・片持ち式と記す。24
1920年Helwigと時計学校の生徒が片持ち式を製作したとするメーカー史。22
1947年LIP公式史のBelin/T18。オメガは競技用Cal.30Iを12個製作。258
1950年オメガ公式史にあるジュネーブ腕時計部門の従前最高成績。8
1986年AP Model 25643、Cal.2870自動巻きトゥールビヨン。26
1980年代後半近代ブレゲRef.3350。公式多言語資料には1988/1989の差。27
1990年代初頭矯大羽の腕時計製作。1992年AHCI加入。3536
2003年プレシェルが二軸懐中時計を展示。三軸特許の優先年。3132
2004年JLC Gyrotourbillon I、GF Double Tourbillon 30°、プレシェルTrilogy腕時計。282931
2005年Sea-Gullの公式史が記すトゥールビヨン市場投入。37
2006年ケンテックスの自社史が記す生産成功。38
2008年JLC Gyrotourbillon II、ブランパンの一分フライング・カルーセル。2920
2009年AHCIが記す浅岡肇の自社製トゥールビヨン腕時計。40
2011年浅岡の自己ブランド販売開始。GFが競技で915点と記録。409
2012年JLC Sphérotourbillon。30
2013年JLC Gyrotourbillon III。ブランパンTourbillon Carrousel。2919
2017年1947年のオメガ試作腕時計がPhillipsで売却。8
2024年JLCが三軸Heliotourbillonを発表。30
2025–2026年ブレゲSidéral 7255、7357、Marine 5887の新しい展開。225周年の現代的継承を示す。27

資料から分かる範囲#

トゥールビヨンには、発明者の効能説明、個別時計の現物観察、競技の成績、現代の力学解析という異なる種類の証拠がある。Xu、Ko、Duの2011年論文は、著者機関の抄録によれば偏微分方程式とフーリエ展開を使って機械式時計を解析した研究である。本稿では論文本文を取得できておらず、特定の比較実験や搭載・非搭載時計の改善量をその論文の結論として示さない。Dennyの2010年論文も書誌・抄録までの確認であり、本文を実読した技術根拠には含めていない。4142

初期作品についても、販売証明書や制作台帳の内容を、博物館、競売会社、公的審査報告が引用した場合がある。引用元の原画像を直接確認した場合とは区別が必要である。それでもNo.1188、1176、1297、2567の回転周期と脱進機の違い、支持や表示の具体像は、複数の現物記述から説明できる。トゥールビヨンの理解には、単純な発明年や軸数だけでなく、動力の経路、作品ごとの設計、測定された性能の条件を合わせて見ることが欠かせない。10121415

参考文献#

閲覧日:2026年10月15〜17日。現物・原文の実読範囲と、未読の参考情報を区別する。

  1. INPI, 特許資料1BA1792, Abraham-Louis Breguet, régulateur à tourbillon, 1800–1801年。技術説明画像02–05、受理記録19、書簡22、付与文書23–24、図25。
  2. Montres Breguet, Patent granted for a completely new type of regulator called the “Tourbillon”, メーカー年史、1801年の項。
  3. Montres Breguet, Principles of the Tourbillon, Quai de l’Horloge、機構と現代の給力方式。
  4. Emmanuel Breguet, The tourbillons of the inventor, Quai de l’Horloge、工房史。
  5. Montres Breguet, Classique 7225, フランス語版の公開表示2025年10月20日、No.1176の来歴。
  6. Emmanuel Breguet, À propos de la naissance du Tourbillon, 本人書簡の再録を含むメーカー史。
  7. Greubel Forsey, Tourbillon 24 Secondes technical sheet, 1頁。Architectureとは別モデル。
  8. OMEGA, 1947 Tourbillon sells at auction, 2017年、12機構と別試作腕時計。
  9. Greubel Forsey, Histoire, 2011年競技の項、当事者記録。
  10. The Naked Watchmaker, Decon Breguet Tourbillon 1188, 分解者による実物観察。
  11. Antiquorum, Breguet No.1188, Lot 127, 2002年、現物記述・1927年証明書の報告。
  12. Christie’s, Breguet No.1176, 2014年、現物記述・2014年3月証明書の報告。
  13. UK DCMS, King George III’s watch at risk of leaving the country, 2021年1月29日。
  14. Reviewing Committee on the Export of Works of Art, Annual Report 2020–21, 印刷31–32頁、Case 8。
  15. Breguet Museum, Treasures en voyage, Grandes Complications, 2024年の配布資料、1頁、No.2567。
  16. Antiquorum, Breguet No.2567, Lot 196, 2005年、現物・来歴。
  17. Montres Breguet, Classique 7225 日本語版, 2025年10月22日。仏語版との製作順の差に注意。
  18. Bahne Bonniksen, US549287A, Watch, 1895年11月5日、原図1頁・説明3頁。
  19. Jeffrey S. Kingston, Le Brassus TOURBILLON CARROUSEL, Lettres du Brassus, Issue 14、2013年モデルの開発・二香箱・差動装置。
  20. Blancpain, One minute – Flying Carrousel, メーカー技術史。
  21. Wempe, Meisterwerke der Uhrmacherkunst 2020–2021, 印刷61頁、本文抽出を実読、原頁画像未照合。
  22. Swatch Group, A tribute to a genius of Glashütte art of watchmaking, 2020年9月28日。
  23. Curtis D. Thomson, Joseph White & Sons Pocket Watch, Horological Times, 30(7), 2006年7月、印刷8–12頁。International Watch, 2006年2月から許諾再録。
  24. Christie’s, Charles Frodsham No.08895, 2011年証明書を含む現物記述。
  25. LIP, T18 Original, メーカー史。
  26. Audemars Piguet, The epic AP saga, AP Chronicles, 1980年代の項。
  27. Montres Breguet, Sorry Isaac 英語版、フランス語版、ドイツ語版, 2026年、7357・7047・5887・7255の項。
  28. Greubel Forsey, Double Tourbillon 30°, 製品史と構造。
  29. Jaeger-LeCoultre, Tourbillon multi-axes, Gyrotourbillonの世代別説明。
  30. Jaeger-LeCoultre, The Mastery of Precision, 2024年4月9日。
  31. Thomas Prescher, Company History, 本人による展示・製作史。
  32. Thomas / Heike Prescher, WO2004077171A2, 2004年9月10日公開、全11頁。
  33. Thomas Prescher, Triple Axis Tourbillon Regulator, 現行仕様と本人の製作意図。
  34. Greubel Forsey, Invention Piece 3, 高速傾斜回転の設計説明。
  35. AHCI, Kiu Tai Yu, 会員略歴、1992年加入。
  36. Logan Baker, Phillips, Remembering Kiu Tai Yu, 娘Peonyへの取材を含む。初作年の記述に内部差。
  37. SEA-GULL, Über uns, 2005・2007年のメーカー史。
  38. ケンテックス, トゥールビヨン, 生産史・Classic Grand 3。
  39. ケンテックス, E436M-01, TY800の製品仕様。
  40. AHCI, Hajime Asaoka, 会員略歴と作品説明。
  41. Gu Xu, P. H. Ko, R. Du, A study on the precision of mechanical watch movement with tourbillon, Journal of Sound and Vibration 330(16), 2011年、4019–4028頁、DOI:10.1016/j.jsv.2011.03.020。著者機関の書誌・抄録のみ実読、論文本文未読。
  42. Mark Denny, The Tourbillon and How It Works, IEEE Control Systems Magazine, 2010年、DOI:10.1109/MCS.2010.936291。書誌・抄録のみ確認、本文未読。